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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第四話「第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)」
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第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(後編)・1a

 第十八小隊ブラボー・チームのリーダー、森崎(もりさき)和馬かずまは、ヒーローになるために宇宙消防士になった。

 物心ついたときにおもちゃの斧をプレゼントでもらったときから、彼は宇宙消防士以外の職業に就くことをまったく考えないで生きてきた。


 ――一つの命を救う者は、世界を救う。

 一人の命を救うことは、やがてその後に続く数百数千の子孫たちを救うことに等しい。彼は近所の消防署の隊員から、そんな言葉を教えられた。

 彼は小学校の見学で消防署を訪れて以来、暇を見つけては署を訪ねるようになっていた。無垢な子供の情熱を、隊員たちは喜んで受け入れてくれた。


 彼が生まれ育った北海道の帯広市は、広大な十勝平野の中央に位置する。大規模農業による食料生産は日本有数で、トウモロコシや小麦、野菜、豆類、食肉、乳製品を全国に供給している。

 都市部はこの三十年で急速に発展し、人口は百万人を超えるほどになった。その理由は、農業に従事することを選んだ若い世代が多く流入してきたことだ。大規模農業が多くの労働力を必要とし、それに付随して食品加工業や流通業が発展した結果、帯広市は大農業都市となった。


 人類が宇宙へ進出することは、食料の需要が増大することにも繋がった。どんなに大量に作物を生産しても値が下がるどころか、ますます上がり続けた。この好景気はあらゆる産業を発展させ、百年前の高度経済成長期を上回るほどの経済発展がもたらされた。


 和馬の両親もまた、農業をするために北海道へと移り住んだ若者たちの世代だった。企業が主導してチーム単位で営まれる農業は、昔のような家族経営とはまるで様相が異なる。それは伝統と効率化の間でいくつもの軋轢を生むことにもなったが、ともかく都市部から農村への若い世代の移動は地域を活性化させた。それまで下がり続けていた出生数は、急カーブを描いて上昇した。


 乾燥して雨の少ない十勝平野は火災が起こりやすい。大都市化した帯広市は住宅火災が増加したことが問題となり、消防隊員を大幅に増員した。

 和馬が住んでいた地域の近くにも小さな消防署が建てられた。そこには小さな赤い消防車と、真っ白な救急車が一台ずつあった。そこで働いている消防士たちも、どこかあか抜けない若い人たちだった。


 聞けばこの人たちは、日本全国いろんな場所から、急に発展した帯広へと人員の補充のために赴任してきたのだという。地方公務員である消防官は県外に無理やり赴任させられるということはないから、彼らはみずから志願してこの地にやって来たということらしい。


 北海道の広い空と、どこまでも続く大地に、彼らは魅了されていた。

「この空の下で、サイレンを鳴らしながら高層ビルの間をかっ飛ばすと、自分が世界を救うヒーローになった気がするんだ」


 あるとき若い消防士がそう言った。その消防士はいつも鼻の上に絆創膏を貼っていて、なかなか治らない傷を自慢していた。いつも現場に入ると一番に突っ込んでいくから怪我が絶えないらしい。彼はみんなからイタリア語で「鼻の」を意味する「ナザレ」と呼ばれていた。


 ナザレはそのあだ名を気に入っていた。なぜなら、彼はユダヤ人を祖父に持つクォーターだったからだ。ナザレとはイスラエルにある都市の名で、イエス・キリストが幼少期を過ごした場所とされている。


 ――一つの命を救う者は、世界を救う。

 その言葉を教えてくれたナザレは、もうこの世にいない。


 森崎和馬は、自分に大切な言葉を教えてくれたナザレと同じヒーローになるために、この宇宙にやって来た。

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