5.みっつの理由
オトナな展開。
ぐしゃぐしゃだ。
はじめての夜から、シャワーやお風呂まで、いっしょに浴びたかまではおぼえていないけど。
出逢ったばかりのそのひとと、わたしはこうして肌をあわせて。そればかりかそのまま、汚れたシーツのうえで抱きあって眠った。
ぐしゃぐしゃだとはいったものの。わたしはそれなりにやすらいでもいた。それにはみっつの理由。
ひとつめは、この現状よりもっとひどいぐしゃぐしゃを。じつは、わたしは覚悟していたこと。
ふたりでぬけだすことをきめるそのまえは。
小柄な金髪と、三人でってつもりでいたっていったよね。
三人で、なんだ。
そのひとはともかく。小柄な金髪のほうは、友達であるそのひととふたりで、わたしをわけあって楽しむつもりだったらしい。
ぐしゃぐしゃになりたいなら、それでもいいかもね。
そんなふうにおもっていたわたしだったが。
小柄な金髪には残念なことに。
三人でもそういった施設が利用できるかの知識は、わたしにはなかった。
だとしたら。せっかく、ぐしゃぐしゃにしてくれる、ぐしゃぐしゃにしてもらってもいいかなっておもえる、そのひとに出逢えたんだ。このチャンスをのがすことにならないように。
わたしはそのひとに友達を裏切って、おいてきぼりにすることをそそのかすことにした——やっぱり、わたしからだっけ?
ふたりを同時にあいてにしたことはなかったから、どんなかんじか、知りたくないわけでもなかったけど。
とにかく、もしそれが実現していたときにえられる、ぐしゃぐしゃよりは。いまのわたしのぐしゃぐしゃは、ずいぶんとましにおもえた。
(あとから、そのひとにきいた話。おいてきぼりにされた小柄な金髪は、ものすごく怒ってたってさ。……あたりまえか)
ふたつめは、そのひとのいいぐさ。
いいぐさ、だよ。あんなの。
これから、わたしと肌をあわせる予感があったはずなのに。
そのひとは自分がだれかのものであることを、幾度となく、くちにしたんだ。
それが期待するな、という意味なら。
今夜こうなることを期待するな、ではなくて。
このさきがあることを期待するな、なんだろう。
くりかえしになるがわたしは嫉妬深い。
そんなわたしがそんないいぐさを。どんな想いで聞いていたかは、想像できる?
できたとしても、きっとあたらない。
わたしはどこかほっとしていたんだ。
このひとはわたしのものにならない。
それがわかって、肌をあわせるんだもん。
よく知らないひとの見えない部分に嫉妬するより、よっぽど楽だ。
おかしな理屈? そうかもね。でもこれは、まともな理屈じゃなくて、ぐしゃぐしゃになるための理屈。
その理屈じたいだって、ぐしゃぐしゃでも不思議なことじゃないでしょ。
みっつめ。
わたしはぐしゃぐしゃになりたかったはずなのに。
それでも。ふたりで肌をあわせてくっつけて眠ることは、それなりにやすらぐものだったなんて。
欲しがっていたものとは、まるべつのその感情に。うかつにも、わたしは毒されはじめていたんだとおもう。
でも、かんちがいしちゃいけない。
これはぐしゃぐしゃになるための関係。
おたがい、好きだってくちにはしたんだろうけど。
そのひとは、わたしを好きなひとではなく。
そのひとは、わたしをぐしゃぐしゃにしてくれるひと。
わたしもそのひとのことが好きになったのかなんて、聞かれてもきっと困る。
だけど、わたしたちはメイルアドレスと電話番号を交換して。
またあおうねって、約束をした。
名前すらちゃんと教えあってはいない。
おたがいにどう呼べばいいのか、教えてもらえばじゅうぶん。
おたがいになにをもとめて、また会う約束をしたのかはわかっているのだから。
すくなくとも、そのときはそうおもっていたんだ。
そりゃ、怒るよね。おいてきぼり。




