表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第七話「野良ギャング三姉妹と捕まった男」
56/111

野良ギャング三姉妹と捕まった男・4a

「ステファニー、大丈夫かい?」

 暗闇の中に、男の声が聞こえる。

「あなた、誰?」

「マルコだよ」

 少年のような見た目のくせに、意外に低音なマルコの声が、光ひとつない暗闇の中に響いている。

「マルコ、どこにいるの?」

「すぐそばにいるよ」


 ステファニーは手を伸ばしてみるが、虚空をかき回すだけで、何の感触もない。

「嘘でしょ、マルコ、どこにもいないじゃないか。私、きっと夢を見ているんだな」

「気をしっかり持て、ステファニー。大きく口を開けて深呼吸するんだ。意識がはっきりするように、がんばれ」


 彼女は言われた通りに深呼吸しようとするが、喉が詰まったようになっていて、思うように息を吸ったり吐いたりできない。

「がんばれ、しっかりしろ」

「王子様がキスしてくれたら、目が覚めるかもしれないよ」

「しっかりしろ、ステファニー」


 彼女の軽口は、マルコにまったく届いていないようだ。相変わらず視界は真っ暗で、ときおり白い稲光のようなものがちかっちかっと明滅している。

 どんどんどん、どんどんどん、という、不思議な振動をステファニーは感じ始めた。遠くで太鼓を叩くような音だ。鼓笛隊のパレードが賑やかに近づいてきているような感じ。それがみるみるうちに意識の底から盛り上がってきて、彼女の足先からお尻を伝って、一気に頭の先まで突き抜けた。


 突然に目が開いて、眩い空を背景にした、マルコの顔がこちらを見下ろしていた。

「気がついたかい? ステファニー」

「ここどこ? 天国なの?」

「君が天国に行けるわけないだろう」


 意識がはっきりしても、鼓笛隊の太鼓の音のようなものは鳴りやまなかった。次第に彼女は理解し始めた。自分は今、マルコの腕に抱かれて逃げている真っ最中なのだ。太鼓のような音は、彼女の身体が上下に揺さぶられて立てていた音だった。首ががくんがくんと揺れて、脳みそがひどくかき回されている。


 なぜそんなに頭が揺れているのかというと、マルコはなぜかステファニーをお姫様抱っこ(ブライダル・キャリー)で運んでいたからだった。彼女のブロンドの髪が垂れ下がり、地面の草を撫でている。


「ステファニー、気がついたんなら申し訳ないけど、君の腕を僕の首に回してくれるかい?」

「生意気言うんじゃないよ」

 文句を言いながらも、彼女は言われた通りに腕を彼の首に絡めた。ようやく頭ががくんがくん揺さぶられなくなって、景色がはっきり見えるようになった。


「なんで、私があんたに運ばれているの?」

 マルコが走っていたのは、はるかかなたまで広がっているように見える湖のほとりだった。遠くのほうに、愛車の黒いジープが持ち主を待っているのが、ステファニーの目に飛び込んできた。

 車があっちにあるということは、貨物船はその反対側だ。


 ステファニーは抱っこされた姿勢のままで首をぐいと後ろに回した。そこには確かに、不時着したミリオナリオス財団の白い貨物船が横たわっていた。周囲にはなぎ倒された木々が累々と連なっており、そこかしこで細い煙の筋が立ち昇っている。あの貨物船には、何か月も前から渇望してやまなかった財宝が眠っているはずだ。そのお宝が、みるみる背後に遠ざかっていく。


「ばか、なんで反対に向かって走っているんだよ」

「警察に僕らの動きを嗅ぎつけられたからだよ」

「ばかだね、そんなの最初から織り込み済みだよ」

「そういうわけにもいかないんだよ」

「お前に何がわかるんだよ、素人のくせに」


 やり込められたマルコは渋い顔をした。しかし、彼の走りは勢いを保ち続けた。華奢な体格のくせに、なかなかどうして意外な力強さを彼は披露していた。わざわざ不安定なお姫様抱っこでステファニーを運んでいるのは、土壇場の火事場のバカ力が彼を動かしていたからだった。


「君は知らないだろうから教えてあげるよ」

 マルコは、あえて挑発するように言った。「君が知らないことを、僕は知っているんだ」

「減らず口が止まらないみたいだね」

 ステファニーは思わず彼に平手打ちを食らわせそうになったが、そうすると自分が地面に叩きつけられることに気づき、とっさに自重した。「何を知ってるっていうんだよ?」


「じゃあ、教えてあげるよ」

 もったいぶって、彼は息を切らせながら言った。「マーガレットが警察に就職したんだ。だから向こうの動きがこっちには筒抜けなのさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