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第26話 霞が怒ると可愛くなるっぽい。

体育祭の出場種目会議を終えた俺は、足早に教室を出て廊下を歩いていた——


さっき見た霞からの呪詛のようなメッセージが気になる…そう思いながら歩いていると肩越しに声がする。


「恭介、帰りましょ」


それはいつもと変わらない霞の声だった。俺は逆に怖くなってしまう。


……あれっ?怒ってない……?


俺は警戒しながらも『ああ』と返すと、自然と彼女と肩を並べて歩き始める。

最近は教室内でほんの少しだけ会話する位には成長した俺だが、もっぱら霞と合流する方法はこういう自然を装った感じのものが多い。


「霞、今日少しだけバイト先寄って帰るな」

「あら、帰りは遅いの?ご飯遅めに作ったほうがいいかしら?」

「いや、仕込みだけだから2時間くらいかな?そこまで気にしないでくれ。いつもありがとな」


こういう時間にちょっとだけ幸せを感じる。そんな時だった——


「おーい!柴乃宮さーん!」


背後から男の声が近づいてくる。俺たちは思わず同時に振り返った。

そこにいたのは、短髪で小麦色の肌をした、いかにも陽キャな男子が白い歯をこれでもかと見せつけるように満面の笑みを浮かべていた。


「あら、丸山君。どうしたの?」


どうやら彼女は彼の事を知っているらしい。何とも言えない気持ちがわき上がってくるのを抑えながら俺は霞と彼を交互に見ながら話の流れを追う。


「なんか生徒会長と副会長の俺に体育祭の事で話があるって先生が言ってて…だから呼びに来たんだ!」


またこれでもかってくらいの爽やかスマイル。

この丸山って人、俺とは対照的だな。この人が生徒会の副会長なのか…まあらしい感じ……


「あらそう、仕方ないわね……恭介、ちょっとどこかで待ってt」


少しめんどくさそうに一瞬だけ眉をひそめ、何かを言いかけた彼女。

その隣にいつの間にか回り込んでいた丸山が、おもむろに彼女の肩に手を置くと、まるで俺と霞の距離を引き裂くかのように、強引に彼女を押しやっていく。


「ほら行こ!柴乃宮さん!」

「ちょっと!?…………気安く肩に触らないで!!」

「はいはい、照れない照れない!」


俺の存在など眼中にないように霞を連れ出そうとする丸山を、俺は黙って見つめるしかなかった。

ここで男らしくなにかを言えればいいんだろうが、そもそも生徒会副会長の彼に対してなにか気に障る事を言って、霞の立場を危うくするわけにはいけない。


ズキッと心が痛むのを感じる。そんな俺に追い打ちかけるかのように、丸山は俺に聞こえるような大きな声でこう言い放ったのだった。


「そういや横で話し掛けてきてたあいつ、誰なの?あんな見た目のヤツと一緒にいるの見られると柴乃宮さんの評判落ちるからやめたほうがいいよ?」


奥歯をかみしめ、拳に力を込める。

こみ上げる感情をなんとか抑え込みながら、俺はその言葉を胸の奥に飲み込んだ——



————



そのあと俺はひとりでバイト先のカフェに寄って仕事を終え、家に帰った。

少しだけ心に残る痛みはカフェにいた唯先輩と話していたら自然と薄れていった。


いつものように玄関のドアを開くと、俺よりも先に帰っていたであろう霞が出迎えてくれる。なにも変わらない日常がそこにあった。


「恭介、バイトお疲れ様。ごはん出来てるから食べましょう」


学校では絶対に見せない笑顔で霞が笑いかけてくれてる。それが何よりも嬉しい。

俺たちは食事を終えてソファで他愛もない話で盛り上がり、いつものように彼女が卑猥な言葉を織り交ぜて俺が苦笑いする。そんな事をしているとすぐに時間が溶けていってしまう。


この時間がもっと長ければいいのに…そんな事を思いながら風呂に入り今日も寝ようと寝室の部屋のドアを開けた……


……………ん?


俺の目の前にはいつもと少しだけ違った景色が広がっている。

部屋はいつも通りなのだが中央に敷いてある布団がひとつだけなのだ。

その布団の上にネグリジェ姿の霞が女の子座りでポツンと座ってこちらを見上げている。


………これは、俺の分の布団は自分で敷けってことか?やっぱり、霞怒ってる?


