異世界転生者は洗脳チートで迷宮攻略に挑む
「順調、順調」
語尾に音符が付きそうなほど上機嫌な声。
それくらい日向ヒナタの気分は良かった。
「こんなに上手くいくなんてね」
異世界転生して17年。
世界中に迷宮が出現し、そこから怪物が出て来る危険な世界。
これらの攻略と退治を担う探索者が存在する情勢。
そんな中に生まれてきたヒナタは、当初は絶望していた。
なにせ、ろくな能力を持ってなかったのだから。
異世界転生にチート能力。
前世の日本で散々見たネタだ。
生まれ変わりの記憶があるヒナタは、もしかしたらと期待した。
ありがたい事に普通の人間とは違う能力はあった。
だが、それは洗脳というもの。
身体能力や戦闘能力、魔術の才能という分かりやすいものではなかった。
これでどうしろ、と最初は思った。
洗脳という能力の使い方が今ひとつ分からない。
前世では催眠というネタの創作物もあったが。
主にエロジャンルで。
これでいったい何ができるのかと思った。
しかし、人間は持って生まれたもので勝負するしかない。
やむなく洗脳の能力で出来る限りをしようと開き直った。
そうすると、意外なほど便利な事に気付く。
他人を意のままに操る事が出来る能力なのだ。
やろうと思えば軍団を作り出す事も出来る。
その事に気付いてからは早かった。
まずは家族を洗脳し、村の者達を洗脳していった。
それから暴れん坊のロクデナシ共も。
順を追っていったのは、接触しないと効果を発揮しないからだ。
なので、ロクデナシ共を取り囲むために村人を操らねばならなかった。
そうして手に入れたロクデナシ共を率いて迷宮に。
途中で襲ってきた追い剥ぎ・盗賊なども捕らえて洗脳していった。
ここでロクデナシ共のうちの何人かが死んだが気にはしない。
他人に迷惑や危害を加えるロクデナシが減ったのだ。
悲しむ必要はない、むしろ喜ぶべきだ。
それに失った人数よりも、手に入れた頭数が上回った。
戦力としても申し分ない。
収支は黒字だ。
そんなロクデナシと追い剥ぎ共を引き連れて迷宮に。
探索者として協会に登録してると、クズな先輩探索者も絡んでくる。
いわゆる洗礼だ。
新人いびりという強迫である。
これらも洗脳して配下に加える。
そうして突入した迷宮での戦闘。
頭数が多いので戦闘は非常に順調に進んでいった。
しかも、稼ぎのほとんど全てを手に入れる事が出来る。
洗脳した奴等への分け前など考えなくて良いのだから。
とはいえ飲まず食わずというわけにはいかない。
死ぬまで使い潰すには、まず生きてないといけない。
なので、最低限の賃金は出す。
食い物と寝床の分だけを。
それ以上の出費は必要ない。
死ぬまで生きていれば良いのだから。
もちろん、これではすぐに手下が死ぬ。
ロクデナシやクズが死ぬのは構わないが、駒がなくなるのは痛い。
なので、駒の確保のためにスラムへと向かった。
食うに困る者の掃きだめたるスラム。
貧民街と呼ばれるここは、犯罪の温床でもあった。
なにせ、まともに働こうとしない者達が流れ流れてやってくる場所なのだから。
たんに貧しいだけというわけではない。
暴れん坊・乱暴者。
備品を盗み、会社の金を盗む者。
他人の悪口を垂れ流す者。
いわゆるパワハラ・モラハラを行う者。
こういった連中がはじき出されて流れついたのが貧民街である。
なるべくして貧しくなったというべきだ。
そんな連中なので、まともな所では雇われない。
仕事につくとしたら、探索者くらいしかない。
さもなくば犯罪者だ。
いわゆるゴロツキしかいない。
というか、ゴロツキしか出来ないというべきか。
そんな人間があつまって出来てるのがスラムである。
貧民街というよりは、犯罪地区というほうが正解かもしれない。
ヒナタに絡んできたクズ探索者もこのスラム出身だ。
洗脳したクズ探索者から聞き出した。
ついでにスラムの内情も聞き出した。
効率よく洗脳していくために。
効果は絶大。
ヒナタは大量の兵隊を獲得した。
スラムの人間をほぼ全員洗脳したのだから当然だろう。
この中にはスラムに陣取る犯罪組織も含まれる。
今では立派な兵隊だ。
ヒナタの意のままに動いてくれる。
ついでに頭の中にあった情報も全て吐き出させた。
おかげで手口についても幾らか把握出来た。
その一つが迷宮探索である。
ただし、まともに怪物と戦うわけではない。
新人をいびって脅して奴隷扱いして戦わせる。
その上がりをかすめとるなどが活動の基本だ。
場合によっては探索者を襲って殺して成果を奪う事もある。
迷宮の中での事だけに露見しにくい。
死んでも怪物のせいだと考えられるからだ。
