表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小箱-kobako-  作者: 枇榔
2/4

男と猫

 むかしむかしあるところに、一人の男と、一匹の猫がいました。


 男は、それはそれは猫のことが大好きで、どこに行くにも、何をするにも、猫を連れて歩きました。


 ある日から、男は自分の体を思うように動かせなくなり、寝たきりになってしまいました。


 そんな男の(かたわ)らには、いつも寄り添うように猫がいました。


 日に日に男は弱っていき、石のように冷たくて重い手で猫を一撫でした後、静かに、息を引き取りました。



――――――



 「おい、おい。じいさん?」


 十数年世話になっている男が、動かなくなってしまった。猫の手に置かれた手は、先ほどよりも冷たく、硬く、重たくなっていく。


 「おいってば。重いんだけど。」


 自由が効かない体勢。まぁいいか、まだ眠たいし。


 猫は、夢の中へおちていった。



――――――



 「おい、おい!おいってば!!」


 うるさいなぁ。まだ寝かせてくれよ。


 「おい起きろ!どーなってんだこれ!!」


 何が?


 「俺今死んだんだよな!?」


 は?


 「なんで俺の死体が目の前にあるんだ!?」


 は?何言ってんの?


 「わけがわからん!」


 いやそれ俺のセリフだし。


 「てゆーか手!手が重い!!」


 いやそれも俺のセリフ…。


 「身動きがとれん!!」


 いや俺も…。


 「なんなんだこの状況はー!死んだんだから安からに眠らせてくれないのか!!」


 さっきから何言って…


 あ。


 そういう…こと?



――――――



 「まさか俺、猫になってる…?」


 まさか俺、お前になってる…?


 「いや俺、もう生きなくていいよ、生きるの疲れたよ。」


 いやお前はそうだろうな。でも俺はまだまだ生きて、のらりくらりしたいんだが。


 「え、これって、どういう状況?」


 頼むから夢オチであってくれ…。



――――――



 「手、まだ乗ってるし。」


 冷たく、硬く、重たい。まるで、ここから動かすものかという、強い意志すら感じる。


 「はぁ…。…ん!?」



――――――



 「あれ!?今一瞬戻れたような気がしたんだが!?」


 いや、うん。俺も思った。


 「もうやだ…。安らかに眠らせてくれよ…。」


 俺は今すぐ体を動かしたいね。


 「だから手!手が重いんだって!!」


 動かせねぇんだよ!!



――――――



 「困ったなぁ…。」


 困った。


 「まぁでも、このまま動かないでいてみるのもいいか。」


 そうかもしれないな。


 「それにしても、死んだと思ったら猫になって。猫になったと思ったら動けなくて。」


 これは死んだも同然だな。


 「こいつの寿命も、そんなに長くはなかっただろう。」


 はて、俺にも寿命がきていたのか。


 「このまま、一緒に逝けたらいいのになぁ。」


 だからそれは困る。俺はまだまだ生きて、のらりくらりとしたいんだ。


 「なぁ、このまま一緒に、眠ってしまおうか。」



――――――



 むかしむかしあるところに、一人の男と、一匹の猫がいました。


 男と猫の間には、ゆっくりと、男と猫だけの時間が流れていきました。


 やがて、男が息を引き取ると、猫も後を追うかのように息を引き取りました。


 男と猫は、まるで眠っているかのように、死んでいるのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