第31話 生徒会長は連れ去られ、委員長はオチていった…前編
俺は楓をお姫様だっこしながら保健室を目指して無我夢中に走った——
一歩一歩と地面を踏みしめる度に右足に強い痛みが走っていたように思えるが不思議と気にならない。ビバ、アドレナリン。
保健室の前に着くと、肩でドアをスライドさせて勢いよくなだれ込む。
「先生!保健の先生はいますか!?」
その問いかけには反応がない。先生は不在のようだ。
俺はまず楓をベッドに横にさせて両肩に掛かった鞄を下ろすと、先生を呼びに行こうか迷った。このまま行ってもいいが彼女をひとりにするのも少し不安だ…
脳筋とは時に予想外の動きをする。
「楓、痛みは酷いか?」
「ううん、ちょっとジンジンしてる感じだけどそこまでは痛くないかな?ごめんね……心配させちゃって」
「それならいいんだ。とりあえず、あんまり動くなよ?」
………そうだ、この手が!
ひらめいた俺は、おもむろに自分の鞄を漁りスマホを取り出すと迷わず霞に電話を掛けた。数回のコールの後に彼女が出る。
「もしもし?恭介?どうしたの電話なんかして?」
「悪い霞っ……お前しか頼れなくて。今、楓が足捻っちゃったみたいで保険室にいるんだけど……」
霞に今の状況と保健室の先生を呼んで欲しい旨を伝えると、彼女は「すぐに行くわね!」と心強い言葉とともに会話を締めくくった。
しばらく楓の様子を見ながら待っていると廊下から足音が近づいてくるのがわかった。ガラッとドアの開く大きな音が保健室に響く。それに続いて霞の声がすぐに飛んできた。
「恭介!楓!大丈夫なの?」
「霞!来てくれたのか!」
ふと入口の方に目を向けると、そこにはあからさまに心配そうな顔をした霞が立っていた。その背後には保健の先生らしき女性の人影があり、すぐさま楓のベッドへと駆け寄っていく。
そして楓にいくつかの質問を投げかけるその様子から見ても、間違いなくこの人が保健の先生なのだろう。
ベッド周りの簡易カーテンが閉められると本格的な診察をはじめたのかカーテンに映るシルエットがせわしなく動いている。
その様子を遠巻きに見つめる俺のすぐそばに霞の気配が寄ってくる。
小さく俺の服を引っ張って何か言いたげに視線を向けてきた。
「恭介、あなたは大丈夫なの?」
「ああ、俺は大丈夫………」
「そう、よかった……びっくりさせないで」
「ごめん霞……それとありがとな、忙しいのに」
彼女にお礼を言って何気なく右足に体重を移動したその刹那、安心したからか足の痛みがぶり返しつい小さな声で『痛ッ』と口走ってしまった。
「恭介!?あなたっ……ちょっ!?もごっ!?」
「霞!!し〜〜〜!」
とっさに彼女の口を塞ぎ、口元に人差し指を当てジェスチャーをする。
ここで俺も足を痛めている事がバレたら楓はもっと気を落としてしまう。それだけは避けたい。
そんな俺の気迫を察したのか、霞はすぐに静かになってくれた。そして音もなくギリギリまで俺に近づいてきてニヤリと笑みを浮かべると、耳元でこそこそと囁いてくる。
「こんなところで私の口を強引に塞ぐなんて……そういうプレイかしら?少し興奮しちゃうわよ♡」
…………あっ、これ変な方に察してる!?人前で口を塞ぐプレイって……あるな確かに。忘れてた、こいつドMなんだ……
明らかにスイッチ入りそうな目線をする彼女に俺も声を落として彼女に囁き返す。
「ばかっ……そういうんじゃない!あと俺の足の事は内緒にしてくれ、楓をこれ以上凹ませたくない……」
「ふふっ♡わかってるわよ……家に帰ったら私が優しく手当してあげる♡ご主人様♡」
「おまえっ……やめろって!?」
もうっ……エロいのが悔しいっ……一瞬ナース姿の霞思い描いちゃった……俺もだいぶ毒されてきてるな……
そんな馬鹿みたいな事を考えている俺の腰辺りに急に手を回して来た霞。
そしてグッと強く引っ張り俺とくっつくと、耳元で不思議な事を囁いた。
「でもあなたのそういう所よ?私が心配なのは……馬鹿……」
……へっ??なんでちょっと怒られたの?
意味がわからず霞に尋ねようとしたが、タイミング悪く先生に呼ばれてしまいそれっきり。少し気になるが仕方なく俺は霞と楓のいるベッドの前へ向かい、先生の説明を聞くことになった。
「軽い捻挫のようなものだから、ちゃんと冷やして明日一日安静にしてれば大丈夫よ。えっと鷹村君だっけ?対応早かったのは凄くいいことよ、ご苦労様。これで解散してもらって構わないわ。じゃあ何かあれば呼んでちょうだい、私は職員室にいるから」
そう言ってスタスタと部屋を出て行く先生。思った以上にクールな人……
「ふたりとも……あたしの為にありがとね」
「私は何もしていないわ、全部恭介のおかげよ」
「鷹村……ほんとにありがと」
ベッドの上から楓が申し訳なさそうにお礼を言ってくる。
その顔を見るのがなんだかつらくて、俺はできるだけ元気そうに笑って彼女を励ました。
「気にするな!明後日からまた練習できるな!まずは安静にな!」
「うっ………うん」
なかなかいつもの調子を取り戻せない楓に、どう接すればいいか少し困っていたその時。突然、耳をつんざくような大きな音が飛び込んできた。
ガチャ!!ガララッ!!
驚いてその音の方向に目線を向けると保健室のドアが荒々しく開かれていた。
「柴乃宮さん!ここにいたの?探したよ?急にどっか行かないで!」
ドアの向こうに姿を現したのは丸山だった。彼は不機嫌そうに霞の事を呼び、俺の存在に気づくとこちらに鋭い視線を向けてきた。
「丸山君。私、先生には伝えたけど?」
「伝えても柴乃宮さんが居ないと困るんだ!しかもまたその男と……えっ!?楓まで何してるんだこいつと!!」
何の前触れもなく部屋に乱入してきた丸山は霞の腕を強く掴んで引っ張りはじめた。
その勢いは容赦ない。
「ちょっとなに!?だから私に触らないでって言ってるでしょ!?」
「ほらっ行くよ!」
霞の声もどこ吹く風とばかりに、丸山はまるで誘拐犯のような勢いで彼女の腕を引いて保健室から出ていった。
俺と楓はそのあまりの出来事にただ呆然と立ち尽くして見送ることしかできなかった。
「………丸山、あいつどうしたんだろうね?」
「楓、あいつ知り合いか?」
「えっ!?まさか鷹村……丸山の事も知らないの!?」
「えっ……うん。やっぱダメ?」
「ふふっっ……あはははっ!!」
楓が大きく笑い声を上げる。目尻にうっすらと涙を浮かべながら笑うその姿を見て、俺はようやく胸を撫で下ろし小さくため息をついた。
やっといつもの楓が戻ってきた。そんな気がしたからだ——
次回:生徒会長は彼に連れ去られ、委員長は落ちた…後編
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