桃井翼、ジャーナリストになります!(後編)・4a
それは奇妙な対面だった。
その男性はゴンドラを横付けしてきた。元々そうやってドッキングできるように作られているらしく、しっかり繋がった二つのゴンドラの間の扉を開けて、その男性がこちらに移ってきた。
翼が会いたがっていた人物が、本当にその人なのかと疑ってしまうくらいに、心の中で抱いていた印象とはまるで違う姿かたちの人物がそこにはいた。
「君が桃井翼くんだね。私は……」
と、彼は口をつぐんだ後、翼のネビュラに直接語りかけてきた。「私は、ディビッド・リップマンだ。そう言われても信じられないかもしれないが」
信じられるはずがなかった。リップマンを名乗ったその男性はテンガロンハットを被り、丸太のような胴体に太い手足を無理やり継いだような体型をしていた。その剥き出しの手足や胸元は、どこも金色の産毛で覆われている。上は真っ赤なハイビスカスが描かれたアロハシャツだし、下はだぼだぼしたベージュのバミューダパンツで、足元はサンダルだ。
薄暗いプラネタリウムの明かりの下でも、その格好の派手派手しさやだらしなさは嫌でもはっきりわかる。
幸子は悲しい目をして、リップマンの変わり果てた姿を見つめた。
「ずいぶん太っちゃったんだね、ダビちゃん」
リップマンはまるで平気な様子で、背もたれに両腕を乗せると、不敵に笑ってみせた。
「世を忍ぶ仮の姿というやつさ。これなら私だと誰にもわからないからね」
「ものは言いようだよね」幸子はなおも悲しい顔をしている。
翼と智香は、この太った中年男性にディビッド・リップマンの面影を見つけようと、がんばって隅から隅まで観察した。そうしてじっくり見てみると、彼の鋭い眼差しと切れ上がった眉毛にその片鱗を見つけることができた。
それと、一番はっきりわかるのは、彼の声だった。彼はいつも確信に満ちた言葉だけを発した。嘘やその場しのぎの言葉が彼の口から出ることは絶対にない。それが、聞く者に深い安心を与えるのだ。この太った男性からも、それと同じ声が聞こえてきた。
「とりあえず、はじめましてのご挨拶をさせてください」
翼は座席から腰を浮かせると、向き合って座っているリップマンのほうへと手を伸ばした。
リップマンは強く手を握り返すと、そのだらしなくて胡散臭い見た目からは到底想像もつかないような独特の美声で言った。
「私を外で呼ぶときは、ダビデと呼んでくれたまえ」
「よろしくお願いします、ダビデさん」
翼はあらためて、しっかりと握手を交わした。
それを智香が羨ましそうに見つめていたので、リップマンはそのたるんだ頬に優しい微笑みを浮かべると、彼女のほうにも手を伸ばした。
「君たちと出会えて嬉しいよ。ぜひとも今日は、何かをつかみ取って帰ってくれたまえ」
この静かなプラネタリウムでこれ以上の会話を続けるのはなんとなく気まずいので、幸子たち一行は博物館の外に出ることにした。すぐ近くにゆったりとくつろげるカフェがあって、リップマンはそこの常連だった。
「ぜひ、ジャーナリズムとは何かということを、私たちにじっくり教えてください」
カフェへと向かう道すがら、翼は、ずいぶんと踏み込んだお願いをした。
「いいとも、なぜ私が表舞台から姿を隠すようになったのか、それも合わせて君たちに話して聞かせよう」
これほどの特ダネが他にあるだろうか。それをリップマン本人の口から聞けるのだ。




