第15話 性癖の擦り合わせって…それ今必要?
俺と霞は徒歩5分ほどのスーパーで買い物を済ませると、すぐに家へ戻り料理の準備に取りかかった。とはいえ俺は料理がからっきしダメだったりする。
だから基本的には彼女のサポートに徹していた。
彼女の手が動くたび、まるで魔法のように次々と料理が出来上がっていく。
そんな彼女を見ていると別の感情も湧いてくる。
霞を嫁にしたら……こんな感じなのかな?
そんな妄想にふけりながら、俺はただテキパキと動く彼女に見とれていた。
「恭介、出来上がった料理持っていってもらってもいいかしら?」
彼女の呼びかけに俺は現実に返ってくると「ああ」と間の抜けた返事と共に料理を運ぶ。
わずか30分程で、ダイニングテーブルはパスタにサラダ、ロールキャベツなどなど色鮮やかな料理で埋め尽くされていた。
洗い物を手早く済ませた俺たちは、並んだ料理を眺めながら思わず笑顔になって静かに「いただきます」とつぶやき食事を始める。
「これ……めちゃくちゃ旨いんだけど!?霞、お前凄いな……」
一口食べた瞬間から俺はそう言ってしまっていた。
彼女の手料理はお世辞抜きに絶品なのだ。俺は確かにバカ舌だとは思うがそれでも違いがわかるほどに旨い。
「そう、よかったわ。どれも得意料理なの」
「すごいよな、本当に何でも出来て……」
「そんな事ないわ」
そしていつもの失言タイム。今日も俺のお口の滑りは絶好調。脳みその回転は絶不調。
「こんなに美味しい料理なんて久しぶりだよマジで。俺、霞の料理毎日食べたい」
粘度の高いキモい発言ごめんなさい……なに俺?結婚でも匂わせてる系?付き合ってもないのに……
そんな自己嫌悪に堕ちてゆく俺。一方彼女はというと完全に下を向いて肩を震わせていた。
「あっ……霞?……」
少し気まずい空気に小さな焦りを覚えた俺は彼女に声を掛ける。
すると彼女はゆっくりと顔を上げ、そこで俺は更に焦りを加速させた。
なぜか顔を真っ赤にした彼女の目尻には、ぽつんと小さな涙の粒が滲んでいたから。
「かっ、霞!?なんかごっごめん!」
「ううん……そんな事言われたの初めてで、ちょっと嬉しくって……」
「うっ、嬉しい?マジで?キモくない?」
「キモくなんかないわよ。ありがとう、恭介。私、毎日あなたの為にご飯作るわ」
「えっ、えっと………その……ありがとう」
打って変わってにこやかに笑う彼女の表情が眩しくてつい目を逸らしてしまう。
俺は童貞特有の会話デッキの少なさからこの状況でかける言葉を失ってしまい、彼女が落ち着くまでは様子を見ながら美味しい食事に集中したのだった。
————
食事を終え、ほんのり満たされた空気が部屋に漂う頃。
俺は立ち上がると彼女のために一杯のカフェラテを淹れた。
俺からのちょっとしたねぎらいのつもりだ。
俺は一応カフェでバイトしているから、ドリンクを作ることに関しては少し自信がある。家にもそれなりに道具を揃えたりしているし。
「これ、よかったら飲んでくれ」
俺は彼女の前に綺麗なラテアートが描かれたカップを差し出す。
「えっ、これ恭介が淹れたの!?」
「ああ、一応な」
目をキラキラさせてカップを見つめる彼女に少し気恥ずかしくなりながらも、俺は小さな達成感を感じる。彼女は両手でカップを持ち上げるとゆっくりと口元へと運んでゆく。
「うん、おいしい♡」
「よかった……」
照れ隠しに自分も適当に同じものを作ると俺もテーブルに着いた。
なんというか満たされた気分だ。美味しい食事とコーヒー。目の前には美人で巨乳な女の子。こんな日が来るとは思ってもみなかった。
そんな感情に浸る俺に彼女が唐突に話を振ってくる。
「ふぅ……そういえば恭介、あなたに知っておいてほしい事があるの」
「ん?どうした?改まって」
こういう会話の切り出しはちょっと苦手だ。大体ろくな会話にならないのを知っているから。
「あなたは私を買ってくれたわよね?」
「ああ、まあそうだがあんまりそのことは引っ張り出さなくても……」
「あのね……」
少し真剣な表情になる彼女。美しい顔立ちの人が真剣な表情になると、空気感が変わるものだ。俺は自然と身構えてしまう。
「あの金額の中には、《《大人》》が含まれているのよ」
……………はい??