また、上流階級とのつながりも分かった。
対立する者達を撃退するために、スラムの連中を使ってるという。
貴族、商会、工房、そして宗教。
たいていがスラムの犯罪組織と繋がってる。
というより、元々これらは出身が同じだ。
片方が表で出世して牽制を握り。
片方が裏で悪さを担っていく。
そうやって対立する者達を潰していった。
真っ当な競争ではなく、悪事によって。
そんな持ちつ持たれつの関係が明らかになった。
だったらとヒナタは上流階級の有力者の所へと向かった。
接触方法は分かってるので会いに行くのは簡単だった。
もちろん、すぐに洗脳。
便利な手足にしていった。
そうして憂いを無くしてから、あらためて探索に乗り出す。
以前よりも格段に増えた兵隊を使って。
使い潰しても構わない道具はとても便利だった。
潰れれば使い捨てれば良い。
損害を気にする必要は無い。
戦力は減るが、その間にヒナタはレベルを上げる事が出来る。
迷宮に送り込む戦力が減少してもかまわなかった。
また、有力者を洗脳した事で、不便な扱いが消えていく。
有形無形の圧力。
同調圧力などが良い例だが、こういったものがなくなった。
何かされてもすぐに貴族・商会・工房・宗教などが出て来る。
おかげでヒナタはのびのびと活動する事が出来た。
とはいえ、兵隊が消えるのも問題だ。
いくら強くなってるとはいえ、頭数が減るのも問題だ。
数はどうしても確保しておきたい。
ならばとヒナタは目の前にあるものを使っていく。
迷宮の中ならいくらでも調達出来る存在を。
「出来るのかな?」
疑問はあるが、まずは確かめていく。
怪物を洗脳できるのかを。
まずは適当な怪物を捕まえる。
その怪物に接触して意識を乗っ取っていく。
手こずる事もなく怪物を支配下におく事が出来た。
もっとも、洗脳そのものは簡単だったのだが。
怪物を捕まえるために何人かが犠牲になった。
気にする程の事でもなかったが。
死んでも困らない人間ばかりなのだから。
それに、兵隊は迷宮で調達出来る。
畑でとれるといえるくらいに。
独裁国家が国民を徴兵する様をあらわした言葉だという。
無限に怪物がわいてくるダンジョンは、まさに怪物の畑だ。
ならば収穫してよりよく使っていくだけの事。
兵隊が手に入るようになってヒナタの迷宮攻略は格段に楽になった。
なにせ、一度洗脳すれば、あとは勝手に迷宮の中で動いてくれる。
人間のように一度外に持ち帰って食事や休息を与える必要がない。
「楽だな」
心からそう思う。
なお、更なる怪物確保のために、クズ探索者や版材組織の人間などは尽ききった。
それらは全て迷宮の中で潰えていった。
引き換えに大量の怪物をヒナタに提供して。
「少しは役に立ったな」
犯罪以外で生計を立てられなかった連中。
そいつらが少しは役立った事だけは認めた。
感謝はしなかったが。
こうして怪物を使って怪物を倒す日々が始まった。
敵である怪物を倒せばよし。
それで成果が得られる。
洗脳した怪物が死んでもよし。
怪物が倒れたのだから、ヒナタの成果になる。
どちらに転んでもヒナタに損はない。
一定の戦力が保てれば。
幸い、戦力の候補は迷宮の奥からいくらでもわいてくる。
供給・補給・補充が滞る事は無い。
それでも人間の仲間がいると便利な事もある。
なので、何人かの同行者を見繕ってはいる。
単独で迷宮に入ればやはり怪しまれる。
ほどほどに偽装工作はしておかねばならない。
その為の仲間は、性格・性質・人間性で選んでいった。
能力や性能などはどうでも良い。
そんなもの、レベルが上がればいくらでも補う事が出来る。
だが、レベルが上がってもクズはクズのまま。
外道は外道のまま。
力を持った分だけ手が付けられなくなる。
なので、性格で仲間は選んでいった。
大人しく、思いやりがある者を。
そういう人間でないと安心して背中をみせられない。
こうして引きずり込んだ新人達はしっかりと仕事をしてくれた。
覇気や威勢の良さはない。
だが、着実に仕事をこなす確実さがあった。
大当たりはしないだろう。
だが、するべき事を的確に遣っていく。
なにより、無理はしない。
しないで良い無茶はしない。
場合によっては無謀に思える突撃もするにしてもだ。
やらなくて良い所では慎重な動きをしてくれる。
それがヒナタにはありがたい。
損害がほとんどでない。
無理をしないのだから当たり前だ。
だからしっかりと成長していける。
今まで、こういう者達は日の目を見なかった。
地味だとか根暗だとか臆病だとか言われて。
それが威勢が良いだけの連中に見下され、蔑まれる事になった。
だが、実際は違う。
