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赤毛の神官騎士レアニール ~その女、無自覚につき~  作者: ふぁるくらむ
第2章 赤毛の騎士、最果ての島へ
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2-3 窓の外



 フォースワイア島はリオビオ王国とメキア帝国の沖にある周囲300kmほどの、大雑把に言えば楕円形に近い島だ。最大標高は300m程度で平均的になだらかな地形をしている。極地からの寒気と寒流を年中受けている為に夏場でも気温は低い。

 元々リオビオ王国とメキア帝国が島の中央付近で南北に分割しおよそ半物ずつ領有していた。資源も無く、夏場だけの漁村が点在するだけ・・・そんな最果ての島だった。

 だが10年前に島の中央付近で有望な鉄鉱脈が発見された。その鉱脈は島の中央に引かれた国境線に対しメキア側に大きくはみ出すと推定された。これに対しリオビオ側は地下資源を考慮しなかった領有協定は無効だと主張して再交渉を要求した。確かに150年ほど前の協定の中にはこうしたケースが発生した場合は協定が無効となるという取り決めが有った。当初は話し合いでの解決を目指して交渉が繰り返された。だが2年前にリオビオ側が国境線を越え、メキア側に無断で資源調査を実施したことが引き金となって紛争が勃発した。全面戦争になる事は避けたい両国であったが話し合いは混迷を極めつつあった。

 2国は今年に入ってからリオビオ王国の同盟国でメキア帝国に隣接しているフィオラーノ連邦に停戦の仲介を依頼してきた。メキア帝国は自国の軍事同盟国であるルファール王国にも停戦の仲介を依頼すべきと主張していた。だが当のルファール王国はそれを断ってきた。結果、フィオラーノ連邦単独の仲介で停戦の交渉と領有問題の交渉が本土で行われている。交渉の間は戦闘を行わないという合意もあったが、以前よりは減ったものの小規模の争いが続いている。島は戦場のままだった。


「・・・というのが今に至った概要です」


 ロンデリオの街の南、フィオラーノ連邦軍宿営地の急造りの木造小屋の中で今回到着した停戦監視団の面々は海兵隊の参謀大尉から状況説明を受けていた。学校の教室の半分ほどの部屋で10人程度が折りたたみ椅子に座り説明を聞いている。レアニールはその一番後ろ、窓際の席に座っていた。彼女は視線だけを動かし窓の外を見た。街といっても最果ての島の寒村だ。問題の発端となった鉄鉱脈の開発が進めば積出港として栄えるかもしれないがそれは未来の話だ。今のロンデリオは疎らに数軒のあばら家然とした夏季限定の番屋のような家だけが寒々と並ぶ街だった。港も整備されていない。ここまで便乗させてもらった巡洋艦も沖止め、小舟に乗り換えての上陸だった。借り上げる目ぼしい建物も無かった為、運び込んだ材料で規格が揃った木造小屋を陸軍工兵が百軒近く建てた。宿営地にはその建物が整然と軒を並べている。司令部施設はそれらの建物を数軒まとめた大型のものだっだが簡素だというのは変わらない。それでも同行の陸軍第2師団から派遣された中佐は司令部建物に入ると満足気に「大御殿じゃないか」と言っていたが。


 参謀大尉の説明は島に駐留している兵力に移っていた。リオビオ王国とメキア帝国はそれぞれ陸軍の歩兵を2千人程度島に置いている。数字だけみれば連隊規模だが両軍とも1つの連隊を丸ごと派遣しているのではなく、様々な師団・連隊から大きくても大隊、場合によっては中隊や小隊規模で部隊を引き抜き派遣させ臨時の連隊を編成している。

 それに対しフィオラーノ連邦軍は陸軍が約100人、海軍と海兵隊が合わせて約50人、それと陸軍航空隊の飛竜が2騎という陣容だった。それを聞かされて妥当な数だなとレアニールは思った。少ない数と言えば少ない数だ。だけれど任務は停戦の監視であり両軍に武力をもってそれを強制させるものではない。あらゆる手段を用いて停戦させるのではなく、簡単に言えば島内にいるだけ。両軍に存在を示すだけの任務である。


(停戦監視団とは名ばかりって感じ。ま、他に適当な名称が無いから仕方ないか)


 交渉の仲介役として積極的に関与しますよと示すため