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4-1 馬車の車窓から



 ベネル歴1412年10月37日の正午過ぎ、ケーラー島での飛竜操縦訓練を終えたレアニールはロザリア港に帰り着いた。季節はもう冬と言っても過言ではない晩秋のロザリア、海も荒れがちな日が多い時期だったが運良く比較的好天に恵まれた船旅だった。

 予定では明日の入港だったが1日早くなった。ロザリア沖には暗礁海域、消失文明時代の建造物が海面近くまで突き出しているエリアがある。航路の整備で海面下のそれらは殆どが取り壊されたりしてきたが、全て無くなったわけではない。航路を外れればそれらに座礁や激突する恐れがあり、海が時化れば航行禁止となる海域も点在する。だからこの季節では通常より1日か2日余裕を持った航海予定が組まれることが殆どなのだが、運が良ければレアニールが乗船した貨客船のようなことになる。


(さすがに出迎えは無いか)


 予定より早かった事もあるし、予定どおりだったとしても出張の帰りだ。出迎えなんてあるわけじゃないと、思わず桟橋を見渡した自分に苦笑を禁じ得ない。年中温暖な南のケーラー島では不要だった冬季用の革製コートを、新たに飛竜操縦章と降下兵章を左胸に付けた第1種制服の上に着たレアニールはタラップを渡り桟橋へと降りた。例年であればそろそろロザリアでも初雪が降る頃だ。見上げた鉛色の曇り空からは今にも・・・といった具合だが予報ではもう暫く先だと言っている。その証拠に少々寒い程度だが厳冬期に比べれば暖かいと言っても過言ではない。長期予報ではこの冬は大雪になるとのことだ。さしずめ嵐の前の静けさといったところか。


(これから本部へ戻って復命して、明日は仕事・・・明後日はお休みだな)


 陸軍仕様のダッフルバッグを左肩に担ぎ、乗合馬車の乗り場へと桟橋に溢れる人の波に従って歩きながらレアニールはカレンダーを思い浮かべる。


(この週末にジルに会う約束を取り付けて・・・ううん、この週末じゃなくて年末にした方が良いのかな・・・うーん・・・)


 そう、レアニールの意識は伸び伸びとなっていたジルス・サジャードへの告白、それでいっぱいになっていた。フォースワイア島の海岸で彼への告白を決意してから4か月以上が経過していた。

 告白を躊躇したわけじゃない、見事にジルスと会う機会が無かったのだ。フォースワイア島から戻ってみれば彼はケーラー島での訓練で不在、それなら帰ってきたタイミングで・・・と思っていたら自分も訓練でケーラー島へ、だったら南の島で告白を!などと意気込んでみれば入れ替わるようにしてジルスはロザリアへ戻っていた・・・一体何者に弄ばれているのか?と思うほどだった。おかげであの海岸での決意は揺らぎ、弱気がレアニールの心を侵食しつつあった。

 走り出した乗り合い馬車の車窓、すっかり冬の色彩へと落ち着いたロザリアの街並みを眺めていると再び先ほどまでの思考が心を満たしていく。


(私が告白なんてしたら・・・ジルは迷惑だろうか?)


 ミルニアでの「ブス騒動」、その最中からその思いに捉われてしまっている。自分の容姿云々については既に解決していた話だが、自分の告白が彼に迷惑をかけるのでは?という思いだけが残ってしまった。

 レアニール、昔から自分の性格や容姿に対する自己評価は限りなく低かった。


(いつも無茶ばかりする私をジルは見守ってくれていた。けれどあれは幼馴染だったから仕方なく・・・だったのかもしれない)


 レアニールの脳裏にはリチェロ時代の様々な思い出が止めどなく溢れてくる。その殆どは思い付きでの行動ばかりをする自分に、仕方ないなと苦笑いを浮かべつつ付き合ってくれていたジルスの姿だった。昔から迷惑ばかり掛けていた自分、何一つ彼の為になることなんてしていなかった気がする。そんな自分が彼に告白する権利を持っているのだろうか?・・・


(ああっ、もうっ。駄目駄目、前に進むって決めたんじゃない!)


 ブンブンと首を振って弱気を払おうとするレアニール。他の乗客が何事かと彼女を見る。その視線に気付き少し赤面しつつ軽く頭を下げたレアニールは視線を再び車窓を流れる街並へと向けた。乗り合い馬車はいつしか港地区を離れ様々な商店が立ち並ぶエリアに進んでいた。そこで車窓の斜め前方、書店から出てきた金髪の大男が目に留まる。


(あれ?ジルだ)


 予想もしていなかった事に自然と喜びの色が顔に出るレアニールだったのだが、彼の後に続いて書店を出てきた女性がその腕に身体を寄せつつ抱き着いた。彼の陰になってよく見えないがジルスと同じ色合いの金髪の女性だった。


(えっ?えっ?)


 目の前で何が起きているのか、目ではしっかり捉えているのに思考が追いついてこない。自分の呼吸が止まり鼓動が早くなっていることにレアニールは気付いていなかった。そして馬車が進んでいくことによってジルスの陰になっていたその女性の顔が見えた。


(嘘っ、マヤ!?)


 ジルスの腕に抱き着き満面の笑顔を浮かべているのは士官学校からの同期、そして親友のマヤ・ラシャスであった。一方のジルスも笑顔を浮かべながら楽しそうに話をしている様子だった。彼らは通り過ぎる馬車にレアニールが乗っていて茫然とした顔で視線を向けていることに気付いていない。そのまま馬車の進行方向とは逆へと仲睦まじく歩いていく。

 その後ろ姿が見えなくなるまで、首が痛くなるほど振り返って凝視していたレアニールはいまだに状況が理解できないでいた。


「・・・な、なんで・・・どういうことなの・・・?」






第4章も奇数日の正午の更新をしていきます。が!ストックが尽きたら予定が変更になります(^_^;


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今回も読んで頂きありがとうございました。

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