第十八小隊はクロノ・シティに配置されます(前編)・2a
華は保育園の前で自転車を下りた。門の横でみんなを笑顔で迎えていた冴子先生は、さっそく華の二人の子供たちにも明るく声を掛けてくれた。先生は腰をかがめ、子供たちと同じ目線になった。
「初めまして、纏さん、幟さん、今日から楽しく一緒に過ごしましょうね」
その声はアルトサックスのような豊かで哀愁のある響きを持っていた。その声を聞くと、まるで柔らかな毛布で優しくくるまれたような感じがする。
冴子先生の着けているネイビー・ブルーのエプロンはよく似合っていた。先生はとても背が高く、髪を短く整えていて、一見すると細身の男性のように見える。しゃんと伸びた背筋は意志の強そうな内面を表しているようで、子供を預ける相手としてはとても頼もしくて安心できる。
保育士たちは宇宙消防士と同じく二十四時間交代の二部制だ。今日は冴子先生の他に五人の保育士が出勤している。冴子先生は園長の次に偉い主任保育士として、それらスタッフたちをまとめていた。
保育園は航空宇宙消防本部の裏手に組み込まれる形で建っている。本庁舎が無機質で直線的なデザインなのに対し、保育園の部分だけは丸みを帯びた木造の小屋のような作りだ。保育園の前の広場にはたくさんの木や花が植えられ、鳥や虫たちも大事に育てられている。
二人の子供を自転車から降ろすと、自転車は無人のまま、自動的に格納庫へと入っていった。華は幟を胸に抱え、纏の手を引いて門の中へと向かった。
そこには先に来ていた仲間たちが楽し気に立ち話していた。その再会があまりにも急だったものだから、まったく心の準備をしていなかった華は驚かされると同時に、一瞬で緊張がほぐれて楽な気持ちになった。
「おっはよう、諸君」
華が元気に挨拶すると、天野妙子と夏木ユズもホッとした顔でこちらを見た。二人とも新しい階級章のついたワイシャツを着て、見慣れないネクタイを締めている。二人とも前に会ったときよりも肉付きがよくなっていて、ひと回りほど幅が大きくなったようだ。
妙子が「おはよう、華ちゃん」と言うと、ユズも同時に「おはよう、華」と言った。そこに気負う感じはまるでなかった。
挨拶もそこそこに、さっそく子供たちのお披露目会が始まった。妙子とユズは同時期に出産したので、同じ一歳七か月の子供を連れている。妙子は胸に男の子を抱きかかえ、ユズは双子の女の子をベビーカーに乗せていた。
「あっという間に大きくなったね」
華は驚きの声を上げたが、それはみんなもお互い様だった。
妙子の息子の名は天野・フリードリヒ・遊星・ハイネマンといった。彼は父親に似た金色の髪と、透き通ったグリーンの瞳を持っている。こんなに人が大勢いる場所に来るのは初めてらしく、びくびくして母親の胸に顔を埋めていたのを、無理やり引き剥がされて少しご機嫌斜めのようだ。
妙子は彼の顔をみんなのほうへ向けさせた。
「遊ちゃん、きちんとご挨拶なさい」
遊星の顔立ちは、父親似の知性と母親似の優しさを併せ持っている。彼の前にいる新しい仲間たちのことは、これまで何度か顔を合わせたことがあるかもしれないが、ほとんど記憶に残ってはいなかった。
「一緒に仲良くしましょうね、って言うんだよ」
母親の妙子に促されると、遊星はたどたどしく、両手を落ち着かなげににぎにぎしながら、
「よおちくおねやいちやちゅ」と言った。
それを見て微笑まない者がいるだろうか。
ユズの双子の娘たちは、すでにその歳にしてこまっしゃくれた雰囲気を身に帯びていた。
「こっちが上の檸檬で、こっちが下の蜜柑だよ」
そう言われても、顔立ちだけで二人を見分けることができるのは両親だけだろう。双子は両方ともベビーカーにふんぞり返るように座り、「苦しゅうない」とでも言いそうなふてぶてしい態度を取っていた。それでも大人たちがなんとか怒りを抑えられるのは、二人ともが弾けるような無邪気さを全身から放っているからだ。
「さあ、あんたたちもご挨拶なさいな」
母親のユズに促されると、檸檬と蜜柑はすかさずお互いにハイタッチして、生意気な敬礼のポーズで言った。
「みなちゃん、ハイヨー!」
「ハイヨーじゃないよ」
と、華は思わず言ってしまってから、この言葉が二歳にも満たない子供たちの口から発せられたことに気づき、愕然とした。
うちの子供がこの子らとうまくやっていけるだろうかと、ほんのちょっと不安になったのだ。隣の芝が青く見えるように、よその子はみんな賢く見えてしまう。




