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赤毛の神官騎士レアニール ~その女、無自覚につき~  作者: ふぁるくらむ
第2章 赤毛の騎士、最果ての島へ
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2-8 ホテル・ニュー・ヴァリトゥゴ



 6月27日の朝、島の南端に位置するシンエリオの街にレアニールはアダムらとやって来た。海岸沿いの道を馬で進んで来たレアニールたちは1泊の野営を経て到着したのだ。


 今回の問題の発端となった鉄鉱脈が発見される以前からフォースワイア島では僅かであるが地下資源の採掘が行われていた。シンエリオの街はその積出港として機能していた。元々メキア帝国軍も駐屯していたがせいぜい中隊規模の兵力だった。現在の連隊規模に膨れ上がった兵力では従来の駐屯地では手狭であった。増強された部隊の大部分は街の外に宿営地を造営して駐留させている。街は兵士相手の商売で以前より栄えているのでは?と思えるほど賑わっていた。


「久しぶりに文明を感じるわね・・・」


 馬を街の入り口で預けたレアニールたちは徒歩でその中心部へと向かっていた。非番の兵士たちが街に繰り出し通りは賑わっている。街のいたる所には彼らが羽目を外し過ぎないようにする為だろうか、憲兵たちが目を光らせている。これが夜ともなれば彼らは給料分以上の働きをすることになるのかもしれない。


「これは我が軍の兵が見たら怒るぞ。俺らには娯楽施設が無いからなぁ・・・」


 娼館まで在るのかと、玄関から通りを行き交う兵士へ手を振る娼婦を見てアダムは溜息を吐く。


「それだけ紛争が長引いているってことだよね。我が軍が島に来てからまだ半年くらいだけれど彼らは2年前からやっているし」


 仕方ないとばかりに苦笑いを浮かべるレアニール。規律を保つ為には息抜きが必要なのは間違いない。それを兵士に提供するのも軍の役割であると勿論理解している。


「ま、崇高な理想だけで戦場に立ってられる人間なんて一握りだからな」


 ボリスは軽い調子でそう言いながら別の娼館の娼婦へ手を振り返している。


「レアはどう?」


 ボリスの言葉に頷いたアダムがレアニールに尋ねる。


「どうだろうね・・・経験した事が無いから分からないな。出来れば経験もしたくない、って言ったら軍人失格なのだろうけれど」


 レアニールは自信なさげに言う。アダムとボリスはそれを聞いて笑ったが決して否定的なものではなかった。


「少なくとも戦争狂の上官よりはマシだよ」

「ああ、間違いないな」


 アダムのその言葉にボリスは笑いを大きくした。


*****


 賑わっているとは言っても離島の街だ、少し歩けば街の中心部へと辿り着く。そこに向かうよう、街の入り口で憲兵に指定された建物の前に立つ3人。そこは宿を接収したメキア軍司令部の建物だった。その宿はこの最果ての島に不釣り合いな建物だった。どういう客層を狙って建てられたか分からないが外見は小さな宮殿のような趣があった。“ホテル・ニュー・ヴァリトゥゴ”というレリーフが玄関上の壁に有る。その入り口の脇、元々設置されていたホテルの看板に代わって、この建物に司令部を置いている部隊のプレートが何個も並んでいる。その中に最近付けられたと思しき親衛隊第5部門出張所のプレートを見つけた。この建物のそこへ行けと言われていたのだった。


「ここだね・・・」


 親衛隊第5部門はメキア帝国において国外諜報を司る機関だ。最果ての島に掲げられた諜報機関の看板、その陳腐さに笑い所はどこだろうかとレアニールは思った。

 玄関脇に立つ歩哨へ敬礼しつつ3人は建物の中へと入った。入るとそこは大階段の有るロビーだった。だが立派そうな見かけとは裏腹にどうにも安普請な印象が目立つ気がした。益々どのような客層狙いの宿だったのかが解らない。


