表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/203

4-5 メキア皇都の大使館



 暗闇迫る夕刻、メキア帝国空軍(名前は独立した軍組織だが規模としてはフィオラーノ連邦陸軍航空隊に遠く及ばない)の皇都基地に降り立ったレアニール。事前に話は付けておいてもらっているから飛竜“ベルタ”を預けるのもスムーズに進んだ。そのベルタ、自力でロザリアへ戻れる個体であるから明朝になればロザリアへ単独で戻るだろう。


 メキア皇都の天候も曇りだったが今にも雪が舞いそうな気配だ。実際、今は止んでいるがすでに根雪が積もっている。ロザリアは冬の入り口に差し掛かる頃だったがメキアは間違いなく冬のただ中にいる。


 基地からはフィオラーノ大使館が差し向けてくれた馬車に乗り移動する。30分ほどで大使館に到着した。指定された17時の10分前だった。


「どうしたんだ?」


 レアニールを出迎えた神官騎士団副団長の1人であるディディエ・ヴァンデガル大佐が怪訝そうな表情をひげ面に浮かべる。その顔だが憔悴の色が見て取れる。眠れていないのか目の下には隈が出来ている。顔色も悪い。それを見てやはりそうか・・・と、表情には出さないが陰鬱な気分になる。9期先輩で駐在武官を勤めるマリアージュ・ヴァンデガル少佐はディディエの妻だったからだ。歳の離れた夫婦だが大恋愛の末に結ばれたと、今でも事あるごとに話題にされる程だった。


「少々目の辺りが腫れておりまして・・・見苦しい物を見せるよりはこうしていた方が良いと思った次第です。明日には治っていると思いますのでご猶予ください」


 泣き腫らして赤くなった眼元を隠すために、レアニールは飛竜操縦者に支給されるティアドロップ型のサングラスを室内にも関わらず着用していた。大使館へ向かう馬車の中で濡らしたタオルを眼元に当ててそれが治まるか試してみたものの・・・視界を塞いだ途端に辛さがこみ上げてきて再び泣き出しそうになり・・・すぐに止めた。


「なるほど・・・任務に支障がなければ構わん」

「ありがとうございます」


 心が乱れているのは相変わらずであったが、ロザリアを出発する時に比べれば幾分か落ち着きを取り戻していたレアニール。泣き叫ぶ事は意味が有ったことなのかな・・・などと自己分析をする自分に嫌気が差す。

 小さく深呼吸をして気を紛らわし目の前の任務に集中しようと決めた。まず気になるところは殺害されかけたというマリアージュの話だ。出発前に詳細を知らされていない。恐らくは、情報の漏洩を懸念し敢えて詳細を伝えなかった、そんなところだろうと当たりは付けている。メキアとの条約締結が目前となった今、その情報が反対派、親ルファール王国派の利する事になるのは避けたい思惑だろう・・・と。現地で聞けとシースニアは言っていたが一体、どのような状況だったのだろう。


「それで・・・どのような状況なのでしょうか?」

「うむ、すまんがこれを読んでくれ。俺の口から説明するのは・・・」

「・・・はい」


 ディディエはレアニールの問いに封筒を取り出す。それを見るからに辛そうに手渡した。それを受け取ったレアニールは中から5枚ほどの書類を取り出して手早く目を通し・・・絶句した。


「・・・なんてことを・・・」


 その書類には事件の概要が記されていた。被害に遭った団員はやはりマリアージュ・ヴァンデガル少佐だった。

 事件が発覚したのは5日前の10月33日の未明だった。駐在武官を務めていたマリアージュがその前日昼過ぎ、到着する連邦の外交団を出迎える為に港へ向かって大使館を出た後に消息を絶った。メキア当局へ捜索を依頼しようとした所に重傷を負った彼女が運び込まれてきた。

 マリアージュの状態は悲惨という表現では追い付かないものだった。彼女は四肢を切断され、出血で容易に死なないようにとその切断面を焼かれていた。そして顔は強酸性の薬品でも掛けられたのかドロドロに融けた状態であった。

