表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

5.みっつの理由

 オトナな展開。

 ぐしゃぐしゃだ。


 はじめての夜から、シャワーやお風呂まで、いっしょに浴びたかまではおぼえていないけど。

 出逢ったばかりのそのひとと、わたしはこうして肌をあわせて。そればかりかそのまま、(よご)れたシーツのうえで抱きあって眠った。



 ぐしゃぐしゃだとはいったものの。わたしはそれなりにやすらいでもいた。それにはみっつの理由。


 ひとつめは、この現状よりもっとひどいぐしゃぐしゃを。じつは、わたしは覚悟していたこと。

 ふたりでぬけだすことをきめるそのまえは。

 小柄な金髪と、三人でってつもりでいたっていったよね。


 三人で、なんだ。


 そのひとはともかく。小柄な金髪のほうは、友達であるそのひととふたりで、わたしをわけあって楽しむつもりだったらしい。

 ぐしゃぐしゃになりたいなら、それでもいいかもね。

 そんなふうにおもっていたわたしだったが。

 小柄な金髪には残念なことに。

 三人でもそういった施設が利用できるかの知識は、わたしにはなかった。

 だとしたら。せっかく、ぐしゃぐしゃにしてくれる、ぐしゃぐしゃにしてもらってもいいかなっておもえる、そのひとに出逢えたんだ。このチャンスをのがすことにならないように。

 わたしはそのひとに友達を裏切って、おいてきぼりにすることをそそのかすことにした——やっぱり、わたしからだっけ?

 ふたりを同時にあいてにしたことはなかったから、どんなかんじか、知りたくないわけでもなかったけど。

 とにかく、もしそれが実現していたときにえられる、ぐしゃぐしゃよりは。いまのわたしのぐしゃぐしゃは、ずいぶんとましにおもえた。

(あとから、そのひとにきいた話。おいてきぼりにされた小柄な金髪は、ものすごく怒ってたってさ。……あたりまえか)


 ふたつめは、そのひとのいいぐさ。

 いいぐさ、だよ。あんなの。

 これから、わたしと肌をあわせる予感があったはずなのに。

 そのひとは自分がだれかのものであることを、幾度となく、くちにしたんだ。

 それが期待するな、という意味なら。


 今夜こうなることを期待するな、ではなくて。

 このさきがあることを期待するな、なんだろう。


 くりかえしになるがわたしは嫉妬深い。

 そんなわたしがそんないいぐさを。どんな想いで聞いていたかは、想像できる?

 できたとしても、きっとあたらない。


 わたしはどこかほっとしていたんだ。

 このひとはわたしのものにならない。

 それがわかって、肌をあわせるんだもん。

 よく知らないひとの見えない部分に嫉妬するより、よっぽど楽だ。

 おかしな理屈? そうかもね。でもこれは、まともな理屈じゃなくて、ぐしゃぐしゃになるための理屈。

 その理屈じたいだって、ぐしゃぐしゃでも不思議なことじゃないでしょ。


 みっつめ。

 わたしはぐしゃぐしゃになりたかったはずなのに。


 それでも。ふたりで肌をあわせてくっつけて眠ることは、それなりにやすらぐものだったなんて。


 欲しがっていたものとは、まるべつのその感情に。うかつにも、わたしは毒されはじめていたんだとおもう。



 でも、かんちがいしちゃいけない。

 これはぐしゃぐしゃになるための関係。

 おたがい、好きだってくちにはしたんだろうけど。


 そのひとは、わたしを好きなひとではなく。

 そのひとは、わたしをぐしゃぐしゃにしてくれるひと。


 わたしもそのひとのことが好きになったのかなんて、聞かれてもきっと困る。


 だけど、わたしたちはメイルアドレスと電話番号を交換して。

 またあおうねって、約束をした。

 名前すらちゃんと教えあってはいない。

 おたがいにどう呼べばいいのか、教えてもらえばじゅうぶん。


 おたがいになにをもとめて、また会う約束をしたのかはわかっているのだから。



 すくなくとも、そのときはそうおもっていたんだ。

 そりゃ、怒るよね。おいてきぼり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