野良ギャング三姉妹と捕まった男・2b
相対速度がゼロになった貨物船は、森の上にぴったりと静止している。
ステファニーは森の入り口でジープを止めると、助手席に置いてあったアサルトライフルを手に取った。弾薬は他のピストル弾などと混じらないように、手製のきんちゃく袋にまとめてある。きんちゃく袋を腰のベルトに結わえ付け、ライフルのストラップを肩にかけると、彼女は勢いよく車から飛び降りた。
外はものすごい風だ。回転する第二階層の島と、上空の貨物船との間に狭い空間ができているせいで、圧縮された大気が吹き抜けている。
本来ならば荷電粒子銃などを使って優勢に戦いを進めたいところだが、あいにくそういった最新の武器を買えるだけの資金がなかった。ならば、昔ながらの戦法でやるだけだ。
ステファニーは皮ベストの胸のポケットからサングラスを取り出した。これは眩しさや強風から目を守るだけでなく、こういった仕事をするときになによりも必要とされる機能を備えていた。
このサングラスは、彼女にとって一番大切なものを守ってくれる。彼女にとって一番大切なものとは、すなわち「自由」だ。このサングラスは、彼女の本当の姿を他人から隠してくれる。ノイズ電波を発生させることによって、視覚や聴覚の情報を変化させる。その効果は半径二メートルの範囲に及び、カメラや他人のネビュラに記録されることを防いでくれるのだ。
このサングラスの驚くべき機能は、身長や体型、さらには声や匂いなどの情報までもを、まったく違うものに変化させることができることだ。単純に不鮮明で判別不能な姿に変えることもできるし、まったく別人の姿に見せかけることもできる。そして、もしそう望むなら、ほとんど透明になることもできる。
ステファニーは透明になるのはつまらないから、いつものお気に入りのスタイルを守って、ただ顔だけをごまかすことを好んだ。このきれいな金髪と鍛え上げた肉体は、できるだけ人に見せつけたいのだ。
ステファニーのネビュラに、姉のアレクサの柔らかな声が届いた。
「ステファニー、どんな調子?」
「もうすぐ着陸するとこ。私はもう車から降りて、船尾の真下辺りを追っているよ」
「上ばかり見ていないで、足元にも注意しなさいよ」
「わかってるって」
そう答えた瞬間に、ぐずぐずに腐った腐葉土に膝まで突っ込んでしまったことは、姉には内緒だ。
「人には見られなかった?」姉は訊いた。
「途中で牛飼いの少年とすれ違ったけど、大丈夫だよ」
「大丈夫だよ……、って、顔は見られなかったの?」
サングラスを掛ける前に少年とすれ違ったのは、ステファニーにとっても誤算だった。ただ、少年が起き上がってお互いに気づいたときにはほとんどすれ違っていたし、あの一瞬で顔をしっかり記憶(あるいは記録)できるとも思えない。
「顔までは見られていないと思うよ」
「本当に?」
「見られていたとしても一瞬だし、大丈夫だよ。だって、私、見ての通りの美人でしょ。美人ほど特徴がないって言うじゃない。後から思い出そうとしても、『あの美しい人……』としか答えられないんじゃないかな」
「はいはい」
アレクサは適当に受け流した。「それよりあなた、自分の好みだからって、その少年に変に情けを掛けたりしていないよね? マルコのときに、もうこれが最後だって約束したよね?」
「神に誓って、仕事に私情を挟んだりなどいたしておりません」
ステファニーはきっぱりと言い切った。
「それならいいけど」
アレクサは、ここでようやく本題に入った。「もうすぐそっちにマーガレットが行くから、合流したら一緒に貨物船に突入してちょうだい」
「了解。ところで、マギーはどんな船で来るの?」
「見てのお楽しみなんだって」
「なんだよ、あいつ、もったいぶりやがって」
ステファニーは次第に息が上がってきた。腐葉土に覆われた地面は沼のように柔らかくて、いちいち足を取られる。腰ではきんちゃく袋に入った弾倉ががちゃがちゃと音を立て、頭上からは貨物船のエンジンの轟音が鳴り響いている。森全体が、核融合エンジンから吐き出される熱風で満たされている。そのおかげで、もし警察や軍の追手がサーモグラフィで彼女の姿を探そうとしても見つけることはできないだろう。外気と彼女の体温とが混ざり合い、判別不能になっているからだ。
その恩恵の代償として、彼女の全身から汗が吹き出した。




