063 続・ハクムの丘(6/6)
太原は思考を巡らせる。
獅拿の拳は鱗に有効だ。
だが、宙を舞う鱗を相手にするのは難しそうだ。鉄筋に傷をつける刃物みたいな翅に手を伸ばすのは、回転する刃に手を突っ込むのと同義だ。腕が切断される未来しか見えてこない。(実際には力は消耗するが、少し離れた敵も蒼き焔を伸ばして打つことが可能だ)
今みたいに、水面に落として、翅を閉じてよたよたと上陸してきた所を攻撃するのが現状は適切な解に思える。
が、鱗を水に落とすとその波紋を感じて、“山峡”が身を震わせる。その刺激を危険信号と判断しているのか、あるいはくすぐったさにもだえているだけなのか、他に理由があるのかも知れないが、そこは推測しても意味がない。
ともかく、波紋を感じると甲羅が剥がれて水中に落ちていく。鱗の増援が送られてくる。
敵を増やして、動きの鈍い敵を倒していく。
ゲームならば、良い経験値稼ぎになりそうだが……。
いや、倒すよりも増える数のほうが多いのは、やっぱり作戦ミスか。
しかも、脱皮だとするならば、古い甲羅がなくなった時、“山峡”はどう動く?
由姫いわく、あれには敵わないらしいぞ。
って、見た感じでも無理そうだ。2階建て大の大岩をどうしろと言うんだ。
どう考えても、あれはレイドボスだ。
大物喰らいは、誰かの犠牲の上に成り立つものだろ?
視界の片隅で金色の華が咲いた。
最初に倒した鱗が金色の粒子と化したようだ。
白蛇の視線が落ちた赤い石に向く。
「池園っ、後ろだ!」
振り向きざまに、鉄筋を振り上げて、飛び上がった鱗を叩き落とす。
「サンキューな、太原」
やばいな、池園が肩で息をし始めている。
早々に解を導かないと、ここで終わることになる!
何かないか。
見落としはないか。
そう言えば……
「ユフィさん、君はどうやってアレを水面に落としてるんだ?」
池園は、お前とか名前を呼び捨てにしているが、女はこんな時の事でも覚えているものだぞ。姓は教えてもらってないので、知らん!
「あれは“アキツミ”にお願いしていて。“止む”を司る支獣の一だから」
聞けば、蛇どころか通常の生き物でもなかった。支獣って、何だ?召喚獣みたいなものか?
こんな所にも非現実感が……いきなり異世界感祭りになっとる!
“止む”…と・む、とど・む、や・む
不思議パワーで相手を“止む”ているらしい。
相手の力量や数、止める時間などに比例して、力を消費するそうだ。しかも、等差ではなく等比の方で。
なるほど、ずっと障壁は張り続けることはできないと……。それが出来れば、最初からしているよな。
“護り”専用機かよ。カーバンクルでも味方全員に速度アップの魔法くらい使えるぞ。
ん?
「ユフィさん、“アキツミ”って、こんなことは出来る?」
由姫が目を大きくしていたが、“秋津巳”に聞いてもらった。
蛇が短く舌をちろりと出して、ちょこっと頷いて見せる。
頷かれた。いろいろとマジかよ。んで、出来るらしい。
「皆、聞け。“アキツミ”が次に沼にアイツらを落としたら、全員で走って逃げるぞ」
太原が指示を出す。
賭けだが、それはよたよたした相手には使えない。沼上で使って、たくさんの波紋を生み出すのも危険が高いと思う。
「飛んでくる奴らに追いつかれるだけじゃねえのか?」
息を切らしながらも池園が暗に飛んで襲ってくる奴はヤバいと言ってくる。
逆だ。飛んでくれないと困る。
「大丈夫だ。対策は立てた。但し、ユフィさんの合図で振り向いて止まれ。
正面のは、“アキツミ”に任せる。回り込んでくる奴は、右は僕、左は池園!死ぬ気で落とせ!