 マリアージュを運び込んだのはメキア帝都内に潜入していた連邦機関員とされていたが恐らく神殿警護隊の者だろう。彼らがその現場に踏み込み彼女を救出した。それがなかったらマリアージュは間違いなく殺されていたに違いない。犯人は機関員が突入する直前に逃亡していたという。

 変わり果てた妻の姿を目の当たりにして、だが条約締結の為の外交団の一員としての任務もあるディディエの心中を思うと胸が苦しくなるレアニール。


「少佐殿は今どちらに?」

「この大使館にいる。あんな状態だからフネで戻すことになっている」


 外部の神官や医師に診せる事は出来ず、マリアージュは大使館内の一室に隠されるようにされているとのことだった。その状態からしてメキアにいる神官や医師では対処のしようが無い・・・というのもあった。

 現在大使館には神官の資格を持った物が1人いる。外交団に随行してきた者ということだが、彼の繰り返しの治療によって容態は落ち着いているが予断は許されない。頭部を薬品で溶かされた挙句に全身の、というより残存している身体に重度な火傷を負っている。生きているのが奇跡ともいえる状態だった。

 マリアージュを治療するにはフィオラーノへ戻すしかなかった。だが今のメキアは既に冬、街道にも積雪がある状況で陸路での搬送は難しい。かと言って民間船で運ぶという訳には行かず、条約締結後に外交団を迎えに来る連邦海軍の巡洋艦を待つしかない。早くてもその出港までは7日といったところだ。このままではロザリアまでもつかどうかも怪しい・・・とのことだった。

 そうか、自分が派遣されたのは神官でもあるからなのだなとレアニールは理解した。


「・・・大佐殿、私が治療を試みてもよろしいでしょうか?」

「・・・ああ、構わない」


 ディディエはその目に少しだけ期待の色を滲ませて頷く。

 神官騎士団の中でレアニールの神官としての実力を知っている者は少ない。彼にしてみれば治療の手が増えることでマリアージュがロザリアへ生還する可能性が少しでも上がってくれれば・・・と思っていた。もちろん戦巫女であるレアニールが司教としての位階を持っているのは知っている。だが彼はその本当の実力を知らなかった。

 しかし騎士団本部、団長であるシースニアは自信を持ってレアニールをメキアへ送り込んでいた。


 時は少々遡って正午前、メキアからの急報を受けたシースニアは同地へ送り込む団員の選定作業に入った。飛竜操縦資格を持っていて出来れば神官の資格を持つ者が必要だと判断した。そうなると適任者はレアニールとあと2人となる。他の2人、彼らの神官としての実力は知っていた。だが数カ月前、降って湧いたように突然司教の位階を授けられたレアニールの力を知る者は騎士団に殆どいなかった。

 神殿に急ぎ確認する事にしたシースニア。その問い合わせを受けてグラシーヌ・ヨースト枢機卿が騎士団長室に来訪した。そこでグラシーヌははっきりと告げた。


「レアの実力は本物よ。あの子の神聖力は神殿長様にも匹敵する。どんな局面にも対応できるわ」


 それを聞きシースニアは派遣するのをレアニールに決め、彼女を呼び出したのだった・・・




 一刻も早く治療を試みたいと思ったレアニールはディディエに案内をしてもらいマリアージュの部屋へと向かうことにした。そして廊下へ出た時だった。階段を駆け下りてきた大使館の職員がディディエの姿を見つけ駆け寄ってきた。


「大佐殿、早くおいでください!奥様の容態が・・・」






レアニールが掛けているサングラス、俗に言うところの「アビエーターサングラス(パイロットサングラス)」です。更に言ってしまえばオプティカル社のやつと思っていただければ(笑)



今回も読んで頂きありがとうございました。

気に入っていただけましたら★★★★★評価やブックマーク登録していただけると励みになります(^_^)

よろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