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4-24 赤毛の騎士と殺人鬼・前編



 遂に降りだした雪の中、レアニールはルゥーイン旅館で借りた馬を操りバーツン川沿いを東へと駆けていた。顔に当たる雪、そして寒風が冷たかったがそれを無視して視界の中に映る『探索』の神聖力が示す光点、その位置と動きに集中している。



 ルゥーイン旅館の1人息子であるアレクことアレックスは事件直前に帰宅していた。彼は父親と母親が惨殺されるのを目撃した。いや、させられていた。最初に殺されたのは主人、次に女将。それを彼は見させられていたという。旅館の中に彼の姿は無かった。Gが連れ去ったのかもしれないと、レアニールは『探索』の神聖力をアレックスが着ていた中等学校の制服や帽子にコート、ブーツに用いた。するとその反応は遠く東の方向へ遠ざかりつつあるのが確認できた。

 

「息子さんを探しに行きます!」


 自分の身分を明かしルゥーイン旅館の主人と女将にフィオラーノ連邦大使館へ、手早く書いたカームへの手紙を託す。主人はすぐに大使館へと走ってくれた。そしてレアニールは親衛隊第2部門軍警察が到着する前に追跡行へと出た。

 少年趣味であるGがアレックスを殺害するとは思えなかったが、両親を目の前で殺されるという凄惨な体験をした彼を早く助け出してやりたいと思った。それに彼が今身に着けている衣服を剥ぎ取られる恐れもあった。そうなると『探索』を用いた追跡は不可能になる。悠長に構えている時間は無いと思った。Gの力量は解らない。だから自分1人で立ち向かう真似は避けるべきだと考えている。彼を追跡し応援の到着を待って対処すべきだと、レアニールは今の時点では常識的に考えていた。

 夫妻を救護する際に血で汚れた手袋やコートにブーツはリネラ神の神聖力である衣服を綺麗にする『洗浄』という物を、厩へ向かう途中でこっそり行使して汚れを消していた。さすがに血塗れの女が馬で走っていたなど、悪目立ちの上に通報案件である。


(姉さんの前でストゥーム神の神聖力を使ってからタガが外れたみたいに使っているな・・・注意しないと駄目だね)


 必要にかられたからとはいえ、他神の神聖力を昨日から使い過ぎた。頼り過ぎるとしっぺ返しを喰らうかもしれない・・・気を引き締めなければと、馬を駆けさせながらレアニールは思った。


*****


 時刻は16時になろうとしていた。辺りは暗さが増してきた。雪の降り方はさほど強くならなかったが視界を悪化させるには充分だった。現在、バーツン川南岸に沿って帝国内のシュタインス、ギルダーを経てルファール王国へと至る街道を東へと進んでいる。帝都へ向かう者とはそれなりにすれ違うが逆方向、つまり進行方向へ向かう者は少ない。この時間に東へ向かう者は近郊の町や村へ向かう者程度だ。次の宿場町へと日没までには辿り着ける時間ではない。東へ向かう商人や旅人がもしいたしたら、冬の野宿を敢行する物好きくらいだろう。

 街道上には薄っすらと積もった雪に人間の足跡、馬の足跡、それに馬車の轍が残されている。30分ほど前に帝都外縁を出た頃は新たに降り積もった雪でぼやけていたそれらの痕跡がはっきりとした物に変わっていく。実際、『探索』の神聖力で捉えている光点も大きくなっている。逃走を図るGとの距離は確実に縮まっていた。

 夫妻から聞いた話ではクラークスと名乗っていたGは自分の荷馬車でメキアを訪れていた。魔導機関の補助動力付きかどうかは解らなかったが、1頭牽きであるから積雪状況からして移動速度は間違いなく馬より遅い。充分追い付けると思っていた。現に彼我の距離は1キロを切っていた。見通しの良い直線などで、今のように雪が舞っていなければその姿を肉眼で捉えることも出来るだろう。相手も移動している限りはアレックスが害される事もないはずだと、レアニールは馬の速度を落とし間隔を保つことにした。そう思った矢先、捉えていた反応が右へ急激に曲がった。


(ん?脇道へ入った?)


