宇宙へお引越し・1a
限界ギリギリまでスペースデブリを溜め込んだところで、ようやく回収の船がやってきた。
ツギハギだらけのグラフェン・シートの網は見事な作品だった。十人の新人宇宙消防士たちが、限られた時間の中で全力を出し合って作ったのだ。
仕事を終えてフラフラになったみんなを、先輩たちが迎えに来てくれた。第十七小隊の三国龍之介たちのチームと、第十八小隊の桃井華たちのチームはそれぞれ別の船でやって来た。
どこから支給されたのかわからない、臨時の消防宇宙船に先輩たちは乗っていた。元々あった船は、救助活動の間にデブリの衝突で大破してしまい、代わりの船を外国の隊から貸してもらったらしい。それぞれスペイン語でサルヴァドール号とフロラシオン号という船名だった。
森崎和馬は、緊急出場命令を受けたときに、自分たちがどんな船でここまでやって来たのか、結局わからずじまいだった。三国龍之介に連れられるままに、あれよあれよと何やら大きな乗合船に乗せられて、いつの間にやらここまでやって来たのだ。
防護服もヘルメットも、出来合いのものを使わざるを得なかったので、ぶかぶかだったり窮屈だったりいろいろ不満な部分はあった。だが、それに対して文句を言う暇もなかった。
宇宙に出たらトイレにも行けないからと、何か不思議な薬を飲まされたような気もするが、そのへんの記憶は曖昧だ。最後に食事をとったり水を飲んだりしたのも、いつのことだったか思い出せない。
とにかく、あまりにもバタバタ続きの初めての現場体験だった。
「お疲れ様、和馬くん」
と、飲み物を渡してくれたのは、第十七小隊ブラボー・チームの海野沙織リーダーだった。金属の筒の中に、アミノ酸とビタミンとブドウ糖の濃縮炭酸液が満たされている。これを飲むと、一発で疲れが取れる代物だ。
なぜか和馬は別の隊のメンバーと同じ船に乗り合わせていた。サルヴァドール号とフロラシオン号のどちらに乗ればいいのかわからないままに、とにかく乗れ乗れと尻を叩かれて飛び込んだところがこの船だった。
新人たちは五人五人で無理やり分けられて、エアロックに詰め込まれ、ようやく船内で落ち着いて、今やっとヘルメットを脱いだところだ。
「こっちはどっちの船?」
と和馬が訊いても、沙織は、
「わかんない」と、首を横に振った。
座席には男女混合で、新人は男三人女二人が乗っていた。その内訳は、和馬と沙織の他に、救命医の足立俊作と宇宙船技師の桐野十三、そして、通信士の浅倉晴香だ。
あろうことか、どいつもこいつも自分たちがどっちの船に乗っているのか把握していなかった。
先輩たちはまだ船の外にいて、何やら忙しく立ち働いている。自分たちばかりこんなところでゆっくりしているのが申し訳なく思えるほどだ。
「わたしたちも、何かしたほうがいいのかな」
と、通信士の晴香はぽつりとつぶやいた。
そのとき、いつの間にか操縦席に座っていた先輩の佐藤愛梨紗が立ち上がって、みんなのほうを振り返った。彼女はあまりに小さいので、この瞬間までそこにいることに誰も気づいていなかった。彼女は言った。
「こっちはフロラシオン号たい。あんたたち、疲れとーとやろ。細かいことは考えんでよかけん、ゆっくりしんしゃい」
とても先輩とは思えない小さな女の子が突然話し掛けてきたので、新人たちは反応に困って固まってしまった。一応、新人たちは愛梨紗のことをいくらか知ってはいた。名前と顔とパイロットとしての評判は有名だったからだ。だが、実際に本物を見るのはみんな初めてだった。びっくりするほど小さくて、しかも訛っているので、そのインパクトは大きかった。
リーダーの和馬はみんなを代表して、何か言葉を返さなければならないと思った。和馬は立ち上がり、こう言った。
「僕らはお役に立てましたか?」
愛梨紗はにっこり微笑んだ。
「そりゃあ、もう、満点たい。あれだけできれば十分っちゃなかかと思うよ。先輩たちもみんな褒めよらしたけんね」
「ありがとうございます」
「それよっか、ご飯ば食べりー、おにぎりはいっぱいあるけん、遠慮せんでよかよ」
「はい、いただきます」
ほっとした和馬は、すとんと席に座り直した。その彼の手に、隣りの沙織がおにぎりを渡してくれた。それはわざわざ竹の皮でくるんであった。
そのおにぎりは、いつの間にか船に乗り込んできていた先輩たちが配ってくれたものだった。
噂では知っていたが、実物の彼女たちを見るのはみんな初めてだった。
桃井華も、天野妙子も、千堂しのぶも、夏木ユズも、そして、もちろん佐藤愛梨紗も、宇宙消防士を目指している少年少女の間では大変な有名人だった。そんな人たちと、これから一緒に働くのだ。
そんな先輩たちが、すぐ横でがやがや騒ぎながらおにぎりを食べている姿は、何とも言えない不思議な光景だった。
和馬は緊張のあまり食欲がなくなってしまった。




