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幹細胞・2a

 マーガレットは、すべてが満たされた環境に生まれた。彼女の本当の名は、マルガリータ・ブルガリス・インペトロスという。彼女は生まれながらに富豪だった。直接の先祖はスペイン王国のハプスブルク家とされているが、血縁関係があまりにも複雑に絡み合っているために、実際には世界中の王族の血を少しずつ受け継いでいた。


 かつてハプスブルク家は、その「高貴なる青い血」を守るために近親婚を繰り返してきたという歴史を持つ。近親交配による遺伝疾患によって、ハプスブルク家の人々は代々病に苦しめられ、やがて二十世紀の初頭に王朝を失った。


 インペトロス家は、十八世紀の半ばにハプスブルク家から分かれた後、独自の道を歩んだ。彼らはヨーロッパだけでなく、アジアやアフリカ、中東や南米などにも手を広げ、各地の有力者たちと婚姻関係を結んだ。


 人種や民族の壁を超えて混ざり合った血は、インペトロス家の人々にエキゾチックな肉体を与えた。マーガレットの黒い宝石のような瞳と、絹のような艶やかな黒髪、そして、ギリシャ彫刻のような黄金比に基づいたプロポーションは、そうした長く複雑な歴史を持つ血統の賜物だった。


 本当の貴族は表舞台には立たない。彼らはつねにピラミッドの頂点にいて、下から上へと自然に流れてくる富を苦もなく享受する。彼らがその富のために努力をする必要はない。すべては周りの人間が代わりにやってくれる。


 生まれながらに富が手元にある人間と、必死になって富にしがみつかなければならない人間との間には、歴然とした断絶がある。前者は富がさらなる富を呼ぶエデンに等しい世界に住んでいるのに対し、後者は食うか食われるかの修羅の世界に生きている。マルガリータは、その前者の環境の中で、死ぬまで何不自由なく暮らすはずだった。


 マルガリータが六歳のとき、彼女は両親と共にスペインのカルタヘナにいた。そこは地中海を臨む歴史のある港町だ。ローマ帝国の遺跡と、現代のモダンな建物が混在し、物流の要所としての活気に満ちている。


 マルガリータの両親は、そこに小さな子供たちを連れて訪れていた。父の趣味は料理をすることだった。カルタヘナには、ここでしか手に入らない本場の海の幸があった。彼はここのレストランをいくつか所有していたので、その厨房を使って、家族に手作りの海鮮料理を振る舞おうと考えたのだった。


 港の市場には、人々が溢れていた。高級車から降りたマルガリータたちの一家は、さまざまな魚や野菜や果物が山と積まれている光景に夢中になった。父は搾りたてのオリーブ油を吟味するために、ある店先からしばらく動こうとしなかった。


 退屈したマルガリータは、一人で冒険に出ることにした。それがすべての始まりだった。

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