4-16 同類
レアニールはファンラインと一緒に馬車へと乗り込み現場を離れた。
自分を襲撃したのがウェイバー伯爵の部下だったことから安易に断定することが出来なくなった今回の件を話ながら。つまり、彼の個人的な復讐なのかそれともルファールへの協力なのか。
「とは言え、ウェイバー伯爵にしてみれば一石二鳥、どちらも有り得る・・・ってことだよね」
「ああ、そのとおりだね。だけれどヴァンデガル少佐を殺害しようとしたルファールの工作員と直接繋がっているかは怪しいと思うよ」
「それは・・・親ルファール派の中で彼の発言力が低下しているからよね?」
「そのとおりだしレアへの復讐は彼個人の手でやりたかった・・・ってのもあるだろうね」
「うわーっ・・・」
復讐という言葉を聞いて心底嫌そうな声を上げたレアニールは閉めていたコートの一番上の釦を外す。第5部門公用の馬車は魔導機関の余剰出力を用いた暖房が付いていた。先ほどの風が当たらないだけ外よりはマシだった馬車と比べれば室内は南国のようだ。
この後はどうなるか?もちろん親ルファール派は妨害工作を継続するだろうけれど・・・
「うーん・・・釣りでもする?」
「釣り針を垂らすにしてもエサが必要だよ?」
腕を組んで上目がちにレアニールを見つめるファンライン。
「それなのよね・・・私がエサになるにしても1回撃退しているから警戒されるよね」
「そうだね。じゃあどうする?」
頭の後で手を組み天井を見上げるレアニール。
「彼ら・・・親ルファール派の方々と接触できないかな?」
「明後日、軍の年末パーティーが有る。一応、懇親を図るって名目のやつが。佐官以上か爵位持ちってのが出席条件だけれど、レアも出席の権利が有るよ」
「はぁ・・・パーティーって苦手だけれどそれに出るわ」
夜会服、確か持ってきていたはずだよね・・・と、レアニールはため息を吐きつつ力無く笑う。最初から最後まで芝居を続けなければならない事が容易に想像できる、本音で言えば出たくないパーティーだ。
「ご愁傷様。じゃあ出席の手配をするよ。それで俺も出た方が良い?」
「ん?・・・と言う事はレイニーも出席権利持っているのね。だったら私だけ出させるって選択肢は有るの?」
「ははは・・・無かったね」
あなただけ逃げないでねと唇を尖らせたレアニールにファンラインは逃げる気満々だったのか小さく頭を掻いた。それを見てクスリと笑ったレアニールはパーティーの情報を尋ねた。
「覚えておくべき親ルファール派の重要人物は?」
「陸軍大将のテオドール・ロフ・モルトケ伯爵、同じく陸軍大佐のカーリー・ロフ・バトラー子爵、彼ら2人と近しい存在の親衛隊第3部門少佐のエルベ・ミューラー。レアもご存知のウェイバー伯爵は今日の一件で更に発言力が低下したかもだな。現在バトラー子爵が親ルファール派の実質的な筆頭・・・だと思われている」
「うーん、各種工作の実行を手引きしているとなると・・・そのメンバーからしてミューラー少佐?」
「ご明察・・・って言いたいところだけれど、断言するにはまだ材料が足りていない。とにかくミューラー少佐は尻尾を掴ませてくれないんだ」
「やっぱりそうか・・・仕方ないね」
大使館に戻ったらこの3名の情報を確認しようと思うレアニール。そうした資料も用意されているだろう。自分の任務上、重点的に調べなければならないのはミューラー少佐だと思われる。ただし、ファンラインが断言できないと言うからには周到に尻尾を隠しているのに違いない。
今確認すべき事は以上だろうか?今度こそ大使館の近くまで馬車はやって来ていた。そろそろ降りる準備をしようかと、その時ポケットの中に拾ったスタンガンが入ったままだという事を思い出した。
「そうだ、これを渡しておくよ。彼らが私に使った物だけれど」
「これは・・・スタンガンってやつか」
忘れていたとばかりにコートのポケットからスタンガンを取り出すとファンラインに向きを変えてから手渡す。それを受け取った彼はためつすがめつしながら本当に効くのか疑わし気に首を傾げる。そして・・・
「本当にこれで麻痺するのかね・・・(バチッ!)おわっ!」
まるで無思慮に自分の左手に先端を当てると躊躇なくスイッチを押した。瞬間、小さいながらも痛そうな音が馬車内に響く。
「ちょ、ちょっと、何やっているのよ!」
ファンラインのまさかの行動にレアニールも慌てた。
当のファンライン、座席からずり落ちレアニールの足元で白目を剥いてビクンビクンと身体を震わせている。
「信じられない・・・『治癒』」
レアニールは向かい合わせの座席の間、その狭い空間に自分の足元を圧迫するように落ちて嵌ったファンラインへ治癒の神聖力を行使した。麻痺を解く神聖力も有ったが、それ以外のダメージも身体に負っていたら・・・と思って治癒にした。
いつもの自覚無し規格外の治癒万能論とも言うが。
「ゴメン、ちょっとした出来心で・・・それにしてもレアの神聖力って凄いね」
レアニールに助け起こされながら申し訳なさそうに言うファンラインだったが、彼女の神聖力に感心したようにスタンガンを押し当てた左手を動かす。
「・・・レイニー、まさか私の能力を試した?」
秘匿しているわけではなかったが、メキア側の人間の前では殆ど神聖力を行使していなかったレアニール。まさか能力を探る為の行動だったのかとファンラインを軽く睨む。
「それは違う!断じて違う!個人的にはレアを騙す真似は絶対にしないと決めたから。その・・・本当に麻痺するほどの物なのかなぁ・・・って興味が勝って」
ファンラインは慌てたようにレアニールを試したのではないと否定する。そして「実験」に及んだ理由を小さい声で、恥ずかしそうに言った。
「もう・・・解ったわ。信じるよ」
レアニールはそれを聞き小さく息を吐き出す。
(それにしても・・・気持ちは解らないでもないわ。私も効果を実見していなかったら自分に試していたかも・・・ううん、間違いなくやってた。レイニーに文句を言う筋合いなんてなかったわ)
そして、同じ状況なら自分もやらかしたに違いないなと、複雑な笑みを浮かべた。
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