楽園実験(後編)・1a
第十七小隊ブラボー・チームの六人全員そろっての、午後のお散歩が始まった。なんだか全員が上機嫌で、あまりにも上機嫌すぎて、かえって妙な感じだった。
「スバルちゃんは寝ててもよかったんだよ」
救命医の桜井美穂は後ろ向きで歩きながら言った。「いつもお腹いっぱいになったら真っ先に寝るじゃない」
「私もみんなと一緒にいたっていいでしょ。急に意地悪なこと言わないで」
黒川スバルはぷっと頬を膨らませた。短い赤毛と青い瞳の彼女が怒った顔は、眉毛がきりっとして、まるで元気な少年のようだ。服装が上下とも真っ赤なジャージなところもよく似合っている。
「別に意地悪で言ったわけじゃないよ」
後ろ向きで歩いている美穂は、そう言いながらもニヤニヤしている。スバルをからかうのが楽しいのだ。
横でそれを見ていた翼も、思わずぷっと吹き出した。
「なんだよ、翼まで笑って」スバルはさらにムッとした。
「なんか、かわいいなあ、と思って」
翼はつい本音を口にすると、自分の大胆さに驚いて、慌てて顔を伏せた。
スバルもどう反応したらいいのかわからなくて、横で同じように顔を伏せた。
それを後ろ歩きで見ている美穂は、また嬉しそうに笑った。彼女はちゃんこ鍋の食べ過ぎでお腹が苦しくなったので、頭からすっぽりかぶる水色のワンピースを着ていた。長いピンクのストレートの髪の上から麦わら帽子を被って、幻想的な少女の装いだ。
先頭を歩いているリーダーの海野沙織が、突然みんなのほうを振り返った。
「なんだか、今日はどこまでも歩きたい気分だから、私が向かう方向に、みんなついて来てよね」
沙織はそう宣言すると、誰よりも張り切って大股で歩き始めた。彼女は白いブラウスとフリルの付いたスカートを穿いているのに、誰よりも力強い足取りだ。
「どこまでも行きたいったって、いったい、どこまで行くのさ?」
そう訊いたのは宇宙船技師の暁しずくだ。彼女は白いタンクトップにジーンズというラフないでたちで、首にはタオルを巻き、汗をかく準備は万端だ。紫色のショートの髪が、その服装によく似合っている。
「とりあえず、島の端を目指すよ」
沙織は拳を振り上げて言った。一行は西に向かって進んでいる。街の中心から端までは、およそ十キロメートルほどの道のりだ。「途中で帰りたくなったらタクシーでもなんでも使ってちょうだいな」
「ぐええ」と、通信士の浅倉晴香は潰れた蛙のような声を出した。彼女は花柄の派手なアロハシャツに膝下丈のバミューダパンツという、やや胡散臭い格好をしている。
「あら、晴香、帰りたかったら帰ってもいいんだよ」と沙織。
「私だって、こう見えても宇宙消防士の端くれだもん。十キロや二十キロくらい、なんてことはないわさ」
「あら、頼もしい」
沙織は前に向き直って、さらに大股で張り切って歩いた。
空に向かって湾曲しているクロノ・シティの住宅街には、久しぶりに外に出てきた人々が賑やかに行き交っている。誰もが外の空気に触れて、思い切り動き回りたい気分になっていた。それはとても不思議な午後の始まりだった。




