表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

2.ライヴハウス

 ライヴハウス、よく行ってました。

 市のはずれに、そのライヴハウスはあった。

 わりと住宅街。

 騒音とかだいじょうぶなの? って、よけいな心配をしながら。もう何度めかの道を、うろおぼえの記憶をナビにしてそこへむかう。


 きょうのおめあては、先月、わたしの友人たちのバンドと対バンしたところ。

 彼らの代表曲なのだろう、ステージの一曲め。せつないメロディと、シンガーのハイトーンで、綺麗なヴォーカルが耳にのこって。配られたアンケートに、好意的な感想と、メイルアドレスを書いたところ。シンガーの彼から、次のライヴへのお誘いがかかったというわけ。最前列でききかじりのサビを。いっしょに歌っていたすがたを、どうやらおぼえてくれていたみたい。


 前回とはちがう箱だったけど。同じようなランクのバンドは、同じ箱をつかうもの。

 このライヴハウスも、友人たちのバンドを応援するために、何度か足を運んだことがあった。


 乗り換えは二回ですむのに。ちょっと市街から遠いんだよね。駅からもわりと歩くし。


 ライヴといっても、友人たちとおなじくアマチュアバンド。とうぜんワンマンであるはずもなく、複数の出演バンドがある。

 わたしのおめあては、プログラムのひと組めだから。

 遅れちゃいけないって、かなり早めに目的地に着いたんだ。


 それにしても。ちょっと早すぎたかな。


 かるくためいきをついたわたしだったけど。

 なぁんだ。それでも一番のりじゃあなかったんだよね。


 ——ねえ、あなたも開場(ひら)くの待ってるの?


 わたしから話しかけたのは、ただの気まぐれ。

 金髪で小柄な異性のその容姿に。べつだん興味をもったわけでもない。

 だけど、開場にもずいぶん時間がある。

 ひょっとしたら、まだしばらくはほかの観客は来ないかもしれない。

 バンドのひとたちが、ようすを見に出てくることもなくはないけど。

 わたしは見知らぬひとと、それぞれひとりきりで。たがいに知らんぷりして時間をつぶすのは、ちょっといやだなっておもってしまったんだ。


 むこうもどうやら、それはおなじだったみたい。

 はなしかけたわたしに、警戒心をみせるでもなく。わたしたちの会話は、それなりにはずんだ。


 きくところによると、わたしとは別のバンドがおめあてで。ともだちがひとり、そろそろやってくるらしい。


 そしたらわたし、じゃまものになっちゃうな。


 まぁいいや。

 べつにわたしはこの小柄な金髪の異性と、なかよくなりたいわけじゃない。ただの気まぐれって、いったはずだよね?


 そうこうしているうちに。


 ひとり。


 またひとり。


 ほかの観客も、ライヴハウスのまえにあつまりだす。


 そろそろかな。


 時間をつぶすのにつきあってくれたことに、お礼をいって。小柄な金髪の異性からはなれようとした、わたしの耳の奥。

 この異性のやや低めのどら声とはちがう、高くてビー玉をころがすような声が鼓膜を揺らしたんだ。


「待った? まにあったよね」


 こちらもやや小柄ながら。ずんぐりではない、細い体躯(からだ)をした異性。

 明るすぎない茶髪は長く、色素のうすい肌。白と黒のゴス調の服装とあいまって、有名なチェコ出身のアーティストが(えが)く版画のように、みょうに絵になっていたのをおぼえている。



 それがわたしをぐしゃぐしゃにしてくれた、そのひととの。

 おもいがけない出逢いだった。

 経営のかたに、顔覚えられたくらい(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ライブハウス、箱、対バン! いいです!でもドキドキします。 [一言] 経営の方に覚えられたのすごい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