第25話 ポニテ健康美女ってヒロイン枠だよね?
それは6月中旬の月曜日の帰りのホームルーム——
その日、俺は学校に登校したことを深く後悔した。
なぜかって?それは今週土曜日にある体育祭の出場種目を決める必要があったから。
なにを大げさにって思ってるだろ?俺は高校に入ってから体育祭に出たことがないんだ。ボッチだし不良のイメージが着いている俺を怖がる人が多いから、一緒に何かをするのが申し訳ない。
だからいままで気を使って、体育祭の期間は学校を休みバイトに明け暮れていたってわけ。
教室の教壇にはクラスをまとめようとしている生徒会長である霞と、名前は忘れたがクラス委員長の女子が、体育祭の出場種目の振り分けについてクラス全体と会議の真っ最中。
霞ってすごいよなぁ……
家ではあんなにぶっ飛んでるドスケベな彼女が、学校では別人のような雰囲気を放っている。隠れドスケベって誰にも悟らせないそのスキルには素直に感服する。
「それではあらかたみんなの出場種目が決まって来たので、残りは……」
軽やかに場を回す霞に合わせて、委員長は淡々と黒板に種目と名前を記していく。
「男女混合二人三脚と紅白対抗リレーと玉入れが残ってますね」
その言葉に俺は戦慄した……
俺がボーッとしていた間に色々決まっていたようだ、しかも残っている種目が問題。
紅白対抗リレーは誰もがわかる体育祭の最終種目でクラスの代表が争うアレ。
クラスのヒーローの為のもの。
そして男女混合二人三脚。
これは男女が組んで二人三脚をするという俺の高校独自の競技。そして、その実態はカップル種目といわれている。
要するに学園内のカップル同士が肩を組み密着して、キャッキャ、ウフフッってやるやつ。
俺に玉入れ以外の選択肢はない。そう思っていた時だった…
「では次は男女混合二人三脚です。基本、立候補者がパートナーを推薦するのがルールですので、まずは立候補したい人はいますか?」
霞がクラスに問いかけると数名手が上がる。そしてその立候補者がパートナーを指名してゆく。なぜか上がるヒューヒューというかけ声。
これもうカップル宣言会場じゃん………
「あと一組必要なんですが立候補者はいませんか?」
霞が問いかけるが返事がない。
そしてしばらくの沈黙の後、彼女はゆっくり口を開く。
「候補者が決まらないので抽選です。まだ出場種目が決まってない人は手を挙げてください」
俺も含めてぽろぽろと手が上がる。それを確認した彼女は手元の紙になにかを書き込むと『もう手を下げて大丈夫です』と一言告げておもむろにスマホを取り出す。
そして何かの操作を始めて数分後、スマホの画面を俺たちに見えるように掲げて説明を始めた。
「この抽選アプリに男女別に名前を入力しました、今からこれで男女1人づつ選びます。まずは女子から」
俺はクラス全員の名前を覚えている彼女に驚きながらもその抽選の行方を見守る。
アプリの小さな画面が高速で動き数秒後ピタッと止まった。
「はい、女子は藤咲さん」
「えっ!?あたし!?」
霞の横にいた委員長が急に驚きの声を上げる。どうやら彼女が藤咲さんらしい。
委員長って藤咲って言うんだ……今更知ったよ…
流石に自分の無関心さにちょっと引いた。
「では次、男子」
霞は淡々と進めてゆく。有無を言わせない頼もしい仕切りである。
男子の抽選という事もあり、俺は少しだけ緊張しながら霞に注目していた。
そしてすぐに抽選結果が表示されて霞が読み上げようとした時…
「男子は………えっ!?きょ、恭……恭介!?」
……………………ん?霞、今俺の名前呼んだ?
あからさまに動揺した声を上げ視線を泳がせる彼女。
その様子に不穏な空気を感じ取った俺の体から、じわじわと冷や汗が噴き出してきた。どよめくクラス。そして彼女はもう一度はっきりと言い放つ。
「男子は………鷹村くんです……」
「えっ……?」
俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。
空気が一瞬で凍り付く。そしてまたもや定番のひそひそ声が俺の耳に飛び込んでくる。
(うわぁ……鷹村と組むとか、楓大丈夫か?……)
(鷹村君と組むとかなんか暴言吐かれそうで怖いよねぇ……)
いやだからそのイメージどっから来るのよ!?俺そもそもクラスで声出さないじゃん!?
これが嫌だから体育祭なんてやりたくないんだ。
別に運動嫌いじゃないから、出来れば俺だってエンジョイしたいよ本当は。
そんな険悪なムードのクラスに大きく明るい声が響いた。
「鷹村!これも何かの縁だから宜しくね!!」
それは教壇の上の委員長から発せられたものだった。
思わず目を丸くして委員長を見ると、彼女は眩しいくらいの笑顔でこっちを見ている。狼狽えた俺はキョドリながらどうにか返事を返そうと試みる。
「あっ………ああ、宜しく………えっと、ふじさき………さん?」
「そういえば話した事ないもんね!あたし藤咲楓!楓って呼んで!か・え・で!やるからには優勝目指してがんばろうね鷹村!!」
そう言って胸の前でガッツポーズをする藤咲さん、もとい楓。
俺はその日初めて彼女の事を認識した。俺の学校生活に一つの彩りが加わる。
今後失礼のないように、記憶にとどめようと改めて彼女をしっかりと見つめてみる。
霞よりもちょっとだけ背が高く、スラッとしてるのにちゃんと出るとこは出てる。
そんな健康的な魅力を持つ彼女は、肩にかかる黒髪をポニテにまとめて俺に屈託のない笑顔を向けてくる。
そしてその笑顔の中にちらりと見える八重歯がチャームポイント。
少しやんちゃな美女といった雰囲気の顔立ちは可愛いと思う。
これは確実に陽キャだ……話しやすいなら嬉しいなぁ……
そんな事を思っている俺の目の端に、何やらどす黒いオーラがちらついた気がした…
スッとその禍々しい気配に目を向けると、そこには鋭い目つきで教卓から見下ろすように睨み付けてくる霞の姿があった。
……えっ、なに?霞おこ?俺なにもしてないよね?コワいってマジで……
言葉にできない気持ちを視線に込めて霞を見つめ返す。だがその瞬間、霞は軽く眉をひそめてプイッとそっぽを向いてしまった。
その後もまだクラス協議は続く。
頬杖を突いて流れる話を聞き流すように聞いていた俺のポケットで、不意にスマホがブルッと震える。
周りにバレないようにそっとそれを取りだして画面を確認すると1件のメッセージ。
【霞:帰ったら覚悟しとけ。】
…………いやだからなにを!?ガチおこじゃん!?字面怖っ!!最後の『。』が特に!
俺は震えながらスマホをしまうと、頭を抱えてその会議の終わりを待つのだった——
次回:霞が怒ると可愛くなるっぽい。
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