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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第七話「野良ギャング三姉妹と捕まった男」
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野良ギャング三姉妹と捕まった男・4b

 貨物船の周囲には、クロノ市警の特殊装甲宇宙船が集結していた。


 エディ・マーカス警部たちの二隻の船が地上のハッチから躍り出たときには、ギャングたちの影は一つ残らずかき消えていた。水先(パイロット)船を操っていたマルコ・アントニオ・アルベルティーニの行方も、突然蒸発したかのように、跡形もなくなっていた。


 マーカス警部は宇宙船から降りると、まずは貨物船の周囲を探った。全長が百メートルを超えているミリオナリオス財団の貨物船は、間近で見上げるとすさまじい迫力だった。


 へし折られた木々の残骸が、捜索を困難なものにしていた。ブナとモミが共生する広葉樹の森は、じめじめとした腐葉土と、鬱蒼と茂った葉によって、人間の侵入を拒絶しているかのようだった。

 マーカス警部は角刈りの頭をしきりに掻いた。姿の見えない虫の大群が顔の周りを飛び回っていた。広い肩幅、たくましい二の腕、はちきれそうな大胸筋を誇る彼であっても、耳や鼻や目を狙って飛んでくる正体不明の羽虫にだけは敵わなかった。


「トミー、ちょっと船に戻って虫よけを取ってきてくれ」

 マーカス警部は半ば懇願するようにそう部下に命じた。若い警官のトミーは「アイアイ・サー」と軽快に答えて、船のほうへと引き返した。


 まったくあてにしていなかった応援部隊の船を三隻、貨物船の向こうに発見したときには、マーカス警部は思わず感嘆の口笛を吹いた。しかし、肝心の獲物はすでに逃げ出した後だったから、せっかくの機敏な応援も無駄に終わった。


「生存者の捜索を消防隊に要請済みだ」

 マーカス警部はネビュラを使って、応援に来た仲間たちに伝えた。「俺たちは一歩遅かったようだが、望みを捨てるのは早いのかどうか、諸君の意見を訊いてみたい」


 応援部隊を指揮しているのは、第四階層グラスヒュッテ南第七分署からやって来たハリー・グラハム警部補だ。彼はマーカス警部とかつてバディとして働いていたこともある古い仲間だった。


 そのグラハム警部補は、輝くばかりにフレッシュな新人を隣りに従えていた。艶やかな黒髪をベリーショートに刈り込んだその女性警官は、今日初めて現場に出てきたばかりだった。グラハム警部補はその新人に良いところを見せようとしているのか、終始ご機嫌で、その口髭の端をめいっぱい吊り上げている。


 彼は言った。

「ここは一つ、研修がてら捜索をやってみようじゃないか」


 警察のネビュラには捜索モードが備わっている。そこにはクロノ・シティに住む二千万人のデータはもちろんのこと、世界中の犯罪者データベースが網羅されている。氏名・年齢・住所・国籍・指紋・DNA他、個人を特定できるあらゆる情報を一瞬で照合することが可能だ。


「では、マーガレット巡査、警察アプリを開いて、この周辺で隠れている者がいないか調べてみよう」

 グラハム警部補が呼び掛けると、マーガレットは「はい」と透き通るような初々しい声で答えた。


 すらりと背の高いマーガレットは、細身の身体に白い半袖のシャツと、膝上の黒いショートパンツを穿いている。敵との撃ち合いを想定していたため、腹部を覆う分厚いプレートアーマーと、関節を守るプロテクターも装着している。ロングブーツには鉄板が仕込まれており、五寸釘を踏みつけようが、至近距離から銃弾を撃ち込もうがびくともしない。


 彼女は黒髪をめいっぱい短く刈り込んでいたので、ただでさえ身長に対して不釣り合いなほど小さな頭が、さらに小さく、引き締まって見えた。彼女の黒い瞳とつり上がった太い眉が、その内面の強い意志をはっきりと表している。


「マーガレット、外に出る前にヘルメットを忘れるな」

「了解」

 グラハム警部補がまず先に宇宙船を降りた。続いてマーガレットが降り、その後を残りのメンバーがぞろぞろとついて行った。


 敵がすでに去った後なので、警官隊にはどこかくつろいだ空気が流れていた。軽い冗談を言う者、タバコをふかす者、おどけて仲間にちょっかいを出す者など、端から見たら警官たちとは思えないようなフランクな雰囲気だ。


 ボスのグラハム警部補は、そうした部下たちにいちいちやかましく注意することはしない。彼の目は現場全体にくまなく注がれており、いざ怪しいものを見つけたら、すぐに指揮が飛ばせる緊張感を保っている。


 警官たちはおのおの斧と鉈をたずさえていた。眼前には人の侵入を拒む深い藪があり、枝葉を切り開いていかなければ先へ進むことができない。貨物船のエンジンから噴き出す熱風は、この付近の生体反応を打ち消すノイズとして働いている。


「マーガレット、少し距離を置いて、俺の後をついてこい」

 グラハム警部補は彼女を自分の後ろに下がらせた。これから乱暴な男たちが斧と鉈を振り回そうとしている場所から、か弱い新人を離れさせようと思ってのことだ。


 しかし、マーガレットはその命令を拒否した。

「ボス、貨物船の真下に人影のようなものが見えます」

 走り出した彼女を、グラハム警部補は追いかけた。

「待て、それはどこの真下だ?」

「船首の方向です」


 ここから船首に向かうには、なぎ倒された木々を大きく迂回しなければならない。マーガレットははるか横方向へと、全速力で走り始めた。


 グラハム警部補はネビュラのモードを様々に切り替え、彼女が言っている船首方向の船底を探ってみるが、可視光も、赤外線も、音声視覚変換サウンド・ビジュアル・コンバーター(音の大小を光の強弱として表す)も、そこに人がいることを何一つ示さなかった。


 マーガレットは、そこに何を見たというのだろうか? 新人ゆえの混乱がそういう行動を起こさせているのかもしれないという疑念を抱きつつも、グラハム警部補は彼女の後を追いかけた。

 4cに続きます。

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