竜王様はどこ?
第1章 仮の王
プロローグ
私は竜の国の仮の王、白波珀琉22歳。
この世界を大きく分けると人間が住む下界、竜人族や獣族、魔物などが住む天界、死者が暮らす天の国、神々が住む神界があるの。
この世界では『霊力』という不思議な力があって
『霊力』は魔族とは力の波長が違う者達が使用するものよ。
霊力があれば霊力を飛ばしたり、変化させたり、操作したり、霊力を駆使して様々な能力が使えるの。
反対に魔族が使う力は魔法の力で『魔力』と言って種族によって呼び方が少々違う。
それらは生命活動に必要なものだ。
霊力や魔力が枯渇すると、死にはしないが一歩も動けなくなる。
この天界では生きとし生けるもの全てが皆平等にその力を持っている。
他にも魔界や地獄なんてのもあるがそれはまた後で話すね。
私は、広大な天界の竜の国と呼ばれる緑豊かな王国に住んでいる。
崖の上にそびえ立つとっても大きなお城だ。
毎日毎日、忙しくて多忙を極めているーー。
城内の廊下を歩くと鏡が目に入った。
寝不足で目の下にはクマが出来ていて我ながら酷い顔だ。。
私は660年生きている竜人族の女。
何故か仲間や部下には『雷帝』とか呼ばれているの、、
r......」
竜族では600年生きていると言ってもまだまだ20代も前半。
住んでいる城は人間界で言うところの中世のヨーロッパ風の城だ。
人間界には『下界の扉』というものを通って行くけれど人間界は、ここ数百年で大きく発展したようだ。
仲間からは、働き詰めの私に息抜きをしろと言われる。
人間界にはプリンという、とても柔らかくて食べると口の中でとろけてしまうとっても甘くて柔らかくて美味しい兎に角、素晴らしい食べ物もあるけれど、
今の私はどこか冷めていた。
お気に入りの白い着物と『桃色の羽織』を羽織っていて髪は戦闘で邪魔にならないようにしっかりとポニーテールでまとめている。
私は竜王として皆をまとめている。
今でこそ荘厳な飾りや煌めく竜王の玉座に座っているんだけど。
そうなる前は毎日がほんっっっとにサ・イ・ア・クだった。
というのも私の師匠でもあり育ててくれた竜王様。
竜王様は私よりも5つ離れていて、
私が12歳の頃から14になる頃ぐらいまでに剣術や生き方を教わったの。
でも今はその竜王様が居ない。
「……」
「竜王様、何故?居ないの?」
とポツリと呟く私。
私は玉座に座ったまま『マスカト』という異世界でいうところの葡萄を発酵させた『スコルデ』という液体を私の隣に控えている付き人に、グラスに注いでもらった。
グラスを無造作に取り、くいっとグラスを傾け喉に流し込んだ。
ふーっと疲れを吐き出すように息をして、目を閉じると思い出してくる。
そう、あれはまだ竜王様と出会う前の頃の話。
—510年前、平和な竜の国にある日突然、魔王軍が攻めてきたのだ。
竜王軍の抵抗も虚しく。
私がまだ5歳の時に竜王軍で働いていた両親がその戦争で死んだ。
城も町も人も空も何もかもが戦火で轟々と燃えていて、魔王軍から逃げ惑う竜の国の人々の悲鳴が聞こえた。
惨殺、焼失死体、首を撥ねられたり、内臓が飛び出ていたり幼いながらに、
ここは、この世の地獄かと思った。
まさにイカれた現場で今思い返しても戦争当時は筆舌に尽くし難いものがある。
空には見たこともない凶悪な魔物が頭に2本の角を生やし口は耳まで裂け嫌なニヤついた笑みを張り付けていた。
時折り、唸り声や咆哮をあげ手下に何か命令を下しているようだった。
その咆哮はとても五月蝿く、耳の鼓膜が破けそうで両手で耳を抑えていたのを憶えている。