脳内の知識をフル動員しても彼女の言葉の意味が一ミリも理解出来ない。
どうしようもないので素直に俺は聞き返す。
「大人って………なに?」
「あら知らないのね。大人ってのは、セックスのことよ」
「へぇ………セックス……セックス!?」
「ええ、あなたはセックス込みで私を買ってるのよ?」
いきなり何を言い出すかと思ったら!?真剣にセックス込みとか言わないでくれない!?
「そうなの!?ってかそう言われても……」
「ちゃんと覚えておいてほしいだけよ。私はあなたに求められればどこでだって一切拒むつもりはないわ。いつでも準備OKよ」
「ブフッ!?ゲホッゲホッ!!」
俺は軽くカフェラテを吹く。『いつでも準備OKよ』とかそういう問題ではない。俺が全く準備不十分だ。
「それとね…これから一緒に住むわけだし、互いに性癖は知っておいたほうが良いと思うの」
「性癖!?いやそれ互いの為になるか!?要らなくない!?もっと大事なのあるくない!?」
「いるわよ!だってどうせならツボを押さえて楽しみたいじゃない!」
いやいやいや『ツボを押さえて楽しみたいじゃない』じゃなくない?どうしてそうなった!?同棲にあたって最初の擦り合わせ箇所そこ!?
「ちなみに先に言っておくと…私は相当なドMよ。できれば乱暴に征服されたいわ。もっと言うなら……奴隷のようにモノみたいに扱われたり、命令されるのが好きね♡でも求められたら何でもしてあげたくなっちゃうし、とにかく尽くしたいの!!尽くしている時に喜びが感じられるの!!」
……そうか、彼女の発言で完全に合点がいったわ。今までの霞の行動、あれ霞の癖だ。俺の為とかはともかく、心から楽しんでるヤツだ。要するに……この人ドスケベだ。
まくし立てるように自分の性癖を暴露し始める彼女はどことなく楽しげだ。俺はそんな彼女の容姿から出てくるとは思えない、卑猥極まりない言葉を唖然としながら聞き続ける。
「あと私、結構性欲強いわ。食欲が満たされた今、ムラムラし始めるくらいには…」
「お前っ、そこまで暴露しなくても!?」
「だから……もし襲っちゃったら許してちょうだい。心と体は別なの」
「いやっ襲うって、そんなに凄いのお前の性欲!?」
完全に本性をさらけ出した彼女。ここに美人で清楚なドスケベ巨乳ドM生徒会長が爆誕したのであった。
「恭介はどうなの?どんな事が好きなの?私が何でもしてあげるわ♡」
遂にその矛先が俺に向く。しかし俺は本当にドノーマルである。というか経験0だからわからないというのが正解か…
「俺は……そこまで癖があるわけじゃ……というかまだわからないんだよ」
「あらそう、じゃあ色々とこれから一緒に見つけられるわね♡」
ああそういう切り口で来るんだ。まあ、間違いではないが…
まあ願わくば彼女と付き合えたらそんな事が出来たら嬉しいのは事実だ。
でも今それをしてしまえばただ彼女を性のはけ口にするだけのクズと同じ…
俺はこの後も彼女の様々な癖や隠語、卑猥な表現について耳を傾けながら白目でカフェラテをすするのだった——
次回:男女の夜って、まあそうなっちゃうよね。前編
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