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1-6 検問騒動

 陽も傾いてきた頃、4頭立ての大型馬車を4台連ねた隊商が広場へと入ってきた。


(立派な馬車だね。4頭立てで補助に魔導機関を搭載しているって事はルファール王国からかな?)


 各馬車の床下には魔導機関が搭載されている。常時それを稼働させるのではなく発車や坂道などで補助に使っているものだ。客用馬車であれば客室の空調にも使われる。

 この世界では採掘されたり人工的に精製される魔石をエネルギー源とした魔導機関が使われている。ただし、大型化にコストが掛かったりすることや衝撃に対して弱いこと、魔石の燃費が悪い関係で用途は限定的だ。レアニールがロザリアからムーサへ移動する為に借りた魔導バイクにも搭載されていた。その機関は衝撃に対して予防策を取る為に出力に対して重量が過大になっていたし途中で何度も魔石を交換する必要があった。馬で駆け続けるよりは幾分かマシ・・・そんなレベルの代物だった。400年前に高度な科学文明が滅んだこの世界においてかろうじて一般人が使える動力機関は制約の多いものだった。



 馬車の群れはレアニールの目の前にゆっくりとブレーキを軋ませながら止まった。4台の馬車の側面にはイアラ商運の文字と社門が描かれている。商会などの隊商ではなく運送会社だったようだ。レアニールはベンチから飛び降りるようにして立ち上がると2人が座る先頭の馬車の御者席へと歩み寄った。


「こんにちは、立派な馬車ですね」


 レアニールは微笑みを浮かべ努めて朗らかに話しかけた。すると御者席の右側、レアニールから見て反対側に座った男が応じてくれた。左側に座った相方を避けるようにして身体をずらし視線を向けてくる。


「おう、ありがとな。って、ええっ?」


 男はレアニールの姿を見て驚いた様子だった。


「おいおい勘弁してくれ、今度は神官騎士様の検問かよ」


 男は額に手を当てて天を仰ぐ。レアニールはゆっくり首を振り検問じゃありませんよと否定する。


「違いますよ、立派な馬車だと思って話掛けただけでしたが誤解させてしまって申し訳なかったです。ところで検問があったのですか?」


 レアニールはベレー帽を取ると軽く頭を下げた。レアニールの丁寧な態度に男は驚いた様子で御者席から降りその下を潜ってこちらにやって来た。


「そうですか、いやいや、こちらこそ失礼しました。今朝マーノを出てから・・・2時間くらいだったか?おう、地図」


 男は恐縮したように頭を何度か下げると御者席の相方に地図を出させた。その地図を受け取った男はそれをレアニールへ見せるようにして広げる。地図には各街道の通行情報や各街の食事処などの情報が所せましと書き込まれていた。その中には街道上に赤丸が描かれ「4月1日10時に検問」と記されているものもあった。


「自分はイアラ商運のイアラと申します。えーっと、ここですね。ここで検問を受けたんですよ」


 イアラと話をしていると他の馬車からも車長(そう言われていると後でレアニールは聞いた)も降りてきて話に加わる。


「荷物も下ろしての検問なんて今まで受けたことないですからね」

「全くだ、通関証明だってあるのに事件の捜査だとの一点張りで聞きもしなかったぜ」

「あんなことされたら折角詰め込んだ荷物が壊れちまうよ」


 彼らは口々に検問への文句を言う。通常、越境してくる貿易の馬車は相手国が発行した通関証明を提示し積み荷の確認を省き必要な関税を納付する仕組みだった。そしてその証明書が有ればそうした検問があっても積み荷の確認は行われない。


(真っ当な運送会社からすればいい迷惑だったわけね。それにしても事件の捜査って何だろう?)


 レアニールは彼らに同情するような表情を浮かべながら言う。


「それは大変でしたね。私からも然るべき所へ伝えておきますが検問を行っていたのは保安隊でしたか?」


 然るべき所へ伝える、嘘は言ってないけれど本当の事も言ってない、卑怯な言い回しだなとレアニールは内心申し訳ないと思った。


「ああ、ムーサ州保安隊って言ってたな」

「そうそう言ってた言ってた!」

(場所からすると保安隊のマーノ署かな?でもその時間にそんな所で検問なんてやるかな?)


 車長たちの話を聞いていて疑問が湧いてきた。レアニールは更に話を聞く。


「荷物を全部出したとのことですが何を探しているとか言ってましたか?」

「いや、とにかく荷物を検めると言ってたぜ。目的の物が無かったか知らんけど荷台から出してお終いだ」

「そうだったそうだった!まったく、出したのなら仕舞うのも手伝えよってもんだ」

「出す時の手際は良かったからなぁ、あれならチャチャっと積み込みだって出来そうなのによ」


 怒りというほどではないが彼らの文句はまだ続きそうだった。その中から有用そうな情報を記憶しつつレアニールはクスリと笑った。


「本当ですね、お片付けをきちんとしなさいって子供の時に躾けられなかったのかしら?」


 彼女の言葉に車長たちは違いないと笑った。その時レアニールは視線を感じ、その方向を見る。保安隊のロガン駐在所の警吏がこちらを鬼のような形相で睨みつけていた。邪魔になっていたかもとレアニールは思ったが・・・


