4-27 反省会
10月43日の正午頃、フィオラーノ連邦とメキア帝国の条約が無事に締結された。正式名称は「フィオラーノ連邦・メキア帝国相互協力条約」。軍事並びに経済関係まで、酷い言い方をすれば広く浅く網羅したものである。今後も各分野において様々な条約などが結ばれるだろうが、その基本となるものだった。基本となるだけに下手をすれば年を跨ぐ交渉になるのではと危惧されていたが、揉めていたメキア内の各派閥もすんなりと妥協した。それらはカームら神殿警護隊の協力を得た第5部門の工作よるものだったらしい。条約締結交渉を様々な手段で妨害するルファール王国の国土開発室工作員、そしてそれを手引きするメキア帝国内の者たちについて神殿警護隊が調べ上げた情報を提供した。表向きは第5部門独自の成果とされているが、実際には・・・というわけだ。
レアニールはマリアージュ・ヴァンデガル少佐殺害未遂事件の被疑者であるブリンガー一族のGを捕らえる事に成功した。神聖力を用いて彼を倒した直後、カームと数名の神殿警護隊員が現場へ到着した。彼らの援護を受けGを蘇生させ捕らえたのだった。そのGだが第5部門へと引き渡し、メキア帝都の拘置所に収容された。今件はあくまでもメキア帝国内での事件だ。原則的にGを裁く権利はメキアが有している。後日裁判に掛けられ、その判決次第ではフィオラーノ連邦へ引き渡される可能性も有る。ただし元ブリンガー一族のカームに言わせれば・・・
「別に。ヤツが持っている情報なんてさほどの価値も無いわ。護送の手間だけ掛かって面倒なだけよ。ま、メキアで死刑になるのは確実だから関係無いわ」
・・・とのことだった。
そして、ルゥーイン旅館のアレックス少年。レアニールによって助け出された彼だったが、自分の事よりも彼女の身体を心配する優しさを見せた。もちろんそれが強がりや現実逃避であることは容易に見て取れた。両親が惨殺された現場を目撃させられたのだ。例えその両親がレアニールによって助けられていたとしても、何かのきっかけで心が崩壊してしまう危うい状態とも言えた。レアニールは古の神の1柱、商売神とも言われているビスタ神の神聖力を用いて事件発生直前からGを捕らえるまでの間の彼の記憶を消した。その様子を見ていたカームは行使し終えたレアニールの肩を軽く叩きながら優しく笑みを浮かべてくれた。
そして現在、時刻は夜の8時を回っていた。レアニールとカームは大使館の2階、レアニールの部屋にいた。外交団の面々と駐メキア大使、それと今日から公務に復帰したマリアージュは皇城で開かれている条約締結を祝うパーティーへ出席するため出掛けていた。
レアニールとカームは反省会と題した2人飲みをやっていた。酒は大使館に備蓄してあったワインやブランデーなど、肴は食堂からカートに乗せて色々と運んできていた。
「はい、神聖力で底上げしていたので調子に乗ってました。それを利用して姉さんが言っていたとおり殺す気で掛かれば良かったのに・・・です」
床に正座するようにして座ったレアニール、Gと対峙した際の行動について本当に反省させられていた。そんな彼女を、目を細めて睨むカーム。その鋭い眼光に身体に入ったアルコールが消失していく気分をレアニールは味わっていた。
「あの言葉、軽い意味で言ったのではないの。いい?どんな些細な任務にでも言えることだけれど、感情を捨て機械の如く臨まなければいけない時がある。それが出来なければまた同じ目に遭うわよ」
感情が何処に存在するのか、カームの言葉はひたすら冷徹なものだった。だがその言葉はレアニールの心に突き刺さるようにして入り込んで行く・・・
最初は反省会なんて殆ど冗談で言っていたのに何故こうなったのか。
カームたちがあの森へ救援に駆け付けた時、レアニールはアレックスを縛っていた縄を切って助け出し、泣き出した彼を慰めていたところだった。その後、捕らえたGを第5部門へ引き渡す直前にカームは本来の任務へと戻って行った。どのようにGを倒したのか、詳細を話す時間が無かったのである。別れ際にカームは「後でゆっくり聞かせてね」と言っていたわけで・・・その報告を語った結果が今に至る。
Gの反撃を受け危ない目に遭った事も含めて事の顛末を言った後、カームは静かに激怒した。それが自分を心から心配してのものだと痛いほど解るレアニール、只ひたすらに神妙にするしかなかった。
「はい・・・心に刻みました」
「ならばよろしい。立ちなさい」
古の復讐の女神もかくやという鋭い眼光を消したカームはレアニールの手を取り立ち上がるのを助ける。
「何はともあれ、無事で良かったわ」
「うん・・・心配させてごめんなさい」
「ほんとよ。アレを使われてよく無事に帰ってこれたと思うわ」
「?・・・アレって・・・それ?」
首を傾げたレアニールはカームの視線の先、机の上に置かれていたGが用いた謎の魔道具を指し示した。
「これ・・・ほぼ間違いなく転移の魔道具よ。ハウヴェル・モグワイザー作の物でこれと同じ物を見た事あるから」
「ええっ!?でも場所は動いてなかった・・・ちょ、ちょっと待って・・・あれ?コートが無くなっていたり制服が汚れていたりしたのって・・・」
思い当たるフシが有り過ぎる事にレアニールは愕然とする。
「そういうこと。何が作用したのかは判らないけれど違う場所へ行って戻ってきた・・・ってわけね。ぶっちゃけ有り得ない話だと思うのだけれど」
「えぇっ・・・・」
「ま、あなたの事だから違う世界へ行ってそこを救って帰ってきていたりしてね」
「何それ・・・全く、笑えないわよ・・・」
カームの冗談めいた口調にムスッとして抗議の声を上げるレアニール。それを意に介さずといった具合のカームだったが、そこで何かを思い出したかのように人の悪い笑みを浮かべた。
「それにしても・・・あの少年と何となく微妙な雰囲気だったのはそういう事だったのね」
「止めてよ・・・あーっ、思い出したら恥ずかしくなってきちゃったよぉ・・・」
かような淫行紛いの事など互いに望んでいたわけではなかった。Gが無理矢理やったこととはいえ、思い出すと恥ずかしさこの上ない。赤くなったレアニール、思わず頭を抱えて蹲る。せめてもの救いは記憶消去の神聖力によってアレックスの記憶が無くなっていることだけだ。もちろん自分の中にその時の記憶と羞恥はしっかり残ってしまっているのであまり意味は無かったのだが。
そんなレアニールを見下ろしながら何処か安心したかのようにカームは優しい笑みを浮かべる。
「それにしても、メキアへ来た時より・・・少しは吹っ切れたみたいね」
「?・・・うん、マリーさんに聞いてもらってね。吐き出すだけ吐き出したら楽になったよ」
「へぇ・・・マリアージュにねぇ・・・」
一瞬で笑みを消すカーム。目を細めた後、一転して寂し気な色をその目に浮かべる。
「あっ・・・」
それを見てレアニールはやってしまったと思ったがもう遅い。カームは顔を俯かせると声を震わせるようにして言う。
「私には話してくれないなんて・・・姉さん悲しいわ」
それがかなり演技を含んだものだと容易に分かったがレアニールは慌てるようにして言い訳をする。
「べ、別に姉さんに話したくなかったわけじゃないよ・・・だって・・・その・・・姉さんとは着いた初日以来会えなかったし・・・本当は姉さんに聞いてもらいたかったんだよ!」
それを聞いてカームはニッコリと笑い顔を上げる。
「ふふっ、わかったわ。その気持ち、有難くいただいておくよ」
「うん、ごめんね」
「で?」
「え?」
先ほどの寂し気な顔が演技だったと自ら証明するかのようにカームはニタリと笑う。
「話してくれるのでしょ?」
「え?・・・ええっ!?」
「ふふっ、時間もお酒もたっぷり有るわよ」
「・・・はい」
ああ、これは洗い浚い喋るまで許してもらえないやつだ・・・と、レアニールはガックリ項垂れた。
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