つづき (文章パート)
『探偵・日暮旅人の探し物』 著 山口幸三郎
面白かった。
そう思いつつ、自分はこの一話めの物語を読み終えて本を閉じた。
本を机に置いたまま、椅子の背もたれに身体を押しつけながら背を伸場しつつ、
机の後ろ側にある、ちゃぶ台と化したこたつ、布団を外したそこで、
モバイルを置き、覗き込んで話している仲間の声が聞こえてくる。
その前も聞こえてはいたのだが、本に集中していたので頭に入ってきてはいなかったのだ。
「面白いよね!この視覚探偵シリーズ。
あたし好きだよ、優しいところと、生臭いところが(笑)」
「わたしわ、もうすこし、やさしい物語の方が好き。
お話がちょっと苦しいし哀しすぎるかな」
感想を語り合う猫又と稲荷狐の話が、聞くともなしに耳に入ってくる。
「えっ?
猫又ちゃん、生臭い?」
「あたしは生臭くないよ(苦笑) それとも猫だから生臭いのかな?(笑)
生臭いじゃなくて、生々しいってことかな(笑) さっきのはこのドラマじゃなくて、原作文章の話だね、ごめん(苦笑)」
「現実の醜さ、薄汚さって、表現の仕方で捉え方が変わるよね。
映像と文章の違い。二次的な創作物ってドラマ化やアニメ化とかのもので、原作の演出と同じに出来ないことで印象が変わるものってあるんだよ。
書き方って、映像演出とはちょっと違うからさ。文章って、見せるものと隠すものがあるから(笑)」
「眼を通した映像の表現は直接だからね(苦笑) 直接なのと文章から想像させる間接的なものは、魅せ方のアプローチが変わるから(笑)
シェイクスピアの歌劇の台本、『夏の夜の夢』、以前読んだことがあるんだけどさ……」
二人は部屋の端末で、自分が今読んでいた物語のドラマ番組を再生し観賞している。
「このお話ってさ、
恋愛だったり、親愛、家族愛とかを主軸とした作りなんだけど、
けっこう現実的というか、ドロドロした暗く汚いことも書いてるよね(苦笑)」
「うん、そうね…。愛憎復讐劇とか?」
「それもあるけどさ、
もっとアングラなところ、政治、経済、組関係、薬ね(笑)」
「社会機構の闇だよね♪
たとえば、こんなお話があったんだけどさ…」
今話してるのは、自分がまだ知らない先の物語。←やめてくれ!たのむっ(苦笑)
猫又から薦められて読み始めたこの物語だけど、
確かに面白い。ドラマ化もされるわけだな、やはり。
現実でも架空でも、出来事というものは、この作品の物語の中のことのように、
時おり理解しがたい物事、理解したくない出来事から真実が見えることがあるものだ。
本当に欲しいものへと届かないという真実に気づいたとき、気づいてしまったときに、人はどうするのか?
そんなことを考えている自分がいる。
俯瞰する第三者の別の自分から、今の自分自身の行動の是非を問われている。
そんな気持ちになることがあるのだ…。
この物語の主人公は、たくさんのものを奪われ、失い、
残ったわずかなものを握りしめて、暗い道を歩んでいる。
なくしたものを求め続けているようにも思える。
新しく得たものを手にして戸惑っている様にも見える。
そんな風にも見える、感じられる。
自分自身がそうだからだろうか?
自分は好きだった彼女のことを今も探しているのだ。
ここに来たのもそのためだ。
あいつとまた出会いたいからだ。
あいつを、あいつの魂の行方を探しているけれど…、
手がかりは見つからない。
足取りはわからない。
見つかったのは欠片のような心の断片、その想いのようなもの。
それだけだ。
あいつを見つけるために、脇目も振らずに走り出したい気持ちと、
孤独な中で出会った、今ここにいる彼女らとの関係を大事にしつつ、あいつを探して歩こうかという気持ちとの間で、自分の気持ちは日々揺れ動いている…。
この作者の物語を読むと、心が疼く。
今の自分の心、絶望と希望の狭間が、激しく掻き乱されているようだ。
苦しさと寂しい気持ち。
不意に現れるやさしい出来事。
そうした気持ちの、影と光の中を自分は歩いている。
「みなさん、おやつですよ♪」
座敷わらしがお盆に菓子と湯飲みを乗せて運んできた。
「待ってました~っ♪」
「今日は何の和菓子なの?」
「紫陽花ですよ~♪」
「きれいねー♪」
「おお、美味しそう~♪」
座敷わらしの出してきた和菓子に、狐、猫又が歓声を上げつつ見とれている。
とても美味しそうだ。
青や紫、緑の寒天を賽の目に切って白餡に散りばめた和菓子は、
見た目にも涼しげで、梅雨時の間のこうした晴れ間、むし暑い日には良い感じだ(笑)
「手が込んでるのねー」
「きれいだよね♪
紫陽花って言っても、これは簡単に作れそう(笑)
座敷ちゃんの手作り?」
「いいえ。これは買ってきたのですよ♪
私も今度は作ってみようかと、そう思っているんですけど…」
「今度一緒に作ろうか?
ねっ!稲荷ちゃん♪」
「良いわねー、じゃあわたしわ赤い紫陽花にしようかしら?(笑)」
「稲荷ちゃんは青じゃないかな~(笑)
辛抱強いから♪」
「猫又ちゃーん。確か紫陽花の青って、花言葉わ悪いのばっかりじゃなかったっけ?(怒笑)」
「そだっけ?(笑)
じゃ、白♪ ひたむき(笑)」
「もうっ。何色でも作れますから~!
私今度準備しておきますね♪」
「寒天の(紫陽花)で良いの?
白餡、練り切りの細工物とかのはつくるの難しいけど、
夏向けの葛タイプの道明寺で、色替えした紫陽花の和菓子とかもあるよ~♪」
「半殺しにしたもち米、おはぎ作る時のご飯に色つけて、
葛湯溶かして練って、色つけてご飯足してかき混ぜて♪」
「そうそう、そうですっ!
荒熱取ったら、白餡芯にして葛生地でくるんで、冷やすんですよね(笑)
私も知ってます♪」
得意気な座敷わらしと、話を取られて苦笑いの猫又。
「じゃあ、今度の集まりはお料理会ね!
○○くん、試食係ね♪
かずまくんわ?」
「どっちでもいい」
「ひどっ!、猫又ちゃん呼んであげたら?」
こうして彼女たちの話へと混ざらずに、たわいもない話を聞くともなく聞いていると、縮こまったままだった気持ちが緩んでくることを感じる。
自分は影の方へと歩いていて、視線はそちらへと向いているけれど、
こうして隣を歩いてくれている彼女らのことは、本当にありがたいと思っている。
直接に口に出すことはないけれど…、感謝だ。
「○○さん、
はい、どうぞ」
座敷わらしが日本茶を手渡してくれる。
「…ああ、ありがとう(笑)」
すこし熱いお茶をすする。
心にすこしだけ熱が戻ってくる…
梅雨明け前の季節。凍える気持ちの中…
今だけはこの熱の余韻を感じていよう。
〈おわり〉
最近、直接投稿ばかりですね(^_^;)←執筆途中の数、800件が当たり前になってから全然下がりません。常に足らない(苦笑)
(下書きコピペですが、)連載を直接入力するのは初めての体験でした(^_^;)←あ、無くなったモバイル版なろうシステムではやってたかも?(*^^*)




