第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)・4a
白いグラフェン・シートの網に、時間を追うごとに大量のスペースデブリが溜まっていく。宇宙船数隻分にはなろうかという、大変な量の金属片が集まってきた。
それらのデブリを集めてくる、ホウキ役の消防宇宙船が、あちらこちらを飛び回っていた。宇宙船から伸ばされたアームは熊手のような形をしており、そこから磁気を発生させると、物体を遠ざけようとする斥力が生じる。そのアームをホウキのように使って、四方に散らばっているデブリを集めてくるのだ。
和馬たちがみんなで広げているグラフェン・シートは、物体を引き寄せる引力を帯びているので、斥力によって吹き飛ばされたデブリが自然に集まってくる。
「ねえ、和馬くん」
ネビュラのプライベート回線を使って、海野沙織が心配そうに話しかけてきた。「これ以上デブリが溜まったら、網が破れちゃうんじゃないかな……」
それは和馬も同じく心配していることだ。
「沙織ちゃん、ちょっと訊いてみるよ」
和馬はそう言うと、通信士の落合茂雄に同じくプライベート回線でこっそり話しかけた。
「茂雄、網の状態をちょっと教えてくれよ」
「なんだなんだ、こそこそと」茂雄は嫌そうに答えた。
「みんなが不安になるかもしれないから、あんまり大きな声じゃ言えないだろ」
「さっきの演説の威勢のよさはどうした?」
「いいんだよ、それは。今は網の状態が一番大事なんだ」
宇宙での消防活動における、あらゆる細かな情報はいったん通信士によって集められる。それは現場の物理的な情報から、現場周辺で動いている他の消防隊に関することまで多岐にわたる。情報量があまりにも膨大なので、通信士というフィルターを間に挟まなければ現場が混乱してしまう。通信士はそれらを分析し、他の隊員が要求すればいつでもすらすらと答えることができなければならない。
茂雄は自分に求められている内容を先読みして、こう答えた。
「網が破れるまでは、まだかなりの余裕があるよ。現在のデブリの重量は、許容量の三十パーセントだ」
「あと何分で百パーセントになりそうだい?」と和馬。
「この調子なら三十分は持つだろうね」
「それまでにデブリを回収してもらわなくちゃならないな」
「応援要請を出しておこうか?」
「頼む、最優先で来るように言ってくれ」
「他もいっぱいで手が回らないかもしれないぞ」
「だから、早めに言っておいてくれ」
「了解」
プライベートでの秘密の通信が終わると、茂雄はオープンチャンネルでみんなにも聞こえるように応援要請を出した。
「司令本部に応援要請。こちら第十七・第十八小隊合同ブラボー・チーム。網の容量は限界値の三割強、あと三十分でいっぱいになると思われる。なるべく早く回収に来ていただきたく、要請いたします。どうぞ」
すると、司令本部からの慌ただしい返事が返ってきた。
「三十分以内に到着できるよう動いておりますが、万が一の場合にはそちらで判断して動いていただきたく存じます、どうぞ」
「それはどういう意味ですか?」
と、和馬は直接本部に問いかけた。
司令本部はなかなか答えを返さない。他のやり取りで忙殺されているようだ。
それをじりじりしながら待っているうちに、さらに大きなデブリの塊が、巨大な雲のようになって、数隻の消防宇宙船によって運ばれてきた。その量はすさまじいものだった。
「これはちょっと話が違う」
茂雄が悲鳴を上げた。「こんな量は計算に入っていなかった。とても三十分も持ちやしないよ」
その独り言はオープンチャンネルに乗ってみんなの耳に届いた。途端にみんなはざわざわと声を上げ始めた。
「みんな落ち着け、まだ時間はある。先輩たちも助けに来てくれるはずだ」
和馬がそう言ってなだめても、騒ぎは収まらない。
そうしている間も、新しいデブリは次々と運ばれてくる。