威勢の良い連中は無理や無茶をする。
そして、たいていは死んでいく。
運良く生き残れば大きくのし上がる事もあるが。
成功率はかなり低い。
無謀な無茶をこなす連中の成功率は10パーセントにもならない。
これ以外の90パーセントは迷宮で死んでいる。
しかし、地味な連中はそうではない。
大きな成功はないが、着実に生き残る。
生存率は90パーセントを超える。
どうしても駄目になる者もいるが、それでも大半が生き残ってる。
だから探索者人口で大きな割合を占める。
この連中を引き込む事で、ヒナタは堅実な基盤を作ることが出来た。
レベルの高い者は少ないが、それは問題がない。
なんなら、経験値稼ぎに付き合わせれば良いだけだ。
今のヒナタならこれが可能だ。
そして、中堅くらいの強さになれば、あとは好きにさせる。
無理なく無茶なく問題なく仕事をこなしてくれる。
迷宮の中で怪物を倒し。
新人の教育を行い。
集団をまともに成長させてくれる。
そしてヒナタは探索者最大の集団を作り上げていく。
最強ではない、残念ながら。
だが、もっとも人数の多い集団を抱えていく。
この集団と共に迷宮攻略に乗りだしていく。
もちろん、稼ぎの多くは独占していく。
最強集団の探索者達よりも人数が多いのだ。
広範囲に拡がって、数多くの怪物を倒せる。
集団としての稼ぎ、売り上げ額だけみれば最大規模だ。
その代わり、一人当たりの稼ぎはそう大きくはないけども。
そして、人数の多さは迷宮の中での展開範囲に留まらない。
都市の中のあらゆる所に伝手がひろがっていく。
情報網として拡散していく。
様々な情報を拾っていくために。
様々な情報を広げていいくために。
ヒナタはこうして独自の情報網を作り上げた。
独自の宣伝工作機関でもある。
更に稼ぎも上手く使っていく。
これらのうち、50パーセントは税金にとられる。
しかし、何も問題はない。
収奪する側の貴族、領主は既に洗脳してるのだ。
ヒナタの好きなように使える。
まずは手下の探索者達専用の施設などを作り。
そこに自分の探索者集団を入れていく。
都市への還元も忘れない。
今まで放置されていた街の整備。
それをこなしていく。
上下水道から道路の手入れ、街の区画整理などなど。
領主が放置していた事は山ほどある。
それを少しずつ進めていく。
さすがに一気にやれるほどの予算はない。
これが街の住人からの人気に繋がっていく。
今までまったく省みられなかった事が実現されていくのだ。
住みやすい街になっていく。
喜ばない住人はいない。
不満を漏らすとしたら、ここに入り込めなかった者達だ。
そのほとんど全てがヒナタに敵対していた連中だ。
競争相手というわけではない。
ヒナタの行動や活動に難癖をつけたり非難してきた連中。
有形無形の妨害を仕掛けてきた連中。
これらを都市の開発・再開発から弾き飛ばした。
おかげで多くの商会・工房などが稼ぐ機会を失った。
街の勢力図が変わっていく。
今までの有力者が軒並み零落していった。
新興の勢力が台頭していった。
その多くは成り上がりと言われていたが。
そのように言った者達の多くは没落していった。
ついでに領主と宗教も潰していった。
洗脳した領主も宗教も便利な道具ではあるのだが。
これまでのやらかしがある。
その清算はさせねばならない。
領主は税金の多くを私物化していた。
おかげで都市の整備が遅れがちになっていた。
無駄に高い税金をとっていたにもかかわらず。
そして、宗教はそんな状況に便乗していた。
宗教は基本的に貧民街に根ざしていた。
そこで貧者に炊き出しなどの救済を行っていた。
ここまでなら良い話に思えるだろう。
だが、もちろん裏がある。
救済という形で囲い込んだ貧民を教会は労働力として使っていた。
奉仕活動という形でほぼ無料で働かせていた。
その多くは公共事業として使われていた。
奉仕なのでもちろん料金はない。
領主としては都合がよい。
もちろん、本当に無料なわけがない。
領主から宗教の上層部に金が渡っていた。
決して少なくない額である。
だが、労働者に支払う賃金の総額よりは少なくて済む。
宗教は領主からしたら便利な労働力である。
安く使えるありがたいものだ。
こうして対立する存在に安値攻勢を仕掛けていく。
まともにやったら採算が合わない値段になるのだ。
他の業者が対抗出来るわけがない。
かくて、領主も宗教も有力者も独占体制を作っていった。
こうなれば、利益は独り占めに出来る。
それだけではない。
労働力はなにも土木建築だけの話ではない。
これらは主に男が従事するものだ。
なら、女はどうしてるのか?