「ようこそいらっしゃいました。メキア帝国親衛隊第5部門大尉のファンライン・ヨーレインです」


 そこには1人のメキア軍人が待っていた。一般のメキア帝国軍服よりも濃い灰色である親衛隊の詰襟制服を着た20代後半くらいの男だった。


「突然の訪問の無礼、ご容赦願います。フィオラーノ連邦神官騎士団中尉のレアニール・ニューロスです」


 挨拶を交わした後、中庭の東屋へと案内される。


「なるほど、会談場所として最高の場所ですね」


 白い木製の椅子に座って周囲を見渡しながらレアニールは言う。話が漏れ伝わるのを警戒しているのだろう、元が安普請で壁の薄い宿だったから当然の場所選択とも言える。アダムとボリスは東屋から離れた庭の入り口付近のベンチに待たせている。もちろん、2人はただ待っているのではない。無警戒を装いつつ、周囲の様子を間断なくうかがっている。


「ニューロス中尉は我々に有用な情報をお持ちいただいていると予想しておりますが?」


 ファンラインは天板が丸い木製テーブルの上に両肘を付きつつ手を組むと早速切り出してきた。


「その我々が何を指していらっしゃるかで随分と変わってしまいますが」


 レアニールも同様にテーブルの上に両肘を付き軽く指を組み、正面からファンラインを見据え切り返した。そもそもメキア帝国はルファール王国と結び付きが強い。最近はルファールよりフィオラーノとの関係を重視すべきとの声も強くなっていると聞くが軍部は、特に皇帝直轄とも言える親衛隊はどうだろうか?


「ま、こういう立場の人間が口にする言葉ほど信用できないものは有りませんが、私は今回の停戦交渉が速やかに進む事を願っております。それについては上からも指示を受けております」


 穏やかな表情でレアニールを見返したファンラインは努めてゆっくりと言う。それを聞いてレアニールも頷く。上からとは随分と便利な言葉だなと思ったが、彼の独断ではないということか。即信用・・・というわけにはいかないが、これでルファール側に漏れたら漏れただ。少なくとも今の工作を止める事は出来るだろう。相手が別の手に出たらこちらも別の方法を考えるだけだと彼女は思った。


「畏まりました。そういう事であればお話しましょう。その前に確認しますが、メキア帝国軍側から越境攻撃はしていませんよね?」


 分かり切っていた事だが念押しとばかりに聞く。


「そういった行動は禁止されております」


 軽く口元に笑みを浮かべてファンラインは答える。


「そうですよね・・・それはリオビオ王国側も同様でしょうけれども、越境してきた兵力の撃退、それは両軍で発生している話です」

「そのとおりですね。私がこの島に看板を携えて渡って来たのは3日前でして、ニューロス中尉からお持ちいただいた話についてもある程度予想はしていたのですよ。それがあっての派遣でしたので」


 それはそうだなとレアニールは思った。そろそろバレる頃合い、ルファール側の工作もアプローチを変えるタイミングが近かったのかもしれない。

 レアニールはファンラインに今まで発生した小競り合いについて、それと自分が目撃したものについて情報を伝えた。


「ニューロス中尉が目撃されたという部隊、数名の負傷者を出したものの任務続行に影響無しという事で引き続き前線に配置されています。これからその部隊の視察へ向かいますが、どうです?よろしかったら同行されますか?」


 レアニールの話に頷いたファンラインは満足気な笑みを浮かべると視察への同行を提案してきた。


「・・・折角のお誘いですが遠慮しておきます」


 一瞬同行の誘いに乗ろうとしたが思い直したレアニールはやんわりとそれを断った。そうだった、目立たないようにするのだったと今さらながら思い出したのだ。もちろんそれも有ったがファンラインに同行する事によって、ルファール王国の工作を暴いたのはフィオラーノ連邦だという事にされかねない。例え半分事実だったとしてもメキア帝国の良いように利用される可能性がある・・・と彼女は踏んだ。ただし、それについては既に手遅れだったのだがレアニールはまだそれを知らない。身を持ってそれを知るのは数日後のことだった。






今回も読んで頂きありがとうございました。

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