一人暮らし。
俺の名前は、高木 悠人。
これは、俺が20歳の時一人暮らしを初めてしばらくしてからの話しなんだけど。
美容師を目指していた俺は、専門学校に通うために一人暮らしを始めた。
外見は、なかなかのボロアパートと言える。
木造建築で2階建ての2階で1L、7畳でトイレと風呂が別だったのは、まだマシだったと思う。
あまり裕福な家庭環境だったとは言えなかったかもしれないが、親のおかげで専門学校に通えることになった時は、自立できる嬉しさと高鳴る未来への期待で浮かれていたと思う。
それは、一人暮らしを初めて半年ぐらいたったある日だった。
いつものようにゴミ出しをしようと、回収場所に行くと、住人が困った顔をしていた。
尋たずねると、どうやら近頃ゴミの分別日を間違えて出す人がいるそうだ。
それをその人がわざわざ分けて回収業者にだしているということだった。
いい人がいるなぁ、とそう思ってその時は会釈して、それだけだった。
それから、たまにその人とアパート周辺で顔が合うようになり、挨拶ついでに話しをするようになった。
彼の名前は、からさき ゆうき 23歳そう名乗っていた。
このあたりの大学に通っているらしい。
誰にでも敬語でしゃべっていて、身長は175cmぐらい体型は普通で、腰が低い感じの人だった。
学校に行っては、友達と夜まで遊んで帰宅すると、アパート周辺でゆうきさんと出会って自分の部屋で飲み直すらなんてこともあった。
でもゆうきさんは、頑かたくなに自分の部屋には入れてくれなかった。
ある日の10月暮れ、友達と東京に2日ほど旅行に行くのが決まった。
そのことを、たまたま会ったゆうきさんに話すとちょうどその日に、ゆうきさんの部屋に風呂の工事が入るらしく、部屋を貸してくれないか、と相談された。
それならと、不思議には、思ったが一階の人は、みんな工事でいなくなるらしく快こころよく部屋の鍵を渡した。
旅行当日になって、空港に着くと台風で便がなくなったことを知らされた。
残念だったが友達と、そこから遊びに行って飲みに行き、結局自分の家に帰ることになった俺は、ゆうきさんに連絡することにした。
「あ、もしもし?ゆうきさん?今日台風でなくなって、今から帰るんで。」
一瞬沈黙があったような気がした。
「あー、無理ー」
ガチャ
手が話せなかったのか、すぐに電話を切られてしまった。
そこから、何度かけても繋がらず何かおかしいと思った俺は、足早に帰宅することにした。
階段を上がって俺の部屋を見ると明かりがついていた。
家の鍵を開けるとチェーンがかかっていて、開かない。
ガチャガチャガチャ
ゆうきさーん?
チェーン開けてくださーい。
部屋の中からバッタバッタと音がする。
走ってきてゆうきさんは、ドアの開いたチェーン隙間から、顔を出し。
無表情で、
「無理ィー」
「あーもー無理ー」
「無理ー」
「あー無理ー」
「無理ー無理ー無理ー」
「あーもぅ無理ー。」
感情がなく、こもったような奇声を何度も吐くその姿を見て、何かに取り憑かれたような…そんな気がした。
後退あとずさりした俺を見て、それは、
勢いよくガチャンっとドアを閉めた。
ドタバタと部屋を走り回っている様だった。
足の震えがとまらなかった。
恐怖で心臓の鼓動が早くなり、頭に響いて、熱くなってくる。
意識を呼吸に集中する、少しずつ歩き始め、俺は近くの交番へ向かった。
とにかく普通の人に会いたかったのもあったと思う。
交番の人に事情を話し、一緒についてきてもらう事になった。
部屋に戻ると部屋の中は暗く、誰もいない様子。
鍵を開けてそっとドアを引いた。
チェーンは、かかっていなくて部屋の中に入ると、めちゃくちゃになった服や、冷蔵庫の中にあった生物なまものが散乱していた。
布団のシーツは切り裂かれ、マットレスのバネは、そこら中に落ちている。
お風呂場には水が貯めてあり、布団のスポンジとタオル地の掛布団かけぶとんも切り裂かれ水を含んで浮いていた。
一番ショックだったのは、父からもらった高価な時計のガラスが割られていて、ベルトは、引きちぎろうとした痕跡があった。
その時には、もう怒りしか、からさぎゆうきにはなかった。
「とりあえず落ち着いて、これはすごいな…」
警察の人が応援を呼んで2人、パトカーでやってきた。
部屋を見るなり、事情をもう一度説明した。
一通り説明を終えると、警察の人達が俺を宥なだめるなり一階に降りて、からさぎゆうきの部屋に向かった。
俺も怒りを抑えて、下に降りて遠くから見守った。
警察の一人が部屋のチャイムを鳴らすなり、ドタバタとまた、部屋から音が聞こえてくる。
ドアが一瞬開くとチェーンの間あいだから顔を出し、また
「無理ー無理だからー」
「ハッハー無理ーだーかーらー」
少し表情は、さっきより怒っている様子だった。
そして、笑っていた。
「無理ー無理ー無理ー」
「無理ー」
さっきまでの怒りが怖いくらいになくなっていった。
警察の人がチェーンをこじ開けると、ゆうきは裸足のまま駆け出そうとした。
そこに警察二人が抑えながらパトカーに乗せようとする。
外で薄着で裸足の若者が奇声を発しながら誰かの迷惑になっている。
それは、旗はたからみるととても滑稽こっけいで非日常的だったかもしれない。
俺は、その非日常に自分が陥ったときこれほどの恐怖と不安で押し潰されそうになるのをその瞬間ほど、まだ知らない。
どのくらいたったのか、野次馬が数十人は、もういたと思う。
「キャハっ、無理ー無理ーだーかーらー」
「あー無理ー。」
そこまでで彼の声を聞いたのは、最後だった。
彼が出てきた部屋を覗くとゴミ袋は散乱しゴミ屋敷状態だった。
後日談
そのあと、すぐに大家さんが尋ねてきた。
どうやら、あの人は大学卒業後に就活に終われ理性が保てなくなっていったんじゃないかと聞かされた。
家の中のものは、相手側の親が全て弁償してくれたが、家のほうは、怖かったのですぐに引っ越した。
数年が過ぎ、今じゃ専門学校も卒業して自分で美容室を経営している。
たまに、お客さんに、その話しをすると怖がっていいネタになっている。
今日は、午前中に一人指名で予約が入っている。えーと、名前は…
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