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楽園実験(前編)・3b

 今日の昼食当番は美穂としずくだ。クロノ・シティで勤務する最初の週なので、一週間分の食材をまとめて買ってきた。二人の好みが強く反映された品ぞろえになっている。美穂は甘いものが好きだし、しずくはタンパク質を多く含むものが好きだ。よって自然と高カロリー高たんぱくなメニューに落ち着いた。


「初日からちゃんこ鍋ですか?」

 沙織は呆れて、思わず敬語になった。

「これならいっぱい食べられるでしょ」と美穂。


 美穂が一匹まるごとのニワトリをごりごり包丁で切っている横では、しずくが見たこともないような巨大魚を三枚におろしている。袖のないタンクトップ姿の彼女は、威勢の良い板前のようだ。

「それ、何よ?」沙織は横から覗き込んだ。

 しずくがさばいている魚は、とげとげと斑点がたくさん付いたグロテスクな茶色い魚で、横に広い口と、でっぷりと丸い胴体を持っている。


 華麗に包丁を振り回しているしずくは言った。

「ガラパゴス・グルーパーだよ。日本語で言うとハタ」

「ハタ?」

「そう。白身で脂がのっていて、鍋にぴったりなんだよ。昔は絶滅危惧種でなかなか食べられなかったんだけど、養殖に成功したおかげでこうやってお腹いっぱい食べられるようになったんだ」


 そうやって説明している間にも、ガラパゴス・グルーパーはみるみる一口大の切り身になっていった。つやつやぷるぷるした身は、確かに鍋の具に合いそうだ。


「ねーえ、翼、スバル」

 ニワトリをさばいていた美穂が、リビングに向かって声を掛けた。呼ばれた二人はソファーに座ってぼーっとテレビを眺めているところだった。

「ぼーっとしているんなら、こっちに来て団子作りを手伝ってくれない?」

「別にぼーっとしていたわけじゃないよ。邪魔しちゃ悪いと思って、離れて様子を見てただけ」とスバルは言った。

「言い訳はいいから、早く来なさい」と美穂。

 スバルが口をへの字にしてムッとしたのを、横にいた翼はもろに見てしまって、つい笑ってしまった。


 キッチンには大きなテーブルがあって、その上でバラしたばかりのニワトリが部位ごとにきれいに並べられている。

「もも肉と手羽はそのまま鍋に入れるから、二人はその他の肉をミンチにしてお団子にしてくれる?」

 美穂は手際よく、二本の包丁を翼とスバルにそれぞれ渡した。


 スバルは肉の塊の前で突っ立ったままだ。

「これをどうしろっちゅーの?」

 美穂は深いため息をついた。

「スバルちゃん、あんた、料理したことないの?」

「あんまりしたことない」

「これからはみんなで交代でやっていくんだから、この機会に覚えなさい」


 美穂はまずお手本を見せた。むね肉の塊から皮を取り除き、それから四角く切り分けていく。切り分けた肉をひき肉器に入れれば、あとは自動的にミンチが出てくる。

「翼はこっちでお団子を作ってくれる?」

 美穂は、出てきたミンチをさっとお団子にしてみせた。その手際の良さに、翼は感動した。「その前に、よく手を洗ってよ」


「あ、はい」二人は声をそろえた。

 翼とスバルは、水道の前に並んで、順番に手を洗った。見ることやること、すべてが初めてのことばかりだ。

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