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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第四話「第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)」
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第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)・2a

 直径百メートルほどの白いグラフェン・シ―トの網を、十人の宇宙消防士が支えていた。防護服にはパワーアシストが備わっているので、本来の筋力の三倍くらいの力を出すことができる。ただし、その使い方を間違うと、無意味な綱引きでお互いに体力を消耗させ合うことになる。そろいもそろって初出場の新人ばかりの十人だから、網はぐちゃぐちゃに乱れ、あちこちでスラスターの窒素が噴射しまくっていた。


 先輩の華の声が、和馬の頭の中に鋭く響いた。

「和馬くん、みんなで息を合わせて形を整えなさい。窒素を無駄にすると戻れなくなるよ」

「了解!」

 和馬は第十八小隊ブラボー・チームのリーダーとして、網を支えている他のメンバーたちを指揮しなければならない。すでにそのうちの四人とは消防学校で半年間、同じチームメイトとして訓練を積んできた。その他の五人とも何度か一緒に訓練はやってきたから、初対面というわけではない。だから、なんとかやれるはずだ。


 和馬のネビュラに、自分と同じ第十八小隊ブラボー・チームのメンバーの名前と全身像がずらりと表示された。もう何度も見てきて飽き飽きしている映像だが、あらためて本物の現場でそれを見ると、いつもとは違う緊張感があった。


 森崎(もりさき)和馬かずま:チームリーダー

 足立(あだち)俊作しゅんさく:救命医

 桐野(きりの)十三じゅうぞう:宇宙船技師

 檜山(ひやま)拓也たくや:パイロット

 落合(おちあい)茂雄しげお:通信士


 それぞれの横には意識・血圧・脈拍・呼吸・体温の五つのグラフがバイタルサインを示していて、ほとんどが緑色だ。さすがは宇宙消防士として本採用されただけのことはある。しかし、たった一人、通信士の落合茂雄の脈拍だけが正常値の倍近くまで跳ね上がり、グラフを赤くしていた。呼吸も少し速い。


 和馬はネビュラを通して声を掛けた。

「おい、ミスター(茂雄のあだ名)、少し深呼吸して落ち着け」

 茂雄の荒い息遣いが返ってきた。

「俺が落ち着いていないように見えるか?」

「脈拍のグラフがばっちり真っ赤なんだけど」

「気にするな、気合を入れているだけだ」

「とにかく肩の力を抜けよ」

 そう言って落ち着かせようとしても、茂雄の脈拍のグラフは赤いままだ。


 和馬は妙だなと思った。普段の茂雄(ミスター)は口数が多くて一見落ち着きなさそうに見られがちだが、実際には頭脳明晰冷静沈着な男だ。彼は通信士として必要な情報分析能力と自己制御能力に長けており、訓練ではいつも、頭が混乱しがちなリーダーの和馬を代わって支えてくれているほどだ。

 そんな男が現場初出場だからといって、これほどまでにあたふたするというのはおかしい。


 和馬はネビュラをチェックした。そこには、第十八小隊ブラボー・チームの他にもう一つ、第十七小隊ブラボー・チームの新人五人も表示されている。この二つのチームが今、グラフェン・シートの網を一緒に支えているのだ。

 そこに列挙されている五人の顔と名前を、和馬は確かめた。


 海野(うんの)沙織さおり:チームリーダー

 桜井(さくらい)美穂みほ:救命医

 (あかつき)しずく:宇宙船技師

 黒川(くろかわ)スバル:パイロット

 浅倉(あさくら)晴香はるか:通信士


 この五人の女子たちとは、三回ほど訓練で顔を合わせたことがある。みんな性格の明るい子たちばかりで、訓練中も楽しくおしゃべりしながら遊んでいるような雰囲気だ。しかし、宇宙消防士としてやるべきことはしっかりこなしているから、ただ楽しんでいるというわけではないらしい。


 和馬はこの女の子たちと一緒になると、なんだかぱっと花が咲いたような気分になって、胸がソワソワする。

 きっと、あの茂雄(ミスター)も、この中の誰かを意識しすぎて緊張しているのではないかと和馬は察した。


 ちょっと面白く思いながら、和馬はからかってみた。

「おい、ミスター、浅倉さんがそばにいるからって、そんなに固くなるなよ」

「何を言っているんだ、お前は」

 そう返事を寄こしてきた茂雄の脈拍が、すっと下がって緑色になった。どうやら彼女が本命ではないようだ。


「お前の隣りには誰がいるんだ?」和馬は訊いた。

「暁さんだよ」

 と答えたときも、茂雄の脈拍は緑と赤の中間でうろうろしている。

「リーダーの海野さんはどんな様子だい?」

「それはお前のほうが近いんじゃないのか」

 和馬はそう言われて初めて、右手側を順に数えてすぐ二人目に海野沙織がいることに気づいた。今度は逆に和馬の脈が上がる番だった。


 落合茂雄の脈は再び速まり始めた。グラフがみるみる赤く染まっている。

 和馬はネビュラの望遠で、茂雄の周りのメンバーを確かめた。それはグラフェン・シートの白い網のせいで見え隠れしているものの、ネビュラを通すことで、しっかりとその名前を教えてくれた。みんなの頭上にそれぞれのフルネームが浮かんで表示されているのだ。


 和馬はその名前の人物に、直接話しかけてみた。

「やあ、黒川さん、久しぶりだね。初めて現場に出た気分はどうだい?」

 その瞬間、茂雄の脈拍が三倍くらいになった。グラフの上に黄色いビックリマークと「ワーニング!」の文字が躍った。


 黒川スバルは、いつものぶっきらぼうな調子で返事を寄こしてきた。

「何言ってんの、遊びに来たんじゃないんだよ。ちゃんと任務に集中しなさい。あんたがみんなの指揮を執ってるんでしょ」

「そうなんだけど、そっちは距離が遠いから、黒川さんが俺の指示をみんなに伝えてくれるかな?」

「いいよ、どうしたらいいの?」

「まずはネビュラで座標を確認してもらってだね……」


 和馬とスバルが話をしている間、茂雄のバイタルサインはまるで瀕死の状態を示していた。その異常さには、救命医の足立俊作が慌て出すほどだった。

「おい、茂雄(ミスター)、死にかけてるのか? 今からそっちに向かったほうがいいか?」

「いいよ、俊作、あいつなら大丈夫だよ」


 和馬は、ヘルメットの中で必死で笑いをこらえた。まだまだ自分たちは本物の宇宙消防士にはなりきれていないようだ。

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