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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第四話「第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)」
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第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)・3a

 さっそく和馬はネビュラで全員に呼びかけた。

「みんな、今、華さんから連絡が入った。これから十人で網を移動させるから、姿勢を制御する準備をしておくれ」


 九人のメンバーからバラバラの「了解」が返ってきた。急な呼び出しに、みんなはがやがやと騒ぎ始めた。まるで落ち着きのない教室のようだ。


 それからすぐに、華から現場の状況を知らせる立体マップが送られてきた。

 宇宙空間の中での、自分たちの座標と、他の国々の消防隊の動きを示す情報とが表示されている。それらはこれから数分後までの計画をアニメーションとしても教えてくれた。


 様々な国旗を頭の上に付けた白いグラフェン・シートの網が、まるで何かの動物の群れのように密集している。その中の一つが、自分たちの第十七・第十八合同ブラボー・チームなのだと、わかりやすく赤く点滅する形で中心に浮かんでいる。


 移動は、背中の生命維持パックに組み込まれているエンジンユニットによって行う。それは小さな核融合エンジンであり、わずかな燃料で巨大なエネルギーを生み出すことができる。ただし、それを十人で同時に起動して、広げた網を崩さない形でコントロールするのは極めて難しい。何より、そういう訓練を誰も受けたことがないのだ。


 姿勢制御はスラスターから噴射する窒素によって行う。エンジンユニットの出力と、姿勢制御スラスターの出力を十人でぴったり合わせなければならない。誰もやったことのない作業手順を、現場でみずからひねり出さなければならない。


 和馬の頭に、先輩の龍之介か華にやり方を訊こうかという考えがよぎった。ただ、自分でまったく試しもしないうちから人に頼っていいのかという考えも、同じくらいの大きさで膨らんでいた。「知らないことは遠慮しないで先輩に訊け」とは言われているけれど、網を破ったりしない段階なら、自分のやり方を試してもいいはずだ。


 実は和馬の頭の中で、いくつかやり方のアイデアは浮かんでいた。ただボーっとして待っていたわけではないのだ。

 和馬は、右手側の二人隣りで網を持っている、あっちのリーダーの海野(うんの)沙織さおりに呼びかけた。みんなにも聞こえるオープンチャンネルなので、格式ばって苗字で呼んだ。


「海野さん、同期制御シンクロナス・コントロールをやろうと思うんだけど、そちらは訓練でやったことがあるかい?」

「あるけど、五人までしかやったことないよ。五人になると、けっこうノイズが乗って動きがズレる感じだった」

「じゃあ、十人は無理かな?」

「無理かもしんない」

「なるほど……」


 和馬の中でも、その問題は想定されていた。ネビュラを重ねて複数人が同時に同じ動作を行う同期制御シンクロナス・コントロールは、練習を積む必要なく動作を合わせることを得意とするが、機械制御のデメリットも多かった。それはネビュラの処理能力のギリギリを攻める形なので、人数が増えると動作が重くなるのだ。


 和馬はもう一つのプランを用意していた。それは、網の反対側にいる通信士の落合(おちあい)茂雄しげおにまず話しておく必要があった。彼は今、たわんでいる白い網の向こう側にいて、姿が見えない。


「おい、茂雄(ミスター)

「なんだよ」と返ってきた声は、さっきの瀕死の状態からいくらか回復していた。

「これから、ちょっと変則的な同期制御シンクロナス・コントロールをやろうと思う」

「シンクロナス……」

 茂雄は頭の中で、その言葉の意味を必死で思い出そうとした。すっかり頭の中が真っ白になって、訓練の内容がすべて飛んでしまっているらしい。「同期制御シンクロナス・コントロールをやるんだな。どうやって?」


 和馬は慎重に言葉を選んだ。言い方によっては、またバイタルサインを大いに乱して面倒なことになる恐れがあったからだ。

「いいかい、落ち着いて聞いてくれよ」

「なんだよ、そんなに恐ろしいことをやるのか?」

「そんなに恐ろしいことじゃないよ」

「それなら、大げさに言うなよ」

「恐ろしいことじゃないけど、一応、こう言っておかないと、心の準備とか必要だろうと思ってさ」

「何をごちゃごちゃ言っていやがる」

「とりあえずミスター、隣りとペアになってくれ」


 その瞬間、茂雄の脈拍と呼吸がぐんと跳ね上がった。それはもちろん、和馬の想定内だった。

 茂雄の隣りには、あっちのチームの黒川スバルと、(あかつき)しずくがいる。


 和馬はオープンチャンネルから、プライベートのチャンネルに切り替えた。

「ミスター、どっちとペアを組みたい?」

 激しい鼓動と意識レベルの低下に襲われている茂雄は、弱々しい声で答えた。

「じゃあ、暁さん」

「おい、そんな意気地のないことでいいのか?」

「……いいよ、俺なんか、どうせ……」

「本当にいいのか? こんなチャンスは二度とないかもしれないぞ」

「そんなこと言ったって……」

「いいのか? 一生後悔することになるかもしれないぞ」

 和馬に圧を加えられて、茂雄のバイタルサインはさらに乱れた。


 しかし、どこかで強い意志の力が加わったのか、それらが一気に持ち直し、緑のグラフが復活した。和馬は息を呑んだ。鍛え抜かれた宇宙消防士たるもの、そうでなくちゃいけない。

「そうだな、やってやれないことはないさ」

 茂雄は自分に言い聞かせるように言うと、どこか誇らしい調子で答えた。「じゃあ、黒川さんでお願いします」


「オープンチャンネルで繋ぎ直すから、その言葉をもう一度、大きな声で言ってくれ」

 和馬がチャンネルを切り替えると同時に、茂雄は大きな声で言った。

「じゃあ、黒川さんとペアでお願いします」


 その声に被せるように、黒川スバルの慌てた声が響いた。

「いったい、何の話?」


 和馬はなだめるように言った。

「ええと、みなさん、とりあえずみなさんは、隣りの人とペアになってください。これから第十八小隊ブラボー・チームの五人で同期制御シンクロナス・コントロールを行います。第十七小隊のみなさんは、隣りの隊員とペアになって、動きを合わせてください。アナログなやり方ですが、このほうがノイズが少なく、動作も軽いと思いますので」


 二つの小隊の隊員たちはお互いを見合った。落合茂雄と黒川スバルのペアが基準となって、その周りに二人一組ができていった。


 和馬の隣りにいるのは、あっちのチームの救命医の桜井(さくらい)美穂みほだ。

 和馬もなんだか緊張してきた。

「それでは、桜井さん、僕らも動きを合わせていこう」

「了解」という、美穂の緊張した声が返ってきた。

 なんだか青春の甘酸っぱい匂いがした。

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