野良ギャング三姉妹と捕まった男・1a
【回転するクロノ・シティ】
一方その頃、回転するクロノ・シティの中で、必死に貨物船の不時着を試みている一団がいた。
「おい、マルコ、いつまでぐるぐる回ってるんだよ」
双眼鏡を目に当てている金髪の女が、足元でうずくまって機械を操作している男に強い口調で言った。彼女の長い髪は、上空を通過する貨物船が巻き起こした風でぐちゃぐちゃに乱れている。彼女の背丈はすらりと伸びて、長い脚をジーンズで包み、腰丈の頑丈な皮ベストに銃と弾薬をしこたま詰め込んでいる。むき出しの腕はほっそりしているが、筋肉は鍛えられていて引き締まっている。
男は這いつくばっている草むらから顔を上げた。
「水先船のジンバルが故障しているんだ。自動補正が利かないから手動で追っかけるしかないんだよ」
「言い訳するな、さっさとやれ」
金髪の女は、硬いロングブーツの底で男の背中を踏みつけた。
男はずいぶんと小柄で、まるで少年のような見た目だが、すでに立派に成人していた。彼が国から割り当てられたIDには、「マルコ・アントニオ・アルベルティーニ、国籍イタリア、年齢二十一歳」と書かれている。しかし、それは生まれたときに両親がくれた名前とは縁もゆかりもないものだ。彼の本当の戸籍はこの世にすでに存在していない。彼はしっかりとアイロンの効いたワイシャツに、折り目がぱりっとついた紺のスラックスを穿いている。卑屈な態度のわりに、服装はおしゃれだ。
「ステファニー、まだ降りられなそう?」
金髪の女のネビュラに、柔らかな女性の声が響いた。その声はまるで貴婦人のようにおっとりと落ち着いていた。
「ごめん、アレクサ、ちょっとマルコがてこずっちゃってさ」
ステファニーと呼ばれた金髪の女は前髪をかき上げると、悔しさと申し訳なさの混じった声で答えた。彼女がもう一度靴底で男を踏みつけると、男はのけぞり、「痛い」と悲鳴を上げた。
「無理しないで、危なくなったら、すぐ逃げるのよ」ネビュラの向こうのアレクサと呼ばれた女性は優しく言った。
「今までがんばって準備してきたんだから、なんとしてでも成功させてみせるよ」
ステファニーは双眼鏡を目に当てて、空を見上げた。何度目だかわからないほど上空を周回しているミリオナリオス財団の白い貨物船が、今回もまたむなしく通り過ぎていった。
今、ステファニーとマルコはクロノ・シティの第二階層にいる。クロノ・シティは回転によって生まれる遠心力を重力の代わりにしている。遠心力は「見かけの力」なので、回転する大地に触れた者にしかその力は働かない。つまり、そこに立つ者にとっては安定した揺るぎなき大地だが、離れた場所から接近している者にとっては音速で移動している物体なのだ。
複雑に回転するクロノ・シティの島に、管制からの補助なしに安定して着陸することは極めて難しい。それを今、マルコは手動で成功させようとしていた。
手持無沙汰のステファニーは、靴の底でマルコの背中をぐりぐりと踏みつけた。そのたびに「痛い痛い」という反応が返ってくるが、それを楽しんでいる余裕が今の彼女にはなかった。
すると、今度は別の女性の声がネビュラに届いた。その声は若々しく、明るく弾んでいる。
「ハーイ、ステファニー、そっちはうまくいってる?」
「この声がうまくいっているように聞こえる?」
「聞こえない」
二人とも、くすりとも笑わずに話を続けた。
「帰りの船は用意できたの? マギー」
「もう、ばっちりだよ」
マギーと呼ばれた若い声の持ち主ははしゃいでいる。「すごいの手に入れちゃった。きっと、姉さんたちも見たら驚くよ」
「そう、楽しみにしてる」
「まだ時間がかかりそう?」
「マルコ次第だね」ステファニーはため息をついた。
「ちゃんとしなかったら、あとできついおしおきだって言っておいて」
「おしおきなんか慣れてるから、そのくらいじゃこいつには効かないよ」
ステファニーはまた靴底でマルコの背中を踏みつけた。確かに慣れているようで、そのくらいで集中を乱されるような彼ではなかった。
いつしかマルコの口元には笑みが浮かんでいる。彼は目を機械の箱に向けたまま、こう言った。
「なんとかなりそうだ。ネビュラで落下地点を伝えるから、君は先に出発していてもいいよ」
「ようし、でかした」
ステファニーは金髪を振り乱して身をひるがえすと、広い草原を駆けていった。草原は球の形に上へ向かって反っている。はるか向こうに森で覆われた丘があった。




