いとしのメリーさん (後編)
僕は、その場にいたけれど、その人形はその場所にはなかったし、気が狂った様にその子は笑い続けて倒れた。
僕は、すぐに救急車を呼び病院に一緒についていった。
そして、事の顛末を後から来た親御さんに話した。
そりゃあ、見知らぬオジサンが娘を病院に連れてきたら、警戒しないわけがない。
最初は半信半疑だったが、何か思いあたる節があるのか次第に僕の言うことを信じてくれていった。
梨花ちゃんが目覚める前にと、人形を譲ってもらえることになり、すぐに僕は、梨花ちゃんの親御さんの家へと向かった。
家に着き、梨花ちゃんの部屋に入った時には、すでに何か嫌な感じはしていた。
ベッド横のイスに、その人形は座っていた。
僕が来るのをわかっていた様に
首だけがこちらを向いて。
僕は生まれて初めてその時ゾッとしたのかもしれない。
この事象は、僕ではどうにもならないことを身体の感覚が理解できていたのだと思う。
そう、その時の僕はそう思っていた。
ご家族も、薄気味悪かったらしい。
梨花ちゃんには、言わなかったみたいだが。髪も少し伸びてきていて、いつも見られているそんな感じがしたそうだ。
僕は、その人形を車に乗せて自分の家に帰ることにした。
この人形が僕の求めていた、メリーさんなのかは、わからないけれど異質な存在なのは、おそらくその通りなのだろう。
あれから、一ヶ月が過ぎた。
メリーさんには、何も変化はない。
あれは、何かの嘘、もしくは幻想でも見ていただけなのかもしれない。
知り合いには、お祓いしたほうがいいなんて言われたが、自分に何かが起こっている感覚は、まったくなかった。
それから、しばらくして5年が過ぎた時、メリーさんの髪は、もうイスから地面についていた。
金髪の艶やかな髪が、風でなびくのを見るのが好きになっていた。
僕は、相変わらずフリーでホラー記事ばかり書いていた。
それでも、ギリギリ食べて行ける程度にだが。
プルルルル
スマホの電話が鳴った。
スマホ画面には、番号が見えている。
「はい。誰ですか?」
「ねぇ、あなたでしょ?私の、りかちゃん返して?」
プープープー
そう言って電話は、切られた。
僕は、ゾクゾクと沸き起こる興味と、恐怖と
既視感でどうにかなりそうだった。
僕は、イスに座っていた人形を抱き抱えた。
「なぁ君は、梨花ちゃんなんだね。」
目の奥に、じわっと何かわからない気持ちが溢れてくる。
何故こうなるかは、わからないけれど今言える感情は、高揚感。
ただそれだけだった。
僕は、それからすぐに梨花ちゃんの家族に連絡をした。
そう、梨花ちゃんの声だったからだ。
かなり不審がられたが、梨花ちゃんは普通の毎日を過ごしていて、特に何も変わった様子は、ないということだった。
スマホを買ってもらったこと以外は。
僕は、今いる住所を念のため梨花ちゃんの母親にだけ伝えた。
僕もまさかとは思っていたし、県を2つまたいでいる。
知らないおじさんの所に普通は来ない。
その時は、しばらく心臓の鼓動が耳に残っていたのを覚えている。
それから、その週の土曜日だった。
プルルルル
スマホが鳴った。
画面は、梨花ちゃんの番号だった。
「もしもし。」
「私、今あなたの家の近くの公園にいるの。」
「わかった。すぐに行くよ。」
僕は、伸びた髪をくくって人形をリュックに入れて公園へ向かった。
その時、僕の手は震えていた。
公園の入口の前、無表情な彼女が立っていた。
僕は、リュックから人形をとりだし渡した。
「見ーつけた。」
彼女は、人形を見るなりそう言って笑顔になった。
彼女の、胸のなかで人形は頭をなでられていた。
その時だった。
プーーーーーー
車が歩道に突っ込んできて公園の入口にぶつかった。
人形だけが粉々になって。
僕は見ていた。
車が突っ込んでくる直前に、人形が彼女の胸を弾き彼女は一歩後ろに。
そして、そのまま人形が粉々になったところを。
「メリーちゃんメリーちゃんメリーちゃん死なないでよー!」
彼女は、その場で泣き崩れていた。
そう言って梨花ちゃんだと思うその子は、破壊されたメリーちゃんを、かき集めていた。
僕は、警察を呼んで事情を説明した。
梨花ちゃんはずっと泣いていたが、帰る前に少し話せた。
梨花ちゃんはずっと梨花ちゃんだったらしい。
人形を返してほしかっただけだと梨花ちゃんは言った。
でも僕は、あの時の梨花ちゃんは、確実に人形の意識が宿っていたんじゃないかと思う。
そして、彼女達は意識的に一緒に遊んでいただけなんだと思う。
危なくなっから家族を救った、ただそれだけだ。
あれから、数日がたった。
あの時車に引かれた人形を梨花ちゃんは、僕があげた紙袋に入れて持って帰っていった。
お葬式をしてあげるそうだ。
僕は、警察の目を盗んで衝突した車のタイヤに巻き付いていた人形の髪の毛を持って帰ってきた。
僕は新しい人形を買って、その髪の毛を移植させた。
髪の毛は、まだ伸び続けている。
また、風になびく君のキレイな髪がみたいから。
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