 直線に近い線形の街道だからそう思えた。確かにそのまま街道を進んでいくと脇道へと曲がった馬車の轍が残っていた。その先は緩く左へとカーブしつつ針葉樹の森へと入っている。自分もそちらへ曲がろうかとしていると視界の中で『探索』による反応が、その森の中で止まった。


(時間からして野営でもするのかな?間違いなく次の宿場町へはたどり着けないだろうし)


 身を潜めつつ接近を試みようと脇道に入るレアニール。その前に分岐の道端、その雪原に馬上から『神の御手』を2発、かなり弱めの威力だがそれぞれ強弱を着けて撃ち込む。


ボボフッ。


 乾いた音を立てて雪面が2か所、斜めの射入角で抉られる。カームなら、この目印に気が付くに違いないと付けたものだった。

 森へ入ったレアニールはしばらく進んだ所で馬を降りる。その辺りの木に馬を繋ぐと反応を目指して徒歩で近付いて行く。針葉樹の森の中は常緑の葉に遮られたように雪が殆ど積もっていない。もう少し冬が進めばここも雪に閉ざされるのだろうがまだ先の話だ。それよりも暗さが問題だった。


(他神の神聖力に頼り過ぎたら駄目だと思ってたのにね・・・)


『星明りの目』

『狼の耳』


 小さく溜息を吐くとレアニールはストゥーム神の神聖力である夜間視力の強化を、どうせ使うならやってしまえとばかりに聴力強化もとまとめて行使する。途端、昼間のように鮮明な視界を得られる。


(実際は同じ、ウェルフトー様の神聖力だと思うし・・・ううん、それは詭弁だよね)


 あっさりそれを使った自分を弁護するように自説を持ち出した。いや、それよりもGへの対処が大事だと、現状に必要無い思考を弄ぶ贅沢を止める。反応までは300メートルを切っている。枯れた下生えを踏む音を立てないよう、ゆっくりと慎重に進んでいく。5分ほどの時間を掛けて40メートルまで接近した。腕時計を見れば17時手前、明かりや今用いている神聖力がなければ森の中で視界は得られない時間となっていた。もちろんレアニールの視界にははっきりと、道沿いのちょっとした広場に幌付きの荷馬車が止まっているのを捉えられていた。その横、火が焚かれ傍らには火勢を上げる男の姿が見える。その隣には両手両足を縛られたまま敷物の上に横たわるアレックスの姿も有った。彼らの上には簡易な天幕が馬車の側面から張られている。どうやらこの場で野営をするようだ。


(見た限りGとアレックス君だけみたいね)


 そのまましばらく様子を伺う。Gとアレックス以外の人影はない。この距離から見てもルゥーイン旅館でクラークスと名乗っていたGの姿は変装だったのが解る。今見えているのは、髪の色は汚れたような印象が強い茶色がかったグレー、かなり細面の男だ。

 火勢が安定した所でGはアレックスの直ぐ隣に座る。そして縛られたままの彼を抱き寄せるとその股間を弄りつつ、意識が無いままの綺麗な顔をベロベロと嘗め回す。そしてあろうことか貪りつくようにして彼の唇を奪う。


(ふざけんな・・・何てことしてるのよ・・・)


 Gの淫行を止める為に飛び出したい衝動に駆られる。だが増援が来るまでは手出しをするべきじゃない。レアニールは両の拳を握り締め歯ぎしりしながらその衝動を押さえ付ける。


(我慢しなければならないのは解っている。解っている・・・でも!)


 するとアレックスが意識を取り戻した。


「んあっ・・・んんっ・・・あっ!?な、なんだよ!うわっ!?」


 自分の顔を嘗め回す男に驚き意識を一気に覚醒させたアレックス、逃げ出そうとしたものの両手両足を縛られていたが為にバタリと地面に倒れた。そのまま、まるで芋虫のように逃げ出そうと藻掻く。 

 Gは無言のまま縛られたアレックスの足首を掴むと自分の元へと引き摺り戻した。


「離せよ!離してくれよ!」


 縛られた身体を捩って抵抗するアレックスだったがGはお尻を突き出すような形に彼を転がす。そして彼が履いていたズボンをゆっくりとずり降ろしていく。


「何するんだよ、止めろよ!止めてくれよ!」


 たまらずパニックを起こし泣き叫ぶアレックス。それを見てレアニールは反射的に立ち上がった。


「下衆野郎・・・」


 もう我慢の限界だった。増援が来るまで手出しはしないと自分に言い聞かせていたがもう無理だ。レアニールは立ち上がると2人の方へ全力で駆け込んだ。


「止めろクソ野郎!」


 最近では口にしない下品な言葉が思わず口から出る。もちろんそんな言葉が自分の口から出たなんてレアニールは自覚していなかった。


『耐性強化』

『狼の敏捷』

『熊の剛力』


 だが走りながら早口で行使した3つの神聖力は明確な意思を持って行使したものだ。ウェルフトー神とストゥーム神、それぞれの神聖力は単独でGと対決する為に必要なものだとレアニールは判断した。

 彼女は気付いていなかった。少々頭に血が上った状態、しかも半ば直感で唱えたストゥーム神の神聖力をウェルフトー神語で唱えていたことを。だが本来とは異なる神語を唱えたにも関わらず、それらの神聖力は確実に効果を発揮し始めていた。






奇数日更新の法則に従い次話は明日の正午更新となります。


*************************


今回も読んで頂きありがとうございました。

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