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HDMI

作者: 玩具リオン
掲載日:2026/01/19

「あ」

「ん?」

「こいつ動かねー」

「おお。よかったなあ」

「ついとーう」

「ついとーう」


「あれは何をしているの?」

「お、きみ最近の子?」

「え? あっ、はい。マカマカです」

「鶴見(仮)です。あいつ、このワールド長かったんだけど、そうか、ついに」

「?」

「えっと、こっち来て」


「すり抜けた」

「アバター同士はね。壁とかは無理だけど」

「今の人、反応しない」

「クリアしたんだよ。きみもクリアしたいからここ入ったんだろ? ほら、これ」

「HDMI……?」

「一人で、堂々と、迷惑かけずに、潔く。この看板、初期のやつらが作ったらしい」

「じゃあ、あの人たちは」

「うん。美少女の形をした、」

「おう鶴見(仮)新入りか」

「ムラサキシノブさん」

「あの無言勢、やっとクリアしたな」

「お絵かきどうする?」

「消せねえよ」

「あ、お絵かきってアレのことね、マカマカさん」

「浮いてる」

「きみVR自体初めたばっか?」

「あ、はい。一昨日からです」

「そーかそーか、なら色々観光するといい。俺そろそろ出るわ」

「そっか。お疲れ様でした」

「おう、お疲れ。永遠に」

「……? ログアウトしないんですか」

「このワールドはそういう仕様じゃないからね。一回入ったアバターは具現化し続ける」

「動かなくなりましたね」

「あのまま動かなければいいね」


「こんばんは」

「あ、こんばんは」

「何描いてるの?」

「えっと、お友達ですね」

「お友達?」

「こないだクリアされた方……の、真似っこというか。一匹じゃ寂しいと思って」

「ああ、アレ。上手いよね」

「はい」

「きみのもすごく上手い」

「いえ……」

「……」

「……あの」

「うん?」

「一緒にクリアしませんか」

「え」

「リアルで会って、一緒に」

「……」

「あ、いえ、お嫌じゃなければ」

「嫌……ではないよ。ビックリしただけ」

「そうですよね、こんなお誘い。すみません」

「や、いいと思う」

「えっ」

「実際、そうしてる人もいるって聞くし。そのためのワールドでもある」

「そうなんですか」

「設立当初はね。今はめいめいご自由にって感じだけど」

「えっと、じゃあ」

「うん。日本? 関東? ……えっ、もしかして」

「電車公園って知ってます? あの古いディーゼルがある」

「知ってる知ってる! うわあ、同郷だったんだあ」

「こんな偶然あるんですね」

「ま、不安なら護身用にスタンガンでも持ってくればいいよ」

「なんですかそれ(笑)」


「こんにちは」

「こんにち……わ」

「鶴見さんですか」

「えっ、えっ?」

「あ、ごめんなさい、人違いで」

「いや、違わない。合ってる。マカマカ……さん」

「そのハンドルネーム、リアルで呼ばれるとちょっと。佐藤(仮)ということで」

「……佐藤さん」

「はい」

「女性、だったんですね」

「言ってませんでした?」

「えっ、あっ、はい、まあ」

「むしろこっちがビックリですよー。だって声、女の子でしたし」

「さっ、最近のボイチェンは優秀ですからね。わりとみんなそうですよ」

「そーなんだ。わたし肉声でやってた、やばいかな」

「いや、やばくはない……です」

「とりあえず」

「あっ、はい!」

「歩きましょうか」

「あっ……はい」


「つかぬことをお訊きしますが、今おいくつだったり」

「十六です」

「じゅっ!?」

「鶴見さんは?」

「に、二十七」

「お若いですね」

「ええ……?」

「よろしくお願いします」

「えっ」

「今日一日」

「あっ、はい」

「ふふっ」

「えっ」

「さっきからそればっか。『あっ、はい』。ふふっ」

「……」

「なんかお腹空いちゃったなあ。朝ご飯食べてない」

「あっ、じゃあどっか入ります?」

「パン派? ご飯派? うどん派?」

「えっ? ええっと、ご飯派」

「ナイス」

「ら、ライス?」

「わたしもご飯派」

「……ははは」


「大丈夫ですか、朝ご飯食べたんじゃ」

「軽くだったから。このくらいは、むしろいい感じに腹減ってる……ます」

「十一時までの朝牛がいいんですよね、ここ。ギリ間に合いました」

「よく来てるんですか?」

「父とよく来てました」

「お父様と」

「面接官みたい」

「め、面接?」

「普通にしてていいですよ。普通にしててください」

「ははあ」