もちろん、性風俗産業に使われている。
まずは宗教の神官や司祭達が貧民の女をもてあそび。
その上で領主・貴族・商会・工房などの有力者専用の娯楽場に提供される。
何のことはない、宗教は安く手に入る女を使って女衒をしてるのだ。
これらを一気に露見させていく。
領主や宗教司祭などに告白させていく。
証拠も添えて。
「なにも我々だけではない」
「左様。
国の中枢、宗教のより上層部も行ってる事だ」
領主と宗教司祭の発言は国をゆるがしていく。
暴露した情報を瓦版として広めていく。
文字が読めない者達のために、吟遊詩人や大道芸人、劇団を派遣していく。
これらが歌声や寸劇の形で問題を各地にひろめていく。
こうして世間に糾弾の声をあげさせる。
ヒナタのやってる事に手を出させないために。
問題は大きく広げた方が良い。
そうすれば嫌でも対応せざるえなくなる。
ヒナタが狙ったのはこれだ。
そんな世の中の動きをよそに。
ヒナタは迷宮の奥で暴れていた。
稼ぎを増やすために。
もっとレベルを上げるために。
もはや、単独で怪物を問題なくたおせるくらいに強くなった。
洗脳の能力も強化されている。
弱い相手なら、接触しなくても意識をいじれるくらいに。
おかげで以前よりもやれる事が増えた。
危険も減った。
迷宮攻略も順調だ。
強力な怪物を洗脳して、更に強力な怪物と戦わせる。
そうして戦わせてるより強力な怪物を洗脳して支配下においていく。
「怪物、ゲットだぜ!」
前世で見たとあるお話の真似をする事もあった。
どちらかというと、悪魔を仲間にするゲームっぽいとは思ったが。
「これで合体が出来たらな」
さすがにそこまでは出来ないのが残念だった。
そんなヒナタは迷宮を攻略…………しないで存続させ。
手頃な経験値と金稼ぎの場所としていく。
もはや、農場や漁場、牧場、鉱山に工場のようなものだ。
配下の探索者に怪物を倒させ、怪物同士に戦わせて稼ぐだけで良いのだから。
この規模をひろげていく。
同じ迷宮の中でではない。
他の迷宮でもだ。
なにせ、迷宮は世界中のあちこちにある。
稼ぐ場所はいくらでもある。
そちらに向けてヒナタは向かっていく。
単独であるが問題は無い。
レベルは十分に上がってるから、徘徊する怪物を簡単に撃退できる。
襲いかかってくる追い剥ぎ・盗賊・強盗・山賊もだ。
これらは見つけ次第洗脳して手駒にしていく。
そして別の迷宮に到着すれば、そこにいる怪物を洗脳していく。
兵隊の材料は無限に存在する。
すぐに一代勢力を作り上げる事が出来る。
この調子で幾つかの迷宮を独占していく。
怪物を洗脳して怪物にぶつけ、稼ぎをえていく。
そうしてえられる稼ぎを使って、ヒナタは独自の勢力を作り上げていく。
手下の探索者を呼び集め、その家族を呼び集め。
商人、職人、労働者と人を集めていく。
集めた人間で村が出来て、町に発展していく。
これらを基盤にヒナタはほぼ独立国家を作り上げていく。
もちろん国が放置するわけもない。
勝手な事をするなと使者が飛んでくる。
もちろん無視をする。
そうなると軍隊がやってくる。
これを怪物軍団で撃退する。
国は何も言えなくなったし何もできなくなった。
やがて怪物軍団を操るヒナタは、全人類から魔王呼ばわりされる。
酷い話だと思ったがこればかりはどうしようもない。
「頑張るしかないか」
仕方ないのでヒナタはレベルを上げる。
より強くなって洗脳能力を強化するために。
全人類を洗脳するために。
そうなれば問題など発生しなくなる。
今日も今日とてヒナタは迷宮を巡る。
自分のレベルを上げるために。
洗脳能力を強化するために。
そして20年。
ヒナタは全人類を支配した。
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