第11話 あの夜の出来事——霞SIDE
霞SIDE——
昨日、私は初めて男の人と抱き合った。そして今も、その人の側に寄り添っている。
彼の温もりが心地よくて、思わずそのぬくもりを求めるようにさらに私は身を寄せた。
私は柴乃宮霞。ほんの数十分前に、まさに目の前でスヤスヤと小さく寝息を立てて眠る彼……鷹村恭介に自分の一年を買われた幸せな女だ。
私の親が作った借金を彼が払う。その代わりに私はウリをやめて、一年を彼に捧げる。彼の提案はあまりにも唐突で、まるで夢物語のようだった。
私には一切のデメリットなんてないそんな提案。
普通ならその提案は断るべきだと思う。彼の事を考えるなら。
でも、私はそれをわかっていて受け入れた。私はズルい女だ。
昨日、このベッドの上で彼を誘った時だって————
——————
シャワーから上がった恭介をベッドに誘ったその時、私の心臓は今にも破裂しそうだった。だがそれ以上に、彼と迎えるであろう夜に胸が期待で膨らんでいた。
彼が私に名前で呼んで欲しいと告げてきた時、私は思わず顔がほころんでいたと思う。彼との距離をより近くに感じる事ができるから。
それだけでも十分だったはずなのに、欲張りな私は勇気を振り絞って彼にキスをねだった。
彼はそんなわがままさえも受け入れてくれて、私の初めてのキスを貰ってくれた。
そのキスは、私の中で一生忘れられない大切な思い出になったと思う。
このまま彼と一つになりたい……そう思った私は自然と彼に強く舌を絡めていた。
そして気づけば、本能のままに彼をベッドに引き倒していた。
私はいつも自分を偽っている。それは本当の自分を知られるのが恐かったから。
本当の私は臆病で、世間知らずで、欲張りで、見栄っ張りで、なにより彼の事が…
でも、あの時だけは本当の私を見て欲しい、そう強く願った。
だから私の全てを彼にさらけ出し彼を誘った。
「恭介、きて♡……わたしの初めて、あなたにあげる♡」
その言葉を受けて、彼は私の胸に飛び込み強く抱きしめてくれた。
そして彼の口からは、思いもよらないほどの苦悩に満ちた声が絞り出されたのだった。
「…………………霞……………俺……おれッ………」
暗がりの中で彼はそっと顔を上げ、私を見つめているようだった。けれど、その表情は闇に紛れてぼやけている。
そして薄明かりの中、静かに視線を交わすうちに私の頬に小さな雫がこぼれ落ちた。
「恭介………泣いてるの?」
「霞……ごめん、俺できないよ……俺にお前のそんな大事なものを貰う資格なんてない……」
次々とこぼれ落ちてくる彼の涙が私の頬を濡らしてゆく。
彼は凄く辛かったと思う。心と体が別々の反応をしていた事を私は直接肌で感じていたから。出来れば、苦しむ彼を欲望から解き放ち楽にしてあげたかった。
でも、彼は欲望より私の事を心配してくれた。
「霞……知らなくてごめんな……こんな事させて、ごめんな……」
彼の優しさに触れた気がした。
彼はいつもこうなんだ。不器用だけど真っ直ぐな優しさを私に向けてくれる。私はそんな彼の言葉が嬉しくて嬉しくて、彼をギュッと抱き寄せた。
「いいの、恭介。ありがとう」
そのあと、私たちは言葉も交わさずただ抱き合いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
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いまだに優しい寝顔をして眠っている彼を愛おしく見つめる。
彼がいなければ今頃、見知らぬ誰かに抱かれて私は闇に落ちていたと思う。
でも彼は私の前にまた急に現れ、私を救ってくれた。希望を…光をくれた。
助けられたのはこれで2度目だ。
なぜここまで彼がしてくれるのかは正直わからない。でもわかっている事実もある。
私は彼に買われた、だからこそ私は彼を独占できる。彼だけのモノになれる。それがたとえ1年だけだったとしても、こんなにも幸せな事はない。
私は2年前のあの日から、彼の事をずっと……
私は小さな声で彼に問いかける。
「恭介?起きてる?」
「…………」
彼からの返事はない。それを確認すると私は彼を起こさないように優しく抱きしめ彼の頬に静かにキスをした。
「恭介、ありがとう……私やっぱりあなたが……」
その声は彼に届いていないだろう。
この気持ちは、彼に買われた立場の私が直接伝えるにはあまりにも恐れ多い。
だから私は、彼が気づいてくれるまであの手この手で誘うだろう。
願わくば彼も同じ気持ちで、いつか彼が私を大事な人にしてくれる事をずっと待ってる——
次回:色々ご奉仕させて貰わなきゃ気が済まないらしい
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