「お待たせしましたー」

「おー、キタキタ」

「そうそう、それ。そのテンションで」

「な、なるほど」

「それと」

「?」

「わたし、ネギ苦手で。いつもはお父さんに食べてもらってたんですけど……」

「ああ、」

「もらってくれますか?」

「……っ」

「?」

「や、なんでも……うん。なんでも」


「ほんとに僕が払ってもよかったんだよ? つうか今からでも払うべき、あ、でもさすがに絵面が」

「いえ。自分のお金は大事にしてください」

「はあ」

「ネズミ」

「え?」

「そこ、ネズミ。自転車の裏」

「ほんとだ、目いいね」

「小さい。ハツカネズミかな。それとも、ドブネズミの子ども」

「あんま近づかないほうがいいよ」

「なんで?」

「へ」

「なんでネズミって汚いんだろう」

「……えっ」

「ハムスターとかチンチラとかなら可愛いのに。可愛がられるのに」

「……」

「ネズミってさ、バカだよね。動画で見たことあんだ、ネズミ捕りにネズミが入ってって、出られないの。ポトポト、ポトポト、何匹も入ってって、誰一人出られない。それなのにみんな入っていく」

「あのさ」

「うん」

「きみはどうして、あのワールドに?」

「んー、知んない」

「そうですか」

「そうです」


「ムラサキさん、動きましたか」

「いやー、あれからめっきり」

「にゃー」

「にゃーですねー。じゃあ、ちゃんとクリアできた感じですかね」

「どうでしょう、現実世界でどうなってるかまでは」

「なおー」

「なおーですねー、わらびちゃん、なおーですねー」

「召喚者みたいですね」

「わたしの膝が魔法陣?」

「こんなとこ初めてきました」

「なんだか付き合ってもらっちゃって」

「いえいえ、こちらこそ貴重な機会を」

「最後に来れてよかったです」

「……よかったです」

「結構値上がりしてました。小学生でも来れるって、珍しいですよね。レギュラーの子もだいぶ入れ替わった、というか覚えてないんですけど」

「そうですか」

「そろそろ時間ですね」

「延長します?」

「……」

「そうですか」

「あっ、おやつの時間だ。じゃ、おやつだけあげて行きましょうか。えっと……あっ」

「?」

「やっぱ、やめよっかなあ」

「いいですよ、二百円くらい」

「えっ」

「はい、猫のおやつを……じゃあ、二つ」

「あの」

「はい」

「あっ」

「はい」

「えっと」

「は・い」

「……ありがとうございます」


「ここ」

「ん」

「いかがでしょう」

「あー」

「廃ビルってやつですね。この時間、人もいないし」

「はあ」

「敷いときましょうか」

「バックん中、それだったの」

「はい、まあ。念の為」

「念の為……」

「なんか他にあったほうがいいですかね」

「うーん」

「書いときましょうか。ペンと紙も一応」

「ペンキ塗りたて、って……」

「?」

「いや、ブルーシートの上に?」

「あ、そっか。じゃーどうしよー。これかっ」

「……地雷撤去中」

「どうでござんしょ」

「うん、まあ、うん。プフッ」

「なんで笑う」

「ごめんwww」


「風、すごいですね」

「高いですから」

「でもいい感じ」

「ですね」

「もうわたしにはね、なんもないんです」

「若さがあるじゃない」

「虚しいだけです」

「そうかなあ」


「きみのアバター、ネズミの女の子だったよね」

「ええ。フリーのやつですけど」

「あれ可愛いと思う、よ」

「そうですか」

「……うん」

「どうしよう、規約から外れちゃうな」

「え?」

「HDMI。一人で」

「でも、二人で」

「二人で」


「俺と、さ」

「?」

「や。俺……やっぱ」

「やっぱ?」

「いや、あのさ、焼肉〜、食いたくなってきたな。こ、こない? あっでも肉肉になっちゃう」

「あ、いいですね」

「だだよねえ!」

「来世でっ」

「あっ」


「肉碑もだいぶ増えたよなあ」

「せやな」

「なあ、なんかさ、もったいないよな」

「うーむ」

「きれいだよなあ」

「幻獣っつうの?」

「誰が描いたんだろ」

「知らへんがな」

「ついとーう」

「ついとーう」



(キスがさ)

(うん?)

(キスがこんなにきもちーなんて、知んなかった)

(ああ)

(色々、あったよね)

(うん。俺、幸せだ)

(んー)

(なに?)

(なんでも)

(なんだよ)

(えいっ)

(うおっ)

(しゅきしゅきー、ふふっ)

(はははは)

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