野良ギャング三姉妹と捕まった男・4a
「ステファニー、大丈夫かい?」
暗闇の中に、男の声が聞こえる。
「あなた、誰?」
「マルコだよ」
少年のような見た目のくせに、意外に低音なマルコの声が、光ひとつない暗闇の中に響いている。
「マルコ、どこにいるの?」
「すぐそばにいるよ」
ステファニーは手を伸ばしてみるが、虚空をかき回すだけで、何の感触もない。
「嘘でしょ、マルコ、どこにもいないじゃないか。私、きっと夢を見ているんだな」
「気をしっかり持て、ステファニー。大きく口を開けて深呼吸するんだ。意識がはっきりするように、がんばれ」
彼女は言われた通りに深呼吸しようとするが、喉が詰まったようになっていて、思うように息を吸ったり吐いたりできない。
「がんばれ、しっかりしろ」
「王子様がキスしてくれたら、目が覚めるかもしれないよ」
「しっかりしろ、ステファニー」
彼女の軽口は、マルコにまったく届いていないようだ。相変わらず視界は真っ暗で、ときおり白い稲光のようなものがちかっちかっと明滅している。
どんどんどん、どんどんどん、という、不思議な振動をステファニーは感じ始めた。遠くで太鼓を叩くような音だ。鼓笛隊のパレードが賑やかに近づいてきているような感じ。それがみるみるうちに意識の底から盛り上がってきて、彼女の足先からお尻を伝って、一気に頭の先まで突き抜けた。
突然に目が開いて、眩い空を背景にした、マルコの顔がこちらを見下ろしていた。
「気がついたかい? ステファニー」
「ここどこ? 天国なの?」
「君が天国に行けるわけないだろう」
意識がはっきりしても、鼓笛隊の太鼓の音のようなものは鳴りやまなかった。次第に彼女は理解し始めた。自分は今、マルコの腕に抱かれて逃げている真っ最中なのだ。太鼓のような音は、彼女の身体が上下に揺さぶられて立てていた音だった。首ががくんがくんと揺れて、脳みそがひどくかき回されている。
なぜそんなに頭が揺れているのかというと、マルコはなぜかステファニーをお姫様抱っこで運んでいたからだった。彼女のブロンドの髪が垂れ下がり、地面の草を撫でている。
「ステファニー、気がついたんなら申し訳ないけど、君の腕を僕の首に回してくれるかい?」
「生意気言うんじゃないよ」
文句を言いながらも、彼女は言われた通りに腕を彼の首に絡めた。ようやく頭ががくんがくん揺さぶられなくなって、景色がはっきり見えるようになった。
「なんで、私があんたに運ばれているの?」
マルコが走っていたのは、はるかかなたまで広がっているように見える湖のほとりだった。遠くのほうに、愛車の黒いジープが持ち主を待っているのが、ステファニーの目に飛び込んできた。
車があっちにあるということは、貨物船はその反対側だ。
ステファニーは抱っこされた姿勢のままで首をぐいと後ろに回した。そこには確かに、不時着したミリオナリオス財団の白い貨物船が横たわっていた。周囲にはなぎ倒された木々が累々と連なっており、そこかしこで細い煙の筋が立ち昇っている。あの貨物船には、何か月も前から渇望してやまなかった財宝が眠っているはずだ。そのお宝が、みるみる背後に遠ざかっていく。
「ばか、なんで反対に向かって走っているんだよ」
「警察に僕らの動きを嗅ぎつけられたからだよ」
「ばかだね、そんなの最初から織り込み済みだよ」
「そういうわけにもいかないんだよ」
「お前に何がわかるんだよ、素人のくせに」
やり込められたマルコは渋い顔をした。しかし、彼の走りは勢いを保ち続けた。華奢な体格のくせに、なかなかどうして意外な力強さを彼は披露していた。わざわざ不安定なお姫様抱っこでステファニーを運んでいるのは、土壇場の火事場のバカ力が彼を動かしていたからだった。
「君は知らないだろうから教えてあげるよ」
マルコは、あえて挑発するように言った。「君が知らないことを、僕は知っているんだ」
「減らず口が止まらないみたいだね」
ステファニーは思わず彼に平手打ちを食らわせそうになったが、そうすると自分が地面に叩きつけられることに気づき、とっさに自重した。「何を知ってるっていうんだよ?」
「じゃあ、教えてあげるよ」
もったいぶって、彼は息を切らせながら言った。「マーガレットが警察に就職したんだ。だから向こうの動きがこっちには筒抜けなのさ」




