3.興味
友人のバンドと対バンしたところの、アンケートをかくと。
次のライヴのお誘い、くださるんですよね。
「だれ? ともだち?」
だれでもないよ。じゃあねって、手をふればそれでおわったのだろうが。
わたしはやっぱりばかだ。
そのひとに興味をもってしまったんだよね。
ライヴハウスが開場するまでの、あとわずかな時間。そのひとをくわえた三人で、わたしたちは時間をつぶすべくおしゃべりをすることになった。
小柄な金髪と、ふたりだけのときとおなじように。三人になってからも、なにをはなしたかなんてまったくおぼえてはいない。
だけどなぜか。
そのひともわたしに興味をもってくれたみたいだった。
わたしのほうはといえば。
胸をくすぐる感情は、その指をもう喉もとにまでのばしはじめていて。
かるいむずむずにかわきはじめた唇を、ぺろりと舐めたりした。
ほかの観客といっしょに、開場したライヴハウスのなかに吸いこまれてからも、わたしはふたりと。ううん、そのひとといっしょにいることをえらんだ。
そのころにはふたりも。わたしを邪魔物あつかいすることもなく、同行者としてあつかってくれるようになっていた。
それどころかこのあと。三人で遊びに行こうなんて、はなしていたくらい。
でもじつをいえば。わたしは三人で遊びに行くことに、あまり気がすすまなかった。
翌日の予定もないし。
いくら遅くなっても、あるいはカラオケあたりで夜を明かそうとかまわなかったけど。
気がすすまなかったんだ。
三人で、には。
ライヴハウスにはいると。左の壁寄りに、わたしたちは陣どった。もちろん椅子などはならんでいない、学校の教室ほどのちいさなフロア。
わたしひとりなら、最前列に行って声を嗄らすのだが。あいにくきょうは即席とはいえ連れがいる。
狭い箱のこと。
ここからでもじゅうぶん。わたしがちゃんと応援にきたことは、シンガーの彼にもステージのうえからわかるだろう。
やがてフロアのライトが消え。
ひと組めのバンド。わたしのおめあてが袖から出てくる。
一曲めはやっぱりあの曲。わたしの好きなやつだ。サビの歌詞はリピートのため、なんとなく歌えるようになっていたわたしは。すこしはなれたここからでも、ステージにとどくように声をあげた。
二曲め以降は、前回のライヴでは披露してないものもあったのであろう。いいなとおもうものも、なくはなかったけど。
さっきので、はやばやと軽い嗄れを負った声の出番もなく。わたしはバンドの演奏する五曲を、うなずくように、かるく首を上下にふりながら楽しんだ。
彼らの演奏がおわって、フロアのライトがつく。
わたしとおなじ、このバンドだけがめあての観客のなかには。これで用は済んだとばかりに、出口へとむかいはじめるすがたもいくらかあった。
わたしは最後のバンドまで聴いて帰るつもりだったので。
ほんとうにこのあと。三人で遊びにいく、なんてことになるかどうかにはかかわらず。またフロアが暗くなって、つぎのバンドの演奏がはじまるのを待った。
あらかじめセッティングを終えてある、ひと組めとはちがって。ふた組め以降は、ステージにメンバーが揃った状態で、そのもち時間がはじまることが多い。SEが鳴り止み明るくなったステージには、演奏の準備をととのえた楽器隊。一曲めのイントロがはじまると、のこるひとり。マイク以外のセッティングを必要としないシンガーが、踊るように飛びだしてきた。
はじめて聴くバンドだって、わたしは楽しみかたをこころえている。
肩を揺らして、ステージをみつめるわたしのとなりに。
そうなのだ。きょうはわたしはひとりではない。
わたしがうかつにも、興味をもってしまったそのひとが。よりそうように立つ気配を、それとなく感じた。
半歩だけ。わたしはななめ左にさがって、そのひとに身をよせてみた。
いやがるそぶりはない。
むしろあちらからも、そっとうけとめてくれた気さえする。
左腕をぞわぞわ、胸から喉にかけてをむずむずさせながら。
わたしはのこるバンドを聴き終えることに、なんとか集中しようとした。
このあと、なにがおころうと。
それは、すべてのプログラムがおわってからのはなし。
なるようになるなら、なってしまえだし。
ならないなら、それはそれでいいけど。
そんな雑念に邪魔されながらも、わたしはその日のライヴを楽しんだんだ。
友人のバンド以外にも。ふたバンドほど、かよってました。