そう思って布団をもう一つ敷こうと、そっと彼女の横を通り布団を畳んである収納に手を掛けようとした時。


「恭介?」

「………はいっ?」

「なにしてるのかしら?」


若干冷たい彼女の声からなにかを察して、そっと声の方を見る。

少しだけ目を細めてご機嫌斜めの彼女がそこにいる…


「えっと……俺も布団敷こうかなぁなんて……」

「布団ならここに敷いてあるじゃない、なにか不満なのかしら?」


フンッフンッと小さな息づかいと共に自分の隣辺りの布団をポンポンと叩く彼女。


いや、不満ではないですが………あなたの行動に一抹の不安を感じております……

まあそんな事言えない。俺は一応、彼女の意図を取り違えないよう配慮しようと奮闘する。


「えっと……一緒の布団で寝るって事?それとも俺はフローリングで寝ろって事?」


怒っている場合は後者の方が可能性が高い。

それなら甘んじて受け入れよう。なんか彼女を怒らせたっぽいし。


「なんで恭介がフローリングで寝るの?一緒の布団で寝るに決まってるじゃない」

「………えっマジ?」


そうなんだぁ、決まってるんだぁ……


「まさか今さら恥ずかしがってないわよね?私と一緒にお風呂入ってキスしたり、寝る前に恭介から誘ってきて布団の中で裸で抱き合ってディープキスまでしたのに?」


間違ってない…間違ってないけど間違ってるぞ!!解釈の違い出てない!?ほとんど霞が主導じゃない!?いや……誘ったのは俺かも……


「ほらっ、ここに来て。寝るわよ。今日からは布団は1枚にするから。覚悟しなさい恭介」


これが【覚悟しとけ】の正体か……


彼女は自分から先に布団に滑り込むと、隣をめくり俺に入るように促してくる。

俺は渋々それに従った。また何か過ちが起こりそうな気がするが、もう仕方ないじゃない……


布団に入ると彼女の温もりと安らぐ香りがダイレクトに伝わってくる。

どうしても心臓が早く脈打ち心が高鳴ってしまう。

そんな俺に構う事なく彼女はサッと電気を消すと空間は静寂と闇に包まれた。


数分だろうか、俺たちはなにも話さずただ天上を見上げていた。

そして静寂を破るように霞がそっと口を開く。


「ねぇ、恭介。楓って元気でいい子よね。よかったわね彼女と組めて……」


あっ……やっぱそれ?霞が怒ってるの……


逆にスッキリした。なんか予想もしない事に怒っているのかと思っていたから。

俺は彼女を見ようと身体を傾けると、既に彼女は俺の方に顔も身体も向けていた。


「霞。お前嫌なのか?ならどうにか変わってもらうように頑張ってみるけど…」

「いいわよ、抽選だったんだから……あと私、生徒会役員だからそこは公平にしないといけないし………でも変な気とか起こさないで」

「それはないって……」

「ほんとにダメだからね?競技中のアクシデントとか言っておっぱい触ったり、キスしたり……エッチしちゃったりとか!!」

「エッチ!?どうやったら二人三脚でそんな事が起こるんだよ!?どんなエロ漫画だよ!?」


……マジでおっぱいは100歩譲ってあり得るとして、それ以外は故意だろそれ!?


「わからないじゃない!?」

「いやそこはわかるだろ!?そもそも変な気もなにも今日初めて話した子だぞ?」

「恭介が大丈夫でも、彼女が起こすかもしれないじゃない。だから誘っちゃダメよ!彼女可愛いし、スタイルいいし、恭介むっつりだからすぐに彼女をモノにするかも……あなたのモノは私だけで十分でしょ……」


言っておこう。俺は一途だ……そしてモテない。って余計なお世話だ。


「お前、俺の解像度低くない!?それと、それを言うなら霞の方が可愛いしスタイルいいじゃないか」

「………わっ、私の事は…………ズルいわよ恭介」


急に失速した彼女は俺の胸に顔を埋めてくる。ズルいのはどっちだ。

俺も頭の片隅に残るあの気持ちを恐る恐る彼女に出してみる。

もちろん俺にそんな権利などないとわかっていながら。


「なぁ、霞お前こそ……あの丸山ってやつ……誰だよ?」

「へ?」


その言葉に拍子抜けしたような声を上げる彼女。そして可笑しそうにクスクスと笑うと、俺の胸からそっと顔を上げて両手を首に回し顔を近づけてくる。


「あらぁ♡なに恭介?あのキモいヤツに妬いてるの?あんなのに?あなたも私の解像度低すぎよ?」

「やっ、妬いてるっていうか、そのちょっと失礼なヤツだなって……」

「ふふっ♡そうよね……でも安心して、私のご主人様はあなた。私はあなただけのモノだから……」

「おい、ご主人様って………やめろって……」


そう言いながら俺は彼女の言葉に不思議な安心を感じていた。

嫉妬とはこんな気持ちだったのか…


流れでふと唇に彼女の唇が触れる。まるで彼女の心が伝わって来るような優しいキス。

俺はそっとそれに応えると彼女は俺をギュッと抱きしめてふたりで眠りに落ちていくのだった——




次回:放課後の練習でパイタッチ…前編


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