そしたら、また走る。
それしかない。準備しろ。“アキツミ”頼んだ」
由姫は魔物の気配が分かる。厳密には地気の性質と濃さを体感できるように訓練しているが故だ。
「ちょ、待てょ」
長柄の武器を持っているのは、太原と池園の二人だ。
見習い掌典の二人は知っているが故に選択肢が潰されてどうすれば良いか分からなくなっていた。
由姫は心を決めたようだ。それなら、獅拿も否やはない。
バシャバシャと水面に鱗が落ちる。
「今だ。逃げるぞ」
走って逃げると言っても、地面は緩い。全力疾走という訳にもいかない。
「来た。“アキツミ”お願い」
皆で振り向く。
片側一枚だが蝶のような三角形をした翅を持つ鱗が、浅いV字に翅を開いたままに固定して飛んでくる。
が、ある一点で立て続けに3匹の鱗が空中でバラバラになった。
「よっし。また、逃げるぞ」
賭けに半分は勝った。
「えっ、なに?」
「あぁん、何が起きた?説明しろ、太原!」
「後だ。逃げるのが先だ」
勝ち目が見えたからか、声色に勢いが出てきた。
「また、来るよ」
「止まれ!」
またしても、鱗が空中分解する。
最短距離を飛ぼうとするのか、回り込んでくる個体がいないのは、正直に助かる。木製の柄であの翅を防げるのか、不安だったからだ。
数回、同じことを繰り返したが、靄を抜けた。
追ってくる鱗の姿はない。
「逃げ切ったのか」
「らしいな」
「こりゃ死んだと思ったね。さすがは“ソーフ”だ。俺の事は“ゾノ”って呼んでいいぜ。仲のいい奴はみんなそうだからよ」
池園が太原をアダ名で呼ぶ。
「感謝なら、“アキツミ”にしてくれ」
「で、何だったんだ?」
謎解きの時間だ。
「何、簡単な話しだ。“アキツミ”は、“止む”を司る支獣って奴らしい。
だから、空気を止めてもらったんだ。えーと、固めたって言ったほうが分かり易いか?」
鱗の蝶番の目の前にライフルの弾丸のような形で空気を“止む”てもらったんだ。一応、3発分で、3点バーストって奴だな。制止力を増したかったからな。
結果、見えない弾丸に自ら突っ込んで行って自滅したと言う訳さ。
簡単だろ?
「“アキツミ”にあんなことが出来るとは思ってなかった。すごいわ“アキツミ”ぃー」
由姫が猫可愛がりするが、当の“秋津巳”はお構いなしにシャーシャー言っている。
「(僕の赤い石を落としたままだよ。拾いに行かないと)」
◆
福島県内、魔王領の異変は時を待たずに一夜島――南相馬海上防災基地の通称――で議員活動の大半の執務を取るようになった特命担当大臣(領土)岩破 陸のと元にも届いた。
自身でも感じた地の揺れは、あの日ほどの事はなかったが、世界各地で異変と言える現象が確認されたことはニュースでも速報で流れている。
そこに定時連絡以外で、射場 群長からの異変を知らせる書簡が届いた。
即座に霞が関に一報を入れて、自身は教導中の隊員から選抜し編成した応援部隊と共に、“一つ目”関に向かった。
筆者注)太原の初探索収支
土曜日
交通費 0(新幹線、送迎バス)
朝食 駅弁 -900-150(チキン弁当とお茶)
特殊器具の輸送 -3,300
審査料 0
昼食 コンビニ -498-110(豚焼肉弁当とコーヒー黒)
交通費 0(送迎バス)
夕食 研修センターの食堂 -900(かつ丼)食事処が点在する原ノ町駅に出るのに6kmもある
宿泊費 -3,000(朝食付き、研修センター)
日曜日
交通費 0(連絡船)
乗合バス -1,600(四分一銀貨1枚と銅貨6枚)
アルベリック村での認証 0
“ネズミの尻尾” 3本 +100(銅貨2枚/2)3本=銅貨2枚
昼食 0(菜々さんのおごり)
“ネズミの尻尾” 22本 +700(銅貨14枚/2)
“コークス”4個 +200(銅貨4枚/2)1個=銅貨1枚
“赤い石(粒)”2個 +100(銅貨2枚/2)1個=銅貨1枚
夕食 0(駐屯地で会合、食事付)
バイト代 +10,000(菜々さんの護衛)
探索手当 +7,240
宿泊費 -4,000(Bibo、朝食付き、四分銀4枚)
月曜日(昼まで)
“ネズミの尻尾” 12本 +400(銅貨8枚/2)
“黒針” 10本 +300(銅貨6枚/2)3本=銅貨2枚→10本 +3,000(四分銀6枚/2)1本=銅貨6枚
“赤い石(粒)”4個 +200(銅貨4枚/2)1個=銅貨1枚
バイト代 +10,000(菜々さんの護衛)
探索手当 +7,240
昼食 駅弁 -1680-150(炙り牛たん弁当とお茶)
特殊器具の輸送 -3,300
雑費-13,988
収支-3,800(魔王国の硬貨のやり取り)→-1100
収入+34,480




