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1-3 ロバート・リード伍長

 ムーサ分駐所を出発して3時間、今日の宿泊予定としていた街へと一行は近付いている。そのまま直進すればあと1時間もすれば到着するだろう。レアニールはムーサ周辺の地図を思い浮かべつつ、路傍の距離標を見てそう思っていた。だとしたら、そろそろ宿泊場所への連絡の為に先行を出す頃合いか?いや、この規模の部隊だったら不要かな?それともまだ時間が有るから、この先の分岐を右折した方向にある野盗が発生したという現場を経由するのかな?そう思案しているとアンガレクが不機嫌そうな顔で振り返ってきた。


「おい新人、先行して宿と調整付けてこい」

「承知しました大尉殿」


 レアニールは敬礼すると馬の速度を上げてアンガレクを追い越した。


「まったく、これくらい言われる前に動けってんだ」


 その時小声だったがアンガレクの悪態がしっかり聞こえた。レアニールはそれを聞こえなかった素振りで隊から先行して行く。もちろん気分の良いものではなかった。それが無意識の内に馬を全速力で駆けさせていた。するとレアニールの後ろから1人の兵士が馬の速度を上げて追いかけてきた。背後で感じたやり取りだとバーンズ曹長がその兵士に命じたらしい。

 緩い曲がりを抜け、隊から見えない所まで進んだ所でレアニールは馬の速度を落とし、兵士が追い付くのを待った。しばらくすると兵士の馬が並んできた。


「少尉殿、補佐します」

「ありがとうございます!」


 横に並んだ兵士へ視線を向けレアニールは丁寧にお礼を言う。

 彼女は「経験と技能を持った兵士には階級を抜きにして敬意を払え」と、士官学校時代や神官騎士団の新人研修で学んでいた。そうした教えが無かったとしてもウェルフトー新教の教会で育ち、神官としての修行を幼い頃から積んできたレアニールは、元よりそうした対応をしていただろう。




 レアニールの実家はフィオラーノ連邦の北部、メキア帝国との国境の街であるリチェロにある小さな教会だった。養父母はレアニールに神官としての修行を積む事を強制はしなかったが彼女は物心ついた頃から、自然と修行を積むようになっていた。そんな彼女を養父であるニコラ・ニューロス神父は優しく、時には厳しく指導した。初等学校を終え中等学校に入った10歳の頃にはレアニールの神官としての実力、神聖力の行使はかなりのものになっていたのだが、彼女に神官として生きる道のみを強制したくなかった養父母は、それを彼女に教えることはなかった。

 レアニール自身も養父の教え、「神聖力は神の代理に行使するものであり、その力を誇ったり軽々しく量るものではない」を忠実に守り、自らの実力を量ろうとしなかった。その後も正式な神官としての認定を受ける事はなく、高等学校の課程を終えた15歳の頃にはロザリアの大神殿の高級神官、もしくはそれ以上の神聖力を持っていたが彼女の位は神父見習いのままであった。そしてレアニールは軍人を目指し士官学校に入学する道を選んだ。彼女が神官ではなく軍人になる事を養父母は全く反対せず暖かく送り出してくれた。




 レアニールが丁寧にお礼を口にしたことで兵士は笑みを浮かべた。伍長の階級章を付けた彼は20代半ばといったところか、一般兵士としては長いと思われるストレートの金髪、ふっくらとした愛嬌のある顔立ちだが、鍛えられた筋肉質の身体をしているのが容易に分かる。


「自分はロバート・リード伍長であります」


 彼は流れるような動作で敬礼をした。だがその敬礼の動作にレアニールは違和感を覚えた。こめかみに添えられた右手の指先、それがわずかに上下した。少々崩した敬礼の所作に見えなくもないが、その動作の中に意図的に何かのサインを紛れ込ませたかのようにも見えた。


「レアニール・ニューロスです。よろしくお願いします」


 軽く笑みを浮かべ丁寧に答礼したレアニールは改めてロバートをそれとなく観察する。着古し少々色褪せた褐色の軍服にマント、軍靴はよく手入れされているがくたびれた感が強い。頭に被っている略帽も色褪せ形も崩れている。腰に差したサーベルの柄や鞘も磨き込まれているが使いこまれた細かな傷が多い。どう見ても伍長の階級章に相応しいベテランの兵士にしか見えない。


(うーん、思い過ごしかな・・・)


 とりあえずレアニールは違和感を今は無視することにした。レアニールとロバートは馬に負担を掛けさせない程度の速度で街道を進んだ。


****


 宿泊地となるロガンの街に到着したのは隊から離れて30分ほど経ってからだった。街道沿いのさほど大きい街ではなかったがそれに不釣り合いにも思える立派な宿が一軒、それが今日からの宿泊先となる白鴈亭だった。ロバートによると宿泊の予約は3日前に自分が行ったとのこと。それもあって全く問題なく隊の受け入れ準備は整った。


「本隊の到着まであと20分かな?」


 石造り3階建ての宿、その1階の玄関ロビーで大きな壁かけ時計を眺め、レアニールはロバートに隊が到着するまでの時間を尋ねた。するとロバートは何かを察したかのように苦笑して答える。


「3時間はあると思いますよ」


 ロバートの答えにレアニールはやっぱりね・・・と、ため息混じりに頷く。


「予定を聞かされてなかったのですね?」


 コクリと頷くレアニール。それでも面白くないと思った気持ちが外に漏れないようにはしていたつもりだったのだが・・・


「よろしければ私が説明しますが?」

「ありがとう、お願いします」


 ロバートの申し出に思わず嬉しそうな笑みを浮かべて答えてしまったことで面白くないと思っていた事を証明してしまっていた。






読んで頂きありがとうございました。

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