その魔物は、戦火に包まれた町の上空を黒く怪しい艶を帯びた羽をバタバタと嫌な音を立て煩くばたつかせながら、
不恰好で小気味が悪い尻尾を機嫌良く動かしながら飛んでいた。
そして、ふと、お父さんとお母さんが私が寝付けないでグズっている時に「早く寝ないと悪い子はジェノバに食べられちゃうぞ」と言って古びた本のお伽話を読んで聞かせてくれたのを思い出した。
そのお伽話によると。
昔々、あるところにとても凶悪で邪悪な『魔獣王ジェノバ』が居て、その尾は蛇で背中からは蝙蝠のような羽が生えていてSS級の伝説の魔獣だと言うのだ。
この天界では魔物や霊体を生物、生きとし生けるもの全てに決められた強さの指標ごとにランク分けがしてある。
但し、これはあくまで強さの指標であってこれにより、地位やステータスが決まるものでもない。
ランク分けした階級、この世界の強さの基準とも言えるだろう。
ランクが低くても貴族の者もいるのだ。
誰が決めたかわからないが、恐らく大昔の人がランク分けしたのだろう。
幼子や子供や子ゴブリンレベルは最下級のD級下位に分類されている。
幼子や子供が最下級のD級。
竜族ではない、戦闘能力が高くない農民はD級中位、ゴブリンはD級上位、比較的戦闘能力が高い竜人族はC級中位、竜王軍の一般兵士のC級上位だ。
階級は更に、B級、A級、S級、SS級クラスとありS級や特にSS級はこの広大な天界とはいえ数える程しか居ないのだ。
当時の私はまだ5歳で普通のゴブリン程度は倒せたからC級下位が妥当だろう。
しかし、ジェノバはSS級で『魔獣王ジェノバ』というキマイラ(合成獣)の中でも特殊個体らしく他のキマイラよりも巨大で凶暴性が増していた。
そう、今私の上空を飛んでいるのがそのSSランクの魔獣王ジェノバだったのだ。
SSクラスともなれば、天災とされ国一つなど楽々と落とせる力を持っている。
どう考えても絶望的な戦力差だ。
魔獣王ジェノバは首から獅子の顔、左の肩から山羊、右の肩から竜の顔が生えているとされ、力も強く脚も速く、空を飛び口から火を吹くのだ。
竜族も大人も子供も木も草も家も何もかも燃えていた、
目の前が真っ赤で吸い込む空気は熱く、歩き慣れた城下町の石畳が熱く熱したフライパンをふんづけたように感じた。
私は妹と2人で泣きながら、必死でお父さんとお母さんの名前を魔王軍の化け物達に破壊され崩された町の市場があった所で必死に叫んだ。
けれど、お父さんとお母さんの返事はなかった。
戦火に見舞われた町は息苦しく、人が焼けた鼻をつく嫌な匂いだった。
私と妹は逃げ惑う人々に押され、倒され、もんどりうって転びながら息も切らし父と母を探した。
「そんなところで何をしている!ここは危ない!」と慌てて私達姉妹に駆け寄ってきたのは右手にボロボロの槍を持ち、
左胸に竜の王国の紋様が入った傷だらけの鎧を着込んだ、
竜王軍の兵士のおじさんだった。
私と妹はしゃくりあげ泣きながら、
父と母は何処にいるのか?生きているのかと涙と鼻水と声にならない声を絞って、兵士のおじさんに聞いた。
「ひっく…えぐ…お、お母さんとお父さんはどこ?」
「その水色の明るい髪に雷属性のこの霊力…!君達!もしかしてあの翡翠の緑琉様と麒麟様の娘様じゃないか!?」
「っ…うん。ぐすっ、お父さんと…お母さんの名前はきりんとりょくりゅう…です」
当時、私は雷属性のこの能力がコントロール出来なくて泣いたり怒ったりするとバチバチっとした雷属性特有の雷圧が体の表面を走るのだった。
ここは地獄だ。戦火の中よりーー。