第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)・2b
グラフェン・シートを一生懸命広げている十人の新人宇宙消防士は、指示された場所でずっと身動きが取れずにいた。
自分たちはとてつもなく大量のスペースデブリと、破壊されたたくさんの宇宙船を回収するために宇宙にやって来たはずだ。
ところが実際の宇宙は、そんな事故が本当に起きたのかどうかわからなくなるほど静かだった。確かに、たくさんの消防宇宙船が飛び交い、あちらこちらで網を広げたり、光線の火花が散ったりはしている。いろんなものが入り乱れて忙しそうにしてはいるけれど、肝心の敵そのものが姿を現さない。
和馬のネビュラには、回転するクロノ・シティの球体を中心として、長い帯状の赤いホット・ゾーンと、それをひと回り大きな円で囲む黄色いウォーム・ゾーンが描かれている。自分たちは、そのウォーム・ゾーンの真ん中辺りにいた。ここは比較的デブリが少なく、破壊された宇宙船もそれほど多く飛んでいない場所だ。
ベテランの先輩たちは、すでにホット・ゾーンの中に飛び込んで救助にあたっているらしい。おびただしい数の無線連絡が、視界の下から上へと目にも止まらぬ速度で流れている。事故に遭った宇宙船の座標、破壊の程度、死者や生存者の人数、負傷の状態に応じたトリアージと搬送の手配など、訓練で何度も使ってきた用語の数々が実際の現場で使用されている様を、和馬は初めて目の当たりにしていた。しかも、それをいろんな国の消防隊と連携しながら、複雑なやり取りを交えて処理していっているのだ。こんな大規模な現場は見たことがない。
だが、自分たちはこんな何もない場所で、ぎこちなく姿勢を直したりしながら、ただ白い網を支えて待っているだけだ。指示がない限り、誰一人としてここを離れることはできない。それが和馬にはもどかしかった。
もちろん、他の新人たちの気持ちも同じだった。
「ねえ……、和馬くん」
プライベートなネビュラの回線を通して、第十七小隊ブラボー・チームのリーダーが話しかけてきた。
和馬は誰にも聞かれないように、こっそり返事した。
「なんだい? 沙織ちゃん」
「私たち、いつまでこうしていればいいの?」
それはこっちが訊きたいくらいだ。和馬は今の気分を正直に吐き出した。
「もしかしたら、ずーっとこのまま待っているだけで終わるんじゃないかと思って、不安なんだけど……」
「そんなのバカみたいじゃない」
「そんなこと言ったってさ」
自分たちは消防学校でいろんな訓練を受けてはきたが、直径百メートルの網を十人で支えてスペースデブリを受け止める訓練だけはなぜかやっていなかった。こんな事態は今まで想定されていなかったのだろう。
本来、グラフェン・シートの網は宇宙船を数隻使って運用するものであって、こんな風に人が手でつかんで扱うようなものではないのだ。もしかして、現場は相当に混乱しているのではないかと、和馬は訝しんだ。
新人を大勢連れてきたはいいけれど、使い道がなくて持て余されているのではないかという疑いさえ、和馬の頭の中に渦巻いてきた。
世界中のあらゆる国々の消防隊が集まっている。中には仕事にあぶれて何の役にも立たないメンバーがいたとしても、この状況の中ではおかしいこととも思えない。自分たちはそういう恥ずかしい役割を背負う羽目になったのではないかとさえ思えてくる。
「ちょっと先輩に確認を取ってみようかな……」
和馬は弱々しい声でつぶやいた。「ところで沙織ちゃんは、そっちの龍之介さんから何か言われているかい?」
「龍之介さんは忙しくて、なかなか繋がらないの」
「それじゃあ、邪魔しないほうがいいね」
もしかしたら、こちらの隊の桃井華リーダーも忙しくて手いっぱいなのではないかと思い、和馬は確認するのをためらった。
だが、もしかしたら、向こうはこちらのことを忘れているのかもしれないという気もする。だとしたら、こちらから連絡を取ったほうがスムーズにいくかもしれない。
そんな葛藤の中で和馬は苦しんだ。早く指示が欲しい。ホット・ゾーンでもどこでもいいから、早くこのみっともないボーっとした状態から解放してほしかった。
そのときだった。
「和馬くん、お待たせ。今から来てもらうから、みんなにも声を掛けて」
という、アルファ・チーム桃井華リーダーの言葉が耳に飛び込んできた。




