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【その神、人任せにつき】6


メルトルの研究所は、ヴィオネスタの中心街から少し離れた、宿屋や民家が点在するベッドタウンのような街の一角にあった。


 研究所といっても、民家の地下にある部屋で。それほどスペースがあるわけではない。

 その上、なにかの道具らしきものや、分厚い本などが其処ら中に散らばっており、ほぼ足の踏み場がない状態だ。

 

「散らかっていてすまないね。確かここら辺にあったはずなんだけど……」


 そう言いながらメルトルは、机の上に散らばった物を掻き分ける。


 棚に並んだ本の背表紙や、落ちている書類などを見てみると、難しい文字が並んで……


「なあルミア。そういえば、なんで俺は文字が普通に読めるんだ?」


 文字が読めるだけじゃない。言葉も、日本語ではないのに聞き取れるし、喋ることもできる。

 自然過ぎて気が付かなかったが、なぜか俺はこの世界の言葉が分かるのだ。


 そんな疑問に、ルミアは何故か呆れたように答える。


「今更そんなの気にしない気にしない。大体キミは異世界に居るんだよ? そのくらいの不思議、一つや二つあるもんさ。異世界のお約束ってヤツ。……そうだね、納得いかないって言うなら、異世界に来る途中で謎の力がキミの脳を改造して、この世界の言語を覚えさせられたってのはどうかな」


 なんてテキトーな……。


「君たち、さっきから異世界とか謎の力とか言っているけど、なんの話だい?」


 沢山のノートを持って、部屋の奥から戻ってきたメルトルが、不思議そうな顔で聞いてくる。


「いやあ、大した話じゃないよ。もし異世界があるなら、行ってみたいねって話してただけさ」


 ルミアが話をはぐらかす。


 あまりこう言う話題は、人前で出さない方が良いのかもしれない。


 と、ルミアの話を聞いたメルトルが、急に目を輝かせてズイズイと近寄ってくる。


「君たち、異世界の勇者様たちを知らないのかい⁉︎ 魔王を討伐するために召喚された勇者様たちはどうやら皆、異世界の人らしいんだよ!」


 先程までの穏やかな喋りとは一転、興奮したように早口になるメルトル。


 なんというか、好きなものを語っている時の昔の自分を思い出す。


「魔王を討伐するために召喚された彼らだけどね、実は歴史上もっとも魔王を追い詰めたのは、異世界の勇者様じゃないんだ! この本は読んだことあるかい? これは、僕の子供の頃からの愛読書なんだ」


 そう言ってメルトルが差し出してきた一冊の本。

 表紙には『伝説の勇者 フィエルテとその仲間たち』と書かれている。


「これは……絵本?」


 中を開くと、絵と共に簡潔な冒険譚が書かれていた。


『冒険者フィエルテは、伝説の勇者。魔王を倒すため、三人の仲間を連れ今日も冒険に出る。一人は、どんな攻撃にも耐え仲間を守る戦士、デュルテ。また一人は、すべてを癒し人々を救うシスター、ベル。そしてまた一人は、自ら編み出した魔法で闘い、彼の魔王すら恐れる大魔導士、フォリィ』


 ページを捲ると、魔王と対峙する勇者たちが描かれていた。


「魔王が生まれてから約300年。その歴史の中で、最も魔王を追い詰めた勇者たち。その中でも僕が最も尊敬しているのは、魔法使いのフォリィだ。彼女は、自分で魔法を編み出していたそうなんだよね。魔法の改良なんかはこれまでの歴史の中で、何度となくされてきた。効率のため、威力のため。しかし、術式から自分で構築した魔法使いは、長い歴史の中で彼女たった一人だけだ」


 そう話すメルトルの目は無邪気で、まるで子供のようだった。


 と、興味深そうに聞いていたルミアが口を開く。


「へえ、魔法を人間が……」


 少し驚くような表情を見せるルミア。

 魔法を創るというのは、それだけ凄いことなのかもしれない。


「まあ最近では、この伝説を否定する歴史学者や魔法学者も増えている。実際殆どただの言い伝えに過ぎないからね......おっと、話が脱線してしまった。申し訳ない」


 俺から受け取った本を、棚に戻しながらメルトルが少し寂しそうに話す。


 俺もそんな伝説になるくらい、すごい力が欲しかったものだ。


 本を棚に戻したメルトルが、先程持ってきたノートを手渡してきた。


「このノートは、僕が使える魔法全てを詳細に記したものだ。魔法の構造から効果や、これまでにされた改良の経緯まで、僕が調べ尽くした内容が全て書いてある。これを読んで理解すれば、あとは魔法を実際に見るだけで、覚えられるはずだ」


 渡されたノートには、びっしりと文字が敷きつめられている。

 これを全て読んで理解するのは、骨が折れそうだが......


(なあ、俺ってこのネックレス付けてれば、見るだけで魔法使えるんだよな?)


 俺は隣にいたルミアに、小さく問いかける。


 確かこのネックレスを渡された時、ルミアにそんな説明をされたはずだ。


(うん、そのはずだよ。にしても、凄いねこのノート。魔法研究家ってより、魔法オタクだね)


 少しニヤケながらルミアが小さく答える。


 まあ確かに、研究家のノートというよりオタクが好きなものをノートに書く時みたいな書き方だ。


 メルトルから、残りのノートを受け取ろうとした時、肘に何かが引っかかり棚から落ちる。


「おっと、すみません。......ん? 古代......魔法?」


 落とした本には、古代魔法とだけ書かれていた。


「ああ、それは古代魔法を研究していた時の本だね。古代魔法は大精霊様だけが使う魔法なんだけど、なにせ文献が少なくてね。大した研究成果も出せず放置していたんだ」


 古代魔法か............かっこいいな。


 そんなことを考えている俺の横で、ルミアはハッとなにかに気づいたような顔をする。


「古代魔法......古代魔法ね」

「なんか知ってるのか?」


 そんな俺の問いに、ルミアは意味深げな顔を見せる。


「いつか大精霊に会うことがあったら、そこで教えるよ」


 そんな話をしていると、メルトルが防具を装着し始める。


「どこか行くんですか?」


 片手に、魔法使いらしいワンドを携えたメルトルが、俺の方にくるりと振り返る。


「そのノートを持って、モンスターの討伐に行こう。君に、僕のかっこいい魔法を沢山見せて上げよう!」

 

 そう言って、ワンドを構えて見せた。

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