第30話 お姫様だっこして校内爆走なう
体育祭まであと3日、水曜日の放課後——
その日も俺は楓との練習に明け暮れていた。
あれからひたすらに練習していた俺は、だいぶ形になってきた走りに小さな達成感を感じている。
「「ハァハァ………」」
1本、また1本と校庭を往復する。そして息が上がったら休憩。
「鷹村だいぶいい感じだね!やっぱ運動神経いいじゃん」
「そうか、でも楓が合わせてくれるから上手くいってる気もするけど?」
「そう?あたし結構本気でやってるからあんま気を使ってないよ?」
「そうか?意外に息があうのかもな、俺たち」
そんな言葉の応酬。スポーツから生まれる友情。ビバ青春。
俺は自然と楓と近い距離にいても気にならなくなってきた。
ある意味エロさ控えめな彼女には助かっている。これが霞だとこうはいかないと思う。ドスケベとはそういうモノだ。
まあ、時々香ってくる彼女の香りや少し透けてるブラっぽいものには悶々とするが、それは健全な思春期男子の証だ。
休憩がてら彼女は鞄からドリンクボトルを取り出すとグイッとそれをあおった。
「ぷはぁ〜、水分補給は大事だからね!はいっ鷹村も!」
「おうっ、サンキュ」
彼女が手渡してくるボトルを受け取り俺もグイッといく。そしてその後に気づく……
やべっ、これ間接キス……
時既に遅しだが彼女だと不思議と気にならない。というか彼女が気にしてないから気が楽だ。
「あっ!?」
「どした!?」
彼女が突然驚いたような声を上げたせいで、つられて俺もびくっとしてしまう。
視線を向けるとなぜか彼女の顔は赤らめて恥ずかしそうにしている。
「あたし鷹村と間接キスしちゃった!!」
「えっ!?わっ、悪い!?いつもみんなにやってるもんかと……」
「ううん……はじめて……」
いやっ、気にしてたんかい!!ってか初めて!?それは気まずっ……このボトル返さず買い取ろうか?いやいやそれもっとキモいよな………
どんなものも初めてとは気まずいものだ。彼女はすこし口を尖らせながら気まずそうにしている。対応に困る。ファースト間接キッスのマニュアルプリーズ…
「あたしもつい……ごめんあたしの飲みかけ嫌じゃなかった?」
「俺は……別に」
「そっか……じゃあいいや!これから好きにあたしの飲んでいいからね!」
……いやそれはそれで気にするぞ?
彼女はとにかく明るい。というか脳筋特有のさっぱりした感じを受ける。
これで普通の容姿なら本当に心を開けるんだが、明らかに整った美少女といえる容姿がそうはさせてくれないのが辛い所。やっぱりちょっと意識はしてしまう。
「じゃあ鷹村、もう一本行こう!!」
俺たちはまた互いの足をくくりつけて密着する。
やはりすこし大きめの彼女のおっぱいが当たるのには慣れないが、グッと理性でそれを押さえ込み彼女の腰に手を回し前を向く。
「「せーのっ」」
かけ声と共に走り出す。そして数十メートルほど走った時、事件は起こった——
俺たちの足に結ばれていた紐が不意に緩み、まるで狙いすました罠のように楓の足首に絡みついた。その拍子に彼女は前のめりに倒れてしまったのだ。
俺の視界はまるでスローモーションのようにゆっくりと動きはじめる。
彼女に怪我をさせてはいけない。俺はただそれだけに必死だった。
自由になった足で地面を思い切り蹴り、彼女の一歩先に飛び込むように倒れ込む。
すぐさま身を翻して両手を広げ、彼女の落下を受け止めるようにその身を差し出した。
ピキッと足に痛みが走るがそんなものその時はどうでもよかった。
「キャッ!!」
彼女の悲鳴が響いた次の瞬間、俺は彼女の下敷きになっていた。
「……………………楓………大丈夫か?」
「いたたたた………って……たかむら?」
「ん?」
「えっと……そのっ……ギュッてするの、緩めてくれると嬉しいなぁ………恥ずかしいよぉ……」
その声に咄嗟に目を開く。どうやら自然と目をつむっていたようだ……眼前には……
「えっ?ああぁぁぁぁっ!ごっ、ごめん楓!」
やばばばっ、顔近っ!?このままだと事故でキスしちゃう!?しかもおっぱい柔らかっ!!なんて言ってる場合じゃないんだわ……
俺は無意識に覆い被さるように倒れ込んで来た彼女を守るように抱きしめていたようだ。
その手を焦って離すと、楓は俺から恥ずかしそうに目を逸らし俺の身体から身を起こした。それを追いかけるように俺も身を起こす。
彼女は少し目を泳がせながら一度砂を払って地べたに体育座りをすると俺に声をかけてきた。
「ごめん、あたしの結び方が悪かったみたいで……鷹村は大丈夫?」
「俺は大丈夫だから、むしろお前が心配だよ、怪我はないか?」
「うん……なんかありがと。鷹村が助けてくれなかったら、あたし顔面からいってたかも。鷹村、反射神経凄いねぇ」
「そんなこと言ってる場合かよ」
冗談めいて苦笑いする彼女。俺は立ち上がるとズキッと右足が痛んだがそれを悟られないように彼女に手を差し伸べた。
「まあ楓が大丈夫ならそれでいい。ほらっ、立てるか?」
「うん……」
そう言って彼女が俺の手を取ろうとした瞬間、『痛っ!』と声が響く。
彼女は紐で縛っていた左足の足首をさすっている。
「おい!?やっぱダメじゃないか!?足首痛いのか?」
「いたた……ちょっとだけだから大丈夫だよ」
「ちょっとだけって……大丈夫なわけないだろ!?ほらっすぐ保険室行くぞ!!」
俺は近くにあったふたりの鞄をダッシュで取りに行き、それを両肩に掛けると彼女の元に戻って背を向けしゃがみ込む。
「ほらっ俺がおぶってやるから……乗れるか?」
「……鷹村……大丈夫、歩けるって」
「ダメだって!無理すんな!」
「でも…」
ふと彼女の顔を見るとこんな状況なのに恥ずかしげな表情をしてる。まさかおんぶが恥ずかしいの?
「楓!?お前恥ずかしがってる場合か!?」
「だって……おんぶされると、おっぱいいっぱい当たっちゃうじゃん……」
………えっ!?いまそこ!?さっきまでいっぱい当たってたのに!?どういう判断基準!?
少し混乱する俺。しかし事は急を要する。四の五の言ってなどいられない。
「ああっ!ったく!じゃあおっぱい当たらないならいいんだな!?」
「そうだけど……って鷹村ぁ!?ちょっとなに……うわっ!?」
俺は彼女の背中と太腿辺りに手を回すとグッと力を込めて持ち上げる。
そう、通称お姫様抱っこだ。
柔らかな太腿の感触に少し躊躇するがそんな事いってられない。
今はとにかく保健室に行かなければいけない。
彼女の選手生命に関わるんだ。それを俺が絶つなんて絶対にあってはならないんだ。
「たっ鷹村!?こっちのほうが恥ずかしいって!!みんな見てるって!!」
「誰が見てようが関係あるか!お前の身体が一番大事なんだ!お前が走れなくなったら俺が辛いんだ!悪いが我慢してくれ!」
「……たっ……鷹村……」
顔を真っ赤にして両手で顔を覆って黙り込む彼女。周囲から刺さる視線。
それを気にも止めず俺は楓をお姫様抱っこして校内を爆走し保健室に走り出した——
次回:生徒会長は連れ去られ、委員長はオチていった…前編
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