HDMI
「あ」
「ん?」
「こいつ動かねー」
「おお。よかったなあ」
「ついとーう」
「ついとーう」
「あれは何をしているの?」
「お、きみ最近の子?」
「え? あっ、はい。マカマカです」
「鶴見(仮)です。あいつ、このワールド長かったんだけど、そうか、ついに」
「?」
「えっと、こっち来て」
「すり抜けた」
「アバター同士はね。壁とかは無理だけど」
「今の人、反応しない」
「クリアしたんだよ。きみもクリアしたいからここ入ったんだろ? ほら、これ」
「HDMI……?」
「一人で、堂々と、迷惑かけずに、潔く。この看板、初期のやつらが作ったらしい」
「じゃあ、あの人たちは」
「うん。美少女の形をした、」
「おう鶴見(仮)新入りか」
「ムラサキシノブさん」
「あの無言勢、やっとクリアしたな」
「お絵かきどうする?」
「消せねえよ」
「あ、お絵かきってアレのことね、マカマカさん」
「浮いてる」
「きみVR自体初めたばっか?」
「あ、はい。一昨日からです」
「そーかそーか、なら色々観光するといい。俺そろそろ出るわ」
「そっか。お疲れ様でした」
「おう、お疲れ。永遠に」
「……? ログアウトしないんですか」
「このワールドはそういう仕様じゃないからね。一回入ったアバターは具現化し続ける」
「動かなくなりましたね」
「あのまま動かなければいいね」
「こんばんは」
「あ、こんばんは」
「何描いてるの?」
「えっと、お友達ですね」
「お友達?」
「こないだクリアされた方……の、真似っこというか。一匹じゃ寂しいと思って」
「ああ、アレ。上手いよね」
「はい」
「きみのもすごく上手い」
「いえ……」
「……」
「……あの」
「うん?」
「一緒にクリアしませんか」
「え」
「リアルで会って、一緒に」
「……」
「あ、いえ、お嫌じゃなければ」
「嫌……ではないよ。ビックリしただけ」
「そうですよね、こんなお誘い。すみません」
「や、いいと思う」
「えっ」
「実際、そうしてる人もいるって聞くし。そのためのワールドでもある」
「そうなんですか」
「設立当初はね。今はめいめいご自由にって感じだけど」
「えっと、じゃあ」
「うん。日本? 関東? ……えっ、もしかして」
「電車公園って知ってます? あの古いディーゼルがある」
「知ってる知ってる! うわあ、同郷だったんだあ」
「こんな偶然あるんですね」
「ま、不安なら護身用にスタンガンでも持ってくればいいよ」
「なんですかそれ(笑)」
「こんにちは」
「こんにち……わ」
「鶴見さんですか」
「えっ、えっ?」
「あ、ごめんなさい、人違いで」
「いや、違わない。合ってる。マカマカ……さん」
「そのハンドルネーム、リアルで呼ばれるとちょっと。佐藤(仮)ということで」
「……佐藤さん」
「はい」
「女性、だったんですね」
「言ってませんでした?」
「えっ、あっ、はい、まあ」
「むしろこっちがビックリですよー。だって声、女の子でしたし」
「さっ、最近のボイチェンは優秀ですからね。わりとみんなそうですよ」
「そーなんだ。わたし肉声でやってた、やばいかな」
「いや、やばくはない……です」
「とりあえず」
「あっ、はい!」
「歩きましょうか」
「あっ……はい」
「つかぬことをお訊きしますが、今おいくつだったり」
「十六です」
「じゅっ!?」
「鶴見さんは?」
「に、二十七」
「お若いですね」
「ええ……?」
「よろしくお願いします」
「えっ」
「今日一日」
「あっ、はい」
「ふふっ」
「えっ」
「さっきからそればっか。『あっ、はい』。ふふっ」
「……」
「なんかお腹空いちゃったなあ。朝ご飯食べてない」
「あっ、じゃあどっか入ります?」
「パン派? ご飯派? うどん派?」
「えっ? ええっと、ご飯派」
「ナイス」
「ら、ライス?」
「わたしもご飯派」
「……ははは」
「大丈夫ですか、朝ご飯食べたんじゃ」
「軽くだったから。このくらいは、むしろいい感じに腹減ってる……ます」
「十一時までの朝牛がいいんですよね、ここ。ギリ間に合いました」
「よく来てるんですか?」
「父とよく来てました」
「お父様と」
「面接官みたい」
「め、面接?」
「普通にしてていいですよ。普通にしててください」
「ははあ」
「お待たせしましたー」
「おー、キタキタ」
「そうそう、それ。そのテンションで」
「な、なるほど」
「それと」
「?」
「わたし、ネギ苦手で。いつもはお父さんに食べてもらってたんですけど……」
「ああ、」
「もらってくれますか?」
「……っ」
「?」
「や、なんでも……うん。なんでも」
「ほんとに僕が払ってもよかったんだよ? つうか今からでも払うべき、あ、でもさすがに絵面が」
「いえ。自分のお金は大事にしてください」
「はあ」
「ネズミ」
「え?」
「そこ、ネズミ。自転車の裏」
「ほんとだ、目いいね」
「小さい。ハツカネズミかな。それとも、ドブネズミの子ども」
「あんま近づかないほうがいいよ」
「なんで?」
「へ」
「なんでネズミって汚いんだろう」
「……えっ」
「ハムスターとかチンチラとかなら可愛いのに。可愛がられるのに」
「……」
「ネズミってさ、バカだよね。動画で見たことあんだ、ネズミ捕りにネズミが入ってって、出られないの。ポトポト、ポトポト、何匹も入ってって、誰一人出られない。それなのにみんな入っていく」
「あのさ」
「うん」
「きみはどうして、あのワールドに?」
「んー、知んない」
「そうですか」
「そうです」
「ムラサキさん、動きましたか」
「いやー、あれからめっきり」
「にゃー」
「にゃーですねー。じゃあ、ちゃんとクリアできた感じですかね」
「どうでしょう、現実世界でどうなってるかまでは」
「なおー」
「なおーですねー、わらびちゃん、なおーですねー」
「召喚者みたいですね」
「わたしの膝が魔法陣?」
「こんなとこ初めてきました」
「なんだか付き合ってもらっちゃって」
「いえいえ、こちらこそ貴重な機会を」
「最後に来れてよかったです」
「……よかったです」
「結構値上がりしてました。小学生でも来れるって、珍しいですよね。レギュラーの子もだいぶ入れ替わった、というか覚えてないんですけど」
「そうですか」
「そろそろ時間ですね」
「延長します?」
「……」
「そうですか」
「あっ、おやつの時間だ。じゃ、おやつだけあげて行きましょうか。えっと……あっ」
「?」
「やっぱ、やめよっかなあ」
「いいですよ、二百円くらい」
「えっ」
「はい、猫のおやつを……じゃあ、二つ」
「あの」
「はい」
「あっ」
「はい」
「えっと」
「は・い」
「……ありがとうございます」
「ここ」
「ん」
「いかがでしょう」
「あー」
「廃ビルってやつですね。この時間、人もいないし」
「はあ」
「敷いときましょうか」
「バックん中、それだったの」
「はい、まあ。念の為」
「念の為……」
「なんか他にあったほうがいいですかね」
「うーん」
「書いときましょうか。ペンと紙も一応」
「ペンキ塗りたて、って……」
「?」
「いや、ブルーシートの上に?」
「あ、そっか。じゃーどうしよー。これかっ」
「……地雷撤去中」
「どうでござんしょ」
「うん、まあ、うん。プフッ」
「なんで笑う」
「ごめんwww」
「風、すごいですね」
「高いですから」
「でもいい感じ」
「ですね」
「もうわたしにはね、なんもないんです」
「若さがあるじゃない」
「虚しいだけです」
「そうかなあ」
「きみのアバター、ネズミの女の子だったよね」
「ええ。フリーのやつですけど」
「あれ可愛いと思う、よ」
「そうですか」
「……うん」
「どうしよう、規約から外れちゃうな」
「え?」
「HDMI。一人で」
「でも、二人で」
「二人で」
「俺と、さ」
「?」
「や。俺……やっぱ」
「やっぱ?」
「いや、あのさ、焼肉〜、食いたくなってきたな。こ、こない? あっでも肉肉になっちゃう」
「あ、いいですね」
「だだよねえ!」
「来世でっ」
「あっ」
「肉碑もだいぶ増えたよなあ」
「せやな」
「なあ、なんかさ、もったいないよな」
「うーむ」
「きれいだよなあ」
「幻獣っつうの?」
「誰が描いたんだろ」
「知らへんがな」
「ついとーう」
「ついとーう」
(キスがさ)
(うん?)
(キスがこんなにきもちーなんて、知んなかった)
(ああ)
(色々、あったよね)
(うん。俺、幸せだ)
(んー)
(なに?)
(なんでも)
(なんだよ)
(えいっ)
(うおっ)
(しゅきしゅきー、ふふっ)
(はははは)




