2.ライヴハウス
ライヴハウス、よく行ってました。
市のはずれに、そのライヴハウスはあった。
わりと住宅街。
騒音とかだいじょうぶなの? って、よけいな心配をしながら。もう何度めかの道を、うろおぼえの記憶をナビにしてそこへむかう。
きょうのおめあては、先月、わたしの友人たちのバンドと対バンしたところ。
彼らの代表曲なのだろう、ステージの一曲め。せつないメロディと、シンガーのハイトーンで、綺麗なヴォーカルが耳にのこって。配られたアンケートに、好意的な感想と、メイルアドレスを書いたところ。シンガーの彼から、次のライヴへのお誘いがかかったというわけ。最前列でききかじりのサビを。いっしょに歌っていたすがたを、どうやらおぼえてくれていたみたい。
前回とはちがう箱だったけど。同じようなランクのバンドは、同じ箱をつかうもの。
このライヴハウスも、友人たちのバンドを応援するために、何度か足を運んだことがあった。
乗り換えは二回ですむのに。ちょっと市街から遠いんだよね。駅からもわりと歩くし。
ライヴといっても、友人たちとおなじくアマチュアバンド。とうぜんワンマンであるはずもなく、複数の出演バンドがある。
わたしのおめあては、プログラムのひと組めだから。
遅れちゃいけないって、かなり早めに目的地に着いたんだ。
それにしても。ちょっと早すぎたかな。
かるくためいきをついたわたしだったけど。
なぁんだ。それでも一番のりじゃあなかったんだよね。
——ねえ、あなたも開場くの待ってるの?
わたしから話しかけたのは、ただの気まぐれ。
金髪で小柄な異性のその容姿に。べつだん興味をもったわけでもない。
だけど、開場にもずいぶん時間がある。
ひょっとしたら、まだしばらくはほかの観客は来ないかもしれない。
バンドのひとたちが、ようすを見に出てくることもなくはないけど。
わたしは見知らぬひとと、それぞれひとりきりで。たがいに知らんぷりして時間をつぶすのは、ちょっといやだなっておもってしまったんだ。
むこうもどうやら、それはおなじだったみたい。
はなしかけたわたしに、警戒心をみせるでもなく。わたしたちの会話は、それなりにはずんだ。
きくところによると、わたしとは別のバンドがおめあてで。ともだちがひとり、そろそろやってくるらしい。
そしたらわたし、じゃまものになっちゃうな。
まぁいいや。
べつにわたしはこの小柄な金髪の異性と、なかよくなりたいわけじゃない。ただの気まぐれって、いったはずだよね?
そうこうしているうちに。
ひとり。
またひとり。
ほかの観客も、ライヴハウスのまえにあつまりだす。
そろそろかな。
時間をつぶすのにつきあってくれたことに、お礼をいって。小柄な金髪の異性からはなれようとした、わたしの耳の奥。
この異性のやや低めのどら声とはちがう、高くてビー玉をころがすような声が鼓膜を揺らしたんだ。
「待った? まにあったよね」
こちらもやや小柄ながら。ずんぐりではない、細い体躯をした異性。
明るすぎない茶髪は長く、色素のうすい肌。白と黒のゴス調の服装とあいまって、有名なチェコ出身のアーティストが描く版画のように、みょうに絵になっていたのをおぼえている。
それがわたしをぐしゃぐしゃにしてくれた、そのひととの。
おもいがけない出逢いだった。
経営のかたに、顔覚えられたくらい(笑)