第18話 2度目の朝チュンはしっとりと…始まるふたりの学園生活
深い夢の底で、微かに俺の唇に何か触れた気がした——
それは柔らかく熱を帯びており、まるで意志を持っているかのように優しく絡みついてくる。
「………っん……」
意識がゆっくりと浮上していく中、僅かに開いた瞼の先に、目を閉じて俺に口づけを落とす霞の姿が視界に滲んだ。
「おはよう。恭介」
「………おはよ……」
まだ目覚めきらない意識の中、彼女の優しい声色に顔が緩むのを感じる。どうやら、おはようのキスというものを俺は経験しているようだ。不思議と驚きも感じない。
カーテンの隙間から差し込む朝の光がほぼ裸の彼女を淡く照らす。それはエロいというより美しいという表現が正しいだろう。
「キスって……気持ちいいわよね。私ちょっとクセになりそう♡」
「クセになりすぎるのはよくないかもしれないぞ……」
全くツッコミに切れがない。寝覚めのツッコミとはだいたいそういうものだ。
俺はゆっくりと身体を起こすと彼女は名残惜しそうに俺から少し離れた。
「そろそろ学校に行く準備しなきゃいけないわね。ちょっと名残惜しいけど」
「ああ……」
彼女は小さく微笑むと、布団の中でくしゃくしゃになったネグリジェを取り出してさらっと羽織りリビングへと向かっていった。
朝がめちゃくちゃ弱い俺は、今になって意識がはっきりとしてくる。それに引っ張られるかのようにどんどんと罪悪感が湧き上がってきた。
「……やっちまった……危なかった……」
昨日は危うく彼女と一線を越えてしまう所だった…
何度も言うが俺はギリギリで踏みとどまった。ギリ理性の勝ち。
期待をさせたならすまない……俺はチキンなんだよ相当な……
しかし俺にとっては付き合ってもいない女性とキスして裸で抱き合うという行為だけでも少しの罪悪感がつきまとう。
ましてや昨日は俺から雰囲気に負けてやってしまった。
なんか、『どしたん?話聞こか?』に似た威力というものを肌で感じた気分だ。
何より彼女が心から俺にキスを求めていたのかと言われれば、自信を持ってそうだとは言えない。
なに?もう付き合っちゃえって?無理に決まってるだろ、俺は彼女を買った、だから彼女は俺に逆らえない。俺が適当にでも付き合ってくれとでも言おうもんなら、嫌でもYESとしか答えられないじゃないか。
まあ、そこが俺の一番の悩みなんだ。せめて本当の彼女の気持ちがわかればいいのに…
「恭介?朝ご飯一緒に食べない?」
リビングから彼女の声が響く。こんなにも幸せな朝は初めてだ。それと共にこれを失う怖さを考えてしまう。
「ありがとう、今行く」
俺は急いでTシャツを羽織りリビングへと向かうと、そこにはトーストや目玉焼きなどの良い香りが漂っていた。
「霞、無理はしないでくれよ?作ってくれるのは嬉しいけど、俺お前の負担にはなりたくないから」
「恭介?そんなに心配しないで、私は前から朝は自分で作っていたから大丈夫よ」
「そうか、それなら良いんだけど……俺、軽く顔洗ってくるな。先食べててくれていいから」
「わかったわ」
俺は急ぎ足で洗面所に向かうと顔を洗いサクッと歯を磨いて戻る。
リビングではネグリジェ姿でテーブルに腰掛けて、彼女がゆったりと朝食を取っていた。俺はそれを横目にいつもの朝の儀式である軽くドリップしたコーヒーを入れ始める。
「霞はコーヒー飲むか?それとも何か違うものがいいか?」
「ありがとう、いただくわ。恭介の淹れてくれたコーヒー、私好きよ」
彼女の好きという言葉に少しドキッとする。なんともダサい童貞的反応。
好きなのはコーヒーであって俺ではないだろ!
俺はふたり分のカップを持ちダイニングテーブルに置くと久々の朝食を取り始めた。
「やっぱり霞の料理美味しいな……」
「そう、嬉しいわ喜んでもらえて。あなたのコーヒーもとっても美味しいわよ」
「そうか、よかった…」
何気ない会話が温かい。同棲とはみんなこんな感じになるのだろうか?
家族とは違う、不思議な暖かさ。
香り高いコーヒーを一口すすり俺は一息つく。
「そういえば、お前もう身支度ほぼ整ってるみたいだけど……いつ整えたんだ?」
「へぇ、意外と鋭いのね。恭介を起こすちょっと前に軽く整えておいたの。もちろん歯磨きもマウスウォッシュもしてから恭介にキスしたわ。ディープキス出来るように」
「ゴフッ!?ゴホッゴホッ……」
朝から彼女は絶好調。俺は誤飲をしてしまい涙目になっているのに。
そして喉まで出かかった彼女へのキスを咎めるような言葉を唾と共に飲み込む。
俺たちまだ付き合っていないし気軽にキスはヤバくない?というその一言を。
俺はズルくて女々しいダメ男だ…
「そもそもお前裸で家の中歩き回ってたのか!?」
「ええ、正しくはパンツ1枚だけど。いいでしょ?恭介くらいしか見ないんだから」
「それは、悪いワケじゃないけど………ってか俺はキスの準備とか色々整えてなかったのに霞は、その、よかったのかよ?」
「私は全然気にしないわ。むしろ少しくらいその人の匂いがしたほうが……」
OK。聞いた俺がバカだった……そのあとの彼女の言葉はもう右から左に流してしまおう…
————
楽しい朝の時間とは短いものだ。すぐに登校の時間が近づいてくる。
俺たちは身支度を整えるふたりで玄関をくぐるとマンションのエレベーターに乗る。そして朝の登校でのちょっとしたルールを彼女に確認しようと話し掛けた。
「霞、俺途中でコンビニ寄って行くからそこで一旦別れよう」
その一言に彼女は何かを察したかのように俺に目線を向けてきた。
「………わかったわ。別に一緒に登校しても私は全然良いのよ?」
「それはありがたいんだけど……お前、朝みんなに挨拶されてるじゃん?そこに俺がいるのは俺がちょっと耐えられないというか……」
「そう、恭介がそうなら仕方ないわね……」
彼女は露骨に顔を曇らせる。俺だってそんな表情は見たくない。でもこれも彼女の為であり、そして俺の逃げでもある。こんな自分自身に腹が立つ。
「霞…」
「なにかしら?」
「昨日の霞の言葉、本当に嬉しかった。ありがとな……俺、頑張るから少しだけ待っててくれ」
驚いたように目を丸くした彼女だったが、すぐにふんわりとした笑みを浮かべ俺の肩にそっと自分の肩を寄せてきた。
「ええ、待ってるわ…」
俺は変わらないといけないんだ、彼女の為にも、自分の為にも。
俺たちはエレベーターを降りると朝の爽やかな空気の中を学校へ向かい歩き始めた——
次回:お昼休みは、ほのぼの一緒にご飯タイム
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