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4-26 赤毛の騎士と殺人鬼・後編



 レアニールの足元で鋭い風切り音が響いた。


シュバッ!

「あぅっ!」


 飛び退こうとしたその瞬間、痛撃がレアニールの右足首を襲った。倒れていた場所から音も無く彼女の足元へ忍び寄ったGの手刀の一閃がそこを直撃したのだった。身体能力強化の神聖力が切れていなければ避けられたかもしれない。だがそれが切れた状態ではGの気配消し、そして速度に対応しきれなかった。

 レアニールは右足首を抱えるようにして無様に転がる。ここ暫くは痛みが走る事の無かった右足首だったが、そこへ鋭い一撃を受けたが為に忘れていた痛みが引き摺り出され、灼熱の塊のとなってレアニールを襲う。


「くぅっっっ・・・」


 早く治癒の神聖力を・・・と、脂汗を額に滲ませ精神集中を図ろうとした。そこへ立ち上がったGが愉悦に顔を醜く歪ませてゆっくりと歩み寄ってきた。その顔色は平素の物に戻っている。相変わらず口周りは鼻血に塗れていたが紫色の物体は消えていた。つまり彼の身体を侵した得体の知れない毒物も消えているということだ。

 マズい。

 このままでは・・・と、レアニールは定まらない精神集中のまま神聖力を行使しようとしたのだが・・・


『治・・・』

ガツン。

「ひぎっ!」


 神語が口から紡ぎ出されようとした瞬間、Gに右足首を、そこを押さえていた右手ごと蹴られた。


「おらっ!さっきまでの威勢はどうした!?」

ガシッ。ガシッ。ガシッ。

「うあっ、ぐっ、うっ・・・」


 Gは繰り返しレアニールの右足首を強く踏み付ける。半ば意識を失い掛けながらも這い進むように逃げようとしたレアニールだったが、数メートル進んだ所で再び右足首を踏まれた。


ガツッ。

「ぎゃっっ・・・」


 知覚できる限界の痛みを超え、レアニールは失神してしまった。うつ伏せのままピクリとも動かなくなった彼女の腹部をGは蹴り上げる。それを受けて仰向けに転がるレアニール。


「ぅぅっっっ・・・」


 違う場所への痛みを受けた為に意識が朧気ながら戻る。だが右足首の痛みに支配された身体は全く動かせない。そればかりか精神集中も妨げられ神聖力の行使も出来ない。

 Gは仰向けに転がしたレアニールの身体へ馬乗りとなる。そしてその口元へ甘ったるい異臭を放つ布切れを押し付けた。

 

「ふぐっ?」

「お仲間で出来なかった仕上げをお前でやってやるぜ。目覚めるのを楽しみにしてな」

「うーっ、うーっ・・・っ・・・」


 血塗れの口元を醜く歪めたGの言葉を聞きながらレアニールは意識を・・・失わなかった。先ほど行使した『耐性強化』のおかげで麻酔薬に抗い意識を繋ぎ止める事ができた。ただ幾ばくかは彼女の身体に効果をもたらした。麻酔薬の影響で右足首の痛みが僅かではあるが弱まってきた。


(も・・・もう少・・・し・・・)


 この痛みがあと少しでも弱まれば精神集中を妨げなくなるだろう。レアニールは意識を失ったフリをしてその時を待つ。

 彼女の身体へ馬乗りになっていたGは動きが止まったのを見てそこから退く。そしてレアニールを切り刻む為の道具を取りに馬車へと向かったようだ。暫くするとアレックスの悲鳴が聞こえた。


「や、止めてくれよ!何するんだよ!」


 音と気配から察するに、どうやらGはアレックスをレアニールの近くへと引き摺ってきたようだ。自分を切り刻む様子を近くで見せようというのだろうか?と、レアニールは抵抗の声を上げ続けるアレックスに申し訳なくなる。


(ごめんね・・・私がヘマしちゃったばっかりに・・・)


 それを止めさせたい。だが確実に神聖力を発揮する為にはあともう少し我慢しなければ・・・と、その衝動を押さえ付けるレアニール。

 そこでGが先ほど口にした言葉を思い出した。カームだったら自分は死んでいたと。そうだ、最初から殺す気で挑まなければならなかったのだ。


(姉さんに「殺す気でやれ」と言われていたのに・・・私って何処かで一歩引いてた。そんな生温い心構えだったからこの体たらく・・・今度はやってやるわ!)


 予備的に精神を集中してみる。ようやく全力で神聖力を行使するに足るだけの条件が整ったようだ。後はその機会を待つのみ。今、Gはアレックスを掴んでいる。行使しようと目論んでいる神聖力、『神の御手』を行使したらGばかりでなくアレックスも吹き飛ばしてしまう可能性が高い。Gが手を放すのを待つしかない・・・と。

 その時、Gが良い事を思い付いたかのように楽しそうな声をアレックスに向けた。


「そうだ、アレックス君。君に女を教えてあげようか」

(は!?)


 この男、何を言って・・・まさか私を犯させる気なの?と、そこでレアニールは気が付いた。きっと、アレックスに私を犯させた後、目の前で最初の経験の相手を斬殺するつもりなのだろうと。Gは彼の心をボロボロにする気だということに。


(なんてヤツなの!)


 目の前で彼の両親を斬殺しただけでは飽き足らず、まだ傷つける気なのかと怒りが沸き上がってくる。

 Gはレアニールの両脚を足先で開かせるとその間にアレックスを引き摺ってきた。そして俯せに転がす。彼の眼前にはレアニールの股間があった。


「な、何をするんだよぉ・・・」

「大丈夫、おじさんに任せておきなさい・・・ふっふっふっふっ・・・」


 薄ら笑いをしながらGはアレックスをゆっくりと引き摺る。そしてあろうことかその顔をレアニールの股間へと押し当てた。


(くうっっっ・・・後で覚えてなさいよ!)

「むーっ!むーっ!むーっ!」


 股間でもぞもぞと動くアレックスの感触に悲鳴を上がりそうになるのを押さえ込む。早く機会が巡って来いと焦れる。そこでGはレアニールが纏うコートの前面を、釦を引き千切るようにして開けた。それは両手を使わなければ出来ない真似・・・つまり、彼の両手はアレックスから離れたという事だ。

 待ち望んでいた機会にレアニールはカッと目を見開く。衣服を剥ぎ取ろうとまるで覆い被さるようにしていたGと目が合う。

 そのGへ向けて右手を突き出し全力で神聖力を行使した。


『神の御手!』

ドォーン!

「おぅわっっ!?」


 全力で放った神の御手、その反動でレアニールの右手は弾き飛ばされる。そして背中が地面にめり込むような錯覚に彼女は囚われた。

 そして全力でその衝撃を喰らったG、覆い被さる位置から慌てて飛び退こうとしたが為に彼は垂直に限りなく近い斜め上方へと打ち上げられ・・・


ゴンッ!

「ぐげぇ!」


 彼は張り出していた木の枝に頭から突っ込んだ。頭をめり込ませるようにしてその枝をへし折ったG。そして折れた木の枝と共にレアニールからさほど離れていない場所にドサリと落ちた。

 ヘルメットが無かったから即死だった。






今回も読んで頂きありがとうございました。

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