(ううん、きっと野盗の捜査を神官騎士団が取り上げた事をよく思ってないのでしょうね。でもイアラ商運の皆さんには移動してもらわないと・・・)


 あの表情はそういうことだろうと推測した。


「すいません、こんな所で止めてしまって。お話しいただきありがとうございました」


 今のところ他の交通の支障にはなっていなかったがレアニールは駐車場所へ停める前に時間を取ってしまった事をイアラ商運の面々に詫びる。それに彼らは恐縮した様子でいえいえこちらこそと慇懃に応対し駐車場所へと移動していった。それを見送った後、再び警吏へと視線を巡らすと彼の表情は全く変わっていなかった。


(あーっ、やっぱりだよね)


 レアニールは警吏から視線を外すと白鴈亭の中へと向かった。


****


「ロブ、いいかな?」


 レアニールは男性兵士に割り振った部屋の扉をノックした。中からどうぞとロバートの声がする。それを受けて部屋に入ったレアニールをロバートは窓際に立って出迎えた。


「下で運送会社の面々と話をしていたようだけれど何かあった?」


 コクリと頷いたレアニールは先ほど聞いた検問の話をロバートにした。それを窓際に立ち腕を組んで聞いていたロバートだったがレアニールの話が終わると地図をテーブルの上に広げた。


「この辺りだよね?実は1週間ほど前からこの辺りで不定期に検問が行われているという話だ。それと同じだろうね」


 ロバートがその情報を持っていたことに少しの驚きと「やっぱりね」という納得の感情を持って、ただし表には出さずレアニールは彼の話を続けて聞く。


「それも保安隊が?」

「ああ、そういう話だ」

「実際に保安隊なの?」

「と言うと?」

「保安隊が越境してきた隊商や運送会社を検問する理由が見当たらないわ。もちろん私が知らないだけって可能性も有るけれど、ウチのムーサ分駐が何も知らなさそうじゃない?何か引っかかるのよね。全ての荷物を出させる勢いだったけれど細かく検分しているようでもなかったという話だし、妙に手際が良かったというのも引っ掛かるし・・・」


 そうしてレアニールは口ごもる。話をしていて自分の思い付きでしかないことに躊躇したのだった。ロバートはそんなレアニールの様子を見てフッと息を吐く。


「こういう時は思った事を口に出してみるのも良いぜ。そうした方が考えがまとまったり正解がポンと出たりする」


 その言葉にコクリと頷いたレアニールは再び地図へと視線を落とす。


「うん・・・一週間前からでしょ・・・特定の馬車に狙いを付けているのだったら無関係と思える馬車を調べるのは相手を警戒させる。いや、あえて警戒させている?だとしたら目的は本当の目標に警戒をさせ・・・ルートを変えさせることかな?」


 レアニールはメインの街道、鉄道の線路痕だったそれをなぞると次いでマーノの南方で分岐しロガンの北方で再度合流する旧道をなぞった。


「こちらのルートへの誘導か・・・だとしたら本当の目的は検問なんてものではなく相手を襲うためのものかな」

「そうだとしたら場所は?」


 ロバートも地図を覗き込みある一点を見つめていた。


「ここかな。片側は低いけれど崖、もう片側は高低差がそんなに無いけれど川・・・」

「・・・いいね」


 レアニールが指し示した場所はロバートが見つめていた場所だった。彼は満足そうに笑った。


「え?」


 ロバートがそこを注視していた事に気付いていなかったレアニールは首を傾げた。


「いや、こっちの話。どうする?これも大尉殿に意見具申するかい?」

「うーん・・・全部はしない、かな。特定の馬車というのが何なのかも解っていないし。マーノ方面の調査を行うべきとしか言わないつもり」

「ははは、正解だと思うよ。それでも多分・・・いや、間違いなく大尉殿はいい顔しないだろうがね」


 笑い出したロバートにレアニールは困ったような顔をして頷いた。


「おっと、噂をすればなんとやらだな。大尉殿たちが到着するよ」


 言われて窓の外を見れば本隊が街の入り口へと近付いてくるのが見えた。


「ありがとう、出迎えに行ってくる」


 そうしてレアニールは部屋を出て階下へと降りて行った。

 レアニールが部屋を出て行った後、物陰に潜んでいたグレイヴの部下が出てきた。


「驚いた、まさか自分から大佐が望む方向に向かってくれるなんて」


 彼は感心したように言う。グレイヴはそれに頷くと満足気な笑みを浮かべる。


「本当だよ、思った以上に使える・・・いや、その言い方はレアに失礼だな」

「それで、彼女に手伝わせることにするのですか?」


 部下の問いに首を横に振ったグレイヴはまるでいたずら悪鬼のような笑みを浮かべる。


「違うよ、俺が彼女を手伝うのさ」





今回も読んで頂きありがとうございました。

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