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第2話 俺は生徒会長を買った

俺が学校に到着した時には既に昼休みの時間だった——

いつも通り自分のクラスに向かうも足取りが重い。


「はぁ………これから俺バカな事するけど、ますます評判悪くなるよなぁ……」


別に評判が悪くなろうが構わないのだが、これ以上クラスに居場所がなくなるのは正直辛い。


でも、彼女が辛い目に遭ってるなら、そのほうがもっと辛い。


俺は昼休みの賑わいが漏れ聞こえる教室の前で、一度立ち止まる。

揺らぎそうな心を奮い立たせるように大きく息を吸い込み、俺は一歩踏み出した。


いつも通り、クラスが少しざわつく。もちろん悪い意味で……


(あれっ?鷹村くん今日来たんだ)

(うわっ不良の鷹村だ、恐ぇ)


これもいつも通り。平常運転です。はい。


誤解のないように言っておくが、俺は何もしていない。普通に学校に通ってるだけ。

ただ、この高校が進学校だからか、少し不良っぽい見た目というだけで不良認定される理不尽さにはいい加減うんざりする。


周囲の視線など気にせず俺は奴らの間をすり抜けるようにして、一直線に彼女のもとへと向かった。

何人かの同級生に囲まれる彼女はやはり抜きん出て美人だ。整った美貌の中に、どこか優しさを感じさせる顔立ちに小さな泣きぼくろ。それを引き立てるような艶やかな黒髪ロングのハーフアップ。しかもスレンダーな身体に似合わぬ巨乳、いや爆乳ときている。


そんな高嶺の花に躊躇ためらわず声を掛ける。


「柴乃宮、ちょっといいか?」

「あら?鷹村君、今日はお休みかと思ってたわ。どうしたの?私に何か用かしら?」

「ああ、ちょっとな………どっか別の場所で話せるか?」

「別の場所?まだ私お昼を取ってなくて、ここじゃダメかしら?」

「わりぃ、ここだとちょっと……」


そんなやりとりをしている間も、周囲からは刺さるような視線が降り注ぎ、ひそひそと俺のことを囁く声が絶えず押し寄せてくる。


(なにぃ?不良に絡まれて柴乃宮さん可哀想……)

(あいつ柴乃宮さんと話すとか何様だよ)


「柴乃宮っ!!マジですまん!!俺について来てくれ!!」


俺はそう叫ぶと彼女の手を強く引き、手を握ったまま迷いなくダッシュで教室を飛び出した。

あまりに急な俺の行動に彼女も姿勢を崩しそうになっているようだが、そんな事に構っていられる余裕はない。


「後でいくらでも文句を聞くから!!」

「ちょっと!?鷹村君なにっ!?どこ行くのよ!?」


廊下を突っ切り、階段を駆け下り、上履きのまま全力で体育館裏へと突っ走る。


やがて誰もいない場所へ辿り着くと、そこでようやく足を緩め肩で息をしながら荒い呼吸を吐き出した。


「ハァハァ……ちょっと!?鷹村君これなんのつもりかしら!?」

「マジでごめん、柴乃宮」


ひたすら謝りながら、彼女の顔色を伺う。

その表情からは明らかに苛立ちが滲み出ていて、ひしひしと俺に向けられているのがわかる。


俺はどうにか荒れた呼吸を整えようと深く息を吸い込み、例の件を切り出そうとしたその瞬間、彼女の方から言葉が飛んできた。


「で?こんな白昼堂々私を拉致るなんて、よほどの事でしょうね?」

「拉致って、人聞き悪いな!?」


いや、冷静に考えて拉致に近いかも知れない。彼女が正しい。すまん。


「あのな……柴乃宮、今から俺が言うことが間違ってるならそう言ってくれ」

「なにかしら?」


眉をひそめてこちらを睨む彼女に向かって、俺は少し躊躇ためらいながらも昨日の事を問いただす。


「なあ、昨日の夕方、新宿いたか?」

「新宿?いたわね。それが何?」


彼女が新宿にいた。それを認めただけで心がズキッと痛み、昨日の吐き気が蘇る。


俺はおもむろにスマホを取りだし、例のSNSの画面を表示すると震える手で彼女へと向けて再度聞く。


「…………これ、お前か?柴乃宮」


その画面を見た瞬間、彼女は一瞬大きく目を見開くとあからさまに動揺したように目を逸らしたように見えた。


「鷹村君。これ……いつから知ってるのかしら?」


昨日見たあの光景は間違いじゃなかった……彼女のその反応が物語っている。


「昨日だよ……」

「そう…………どうすればそれ、忘れてくれるかしら?いまここで、お口でヌイであげましょうか?それとも下の……」


彼女はまるでスイッチが入ったような妖艶な表情になり、卑猥な言葉と共にこちらに近づいてくる。俺はそんな虚しい仕草に無性に腹が立ち、ただ頭に浮かんだ事を全てぶちまけた。


「馬鹿野郎!自分を安売りすんなよ!柴乃宮は……お前はそんな安い女じゃねえだろ!誰より優しくて、誰より美人で、誰より笑顔が可愛くて、みんなの憧れで……俺なんかが話すこともおこがましい位、高嶺の花で……とにかく最高にいい女だろうが!」


つい頭に血が上り、自分の感情の全てをぶつけてしまった。

それを自然と脳内でリピートすると急に気恥ずかしさが吹き出してくる。


俺何言ってんの?これ絶対今じゃないよね?


しかし、その言葉がどう効いたのかはわからないが、なぜか彼女は顔を真っ赤にし戸惑うようにうつむいてしまった。

お互い黙ってても話は進まない。俺もクソ恥ずかしいのだが、どうにか声を絞り出し彼女の名前を呼ぶ。


「柴乃宮……」

「なにかしら……」


急にしおらしく返事をする彼女に、少しの違和感を感じながらも俺は昨日考えたバカな提案を恥ずかしげもなく投げかけた。


「お前、今日暇か?」

「ええ、今の所は」

「今日も……お前は売ってるのか?」

「それは……」


俺はおもむろに胸ポケットから1万円札を10枚取り出すと彼女の目の前に突き出して言い放つ。


「柴乃宮……お前の今日を俺に売ってくれ!!」


その日、俺は生徒会長を買った——




次回:放課後のカフェで待ち合わせ

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