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4-12 馬車



 時刻は17時を回っていた。オボワノール大佐のフリをしたクルスガンナーとの面会後、ファンラインたち第5部門のメンバーと今後の捜査について打ち合わせをしていたらこの時間になってしまった。


(思いの外、長居しちゃったな。待たせたよね・・・)


 迎えの為の大使館の馬車は16時半に皇城裏側の副馬車寄せへと来るように指定していた。親衛隊本部を出たレアニールは急ぎ足でそこへ向かう。廊下の窓から見えた外は既に暗くなり、空からは小雪が舞うように降ってきている。


(うわぁ、寒そう。申し訳ないことしちゃった)


 せめて途中で馬車へ先に戻るように伝言を頼めば良かったと、議論に熱中していた自分を心の中で叱りつけながら急ぐ。そして副馬車寄せへとコートを羽織りつつ出てきたのだが・・・


(あれ?馬車がいない?)


 着いてみるとそこには馬車がいなかった。先に帰ってしまったか、それならそれで仕方ないかな・・・などと一瞬考えたが辺りを見渡して首を傾げる。


(ん、人が多い?もしかして馬車待ちの人たちかな?)


 副馬車寄せ、表側の主馬車寄せに比べれば小さなポーチの下には防寒着を着込んだ10人ほどの待ち人らしき人影があった。整然と・・・というわけではないが列を成して並んでいる。

 何か有ったのだろうかと、レアニールは列の最後尾に並んでいた皇城勤めの事務吏員らしき女性に尋ねた。


「失礼します。馬車が来てないようですが何かありました?」

「はい、城近くの交差点で馬車同士の多重事故が発生したらしくて、渋滞が起きていて馬車がやって来ないって話です」

「そうでしたか・・・教えていただきありがとうございます」


 という事は自分が頼んだ馬車もまだ到着していないということか?と、レアニールはその待ち列に並ぶことにした。皇城正面の主馬車寄せには待合のロビーが有るようだがこの副馬車寄せには無い・・・というのは2列ほど前に並んでいる者たちの会話から聞き取った。


 並び初めて5分ほど経った。レアニールの前方、すでに結構な時間を待っている人々は足元がかじかむのか足踏みをしたりしている。寒さに慣れているメキアの人々ですらそうなっている。


(じんわりときちゃっているか。靴下くらい重ねてくれば良かったな・・・)


 レアニールもその足踏みの集団に加わる瀬戸際にきていた。彼女が履いていた第1種制服用の白いブーツ、防寒性という点では少々頼りないものだった。それはタイツも同様だった。せめて対策をしてくれば・・・とは思ったものの、こんなアクシデントに巻き込まれるなんて思っていなかった。それはレアニールの前方で足踏みをしたり身体を温めるようにゆらゆらと揺れているメキアの人々も同様なのだろう。

 足元、ブーツの爪先へと視線を落としかけたその時、ポツポツと馬車がやって来始めたのが見えた。再び視線を上げて見てみると先頭の馬車にはフィオラーノ連邦の国籍表示が付いている。迎えに来た大使館の馬車だった。


「ニューロス大尉殿、いらっしゃいますか?お待たせしました、こちらの馬車にお乗りください」


 2頭立ての馬車、その御者台から呼ばれた。往路とは違う御者と馬車だった。客室は小型で定員は2名といったところか。先に並んでいた人々にお先にすみませんと会釈をしつつ、レアニールはその馬車へと乗り込む。


「事故現場を迂回しますので少々時間が掛かりますがご容赦ください」


 レアニールが乗り込んだ客室、その扉を閉めつつ御者の男が申し訳なさそうに言う。


「大丈夫ですよ。あなたもお疲れ様です」


 軽く笑みを浮かべて御者へ労いの言葉を掛けつつレアニールは座席に座った。扉が閉められ程なくして馬車は出発した。皇城裏門から出た馬車は完全に夜の帳が降りたメキア帝都を進む。往路とは異なり小型で暖房器具の無い馬車、客室内でも吐く息は白い。神官騎士団の白い革製コートの首元まで閉めたレアニールは座席に浅く腰掛け、冷えた身体を温めるように身体をさする。


(外気に当たらないだけマシだな)


 実際、吹きさらしの外にいるのと比べれば、例え暖房無しだったとしても雲泥の差だった。手袋を脱いで指を数度屈伸した後、ブーツの上から爪先をさすりながらレアニールは先ほどの第5部門との打ち合わせを思い出していた。


(内通者か・・・)


 マリアージュ殺害未遂の他にも各種妨害工作が行われている。メキア帝国内の親ルファール派、そしてルファール王国が行っているのは間違いないだろう。だが第5部門はフィオラーノ連邦側にも内通者がいるのではないかと言ってきた。

 それを聞いてレアニールは特段意外な話ではないと思った。国益に反する行為を働く者は少なからず存在している。いや、もしかしたら彼らはそれが国益に繋がると思っているかもしれない。それはともかくとして、それらを摘発するのが自分の仕事であり神官騎士団の任務の一つだ。問題なのはそのレベルである。小物なんて気にはしない。そう言うと語弊が有るけれど、対処は楽だ。厄介なのはそれが予想外の大物だった時だ。


(現在、表立ってメキアとの条約締結に反対していた閣僚や各軍の高級将校はいなかったはずだけれど・・・)


 もちろん、裏で誰が何をやっているか全てを把握しているわけではない。だが自国の上層部に該当者はいないとレアニールは判断していた。

 いたとしても下級官吏やせいぜい佐官レベルまでだろうな・・・特に根拠は無いがそう思っていた。だとしたら現在は放置していても構わないかもしれない。と言うより、現在メキア国内に滞在しているフィオラーノ側の人間で、そうそうあちらの都合が良い人物がいるとは思えなかったというのもある。それでも大使館へ戻ったら名簿などを確認するかな・・・という程度は考えている。


(あ、でもその辺りは姉さんたち神殿警護隊が調査済みかも)


 カームに会ったら確認しようと考える。もちろん大使館に戻っても彼女に会えるという保証はなかったが。


 結局、今日の皇城訪問はファンラインたち第5部門との打ち合わせが一番の実りであった気がする。それ以外、特に正体を偽ったクルスガンナーとの面会は疲れただけで大した収穫もなかった。せいぜい知己を得た程度だ。


(いやいや、アレで知己を得たって都合が良すぎる考えだよね)


 浮かんだ考えを打ち消しつつ、それでも後々これが役に立てば良いけれど・・・などと、レアニールは白く曇った窓ガラス越しに帝都の街並みを見て思った。






この世界の馬車、客室が小型の馬車だと暖房器具はスペースの制約で積まれていない事が殆どですが、大型の客室を持つ物や補助動力として魔導機関を搭載している馬車などは暖房有りとなっています。ちなみに最高級の馬車となると魔導機関を用いた冷暖房を装備していたりします。


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今回も読んで頂きありがとうございました。

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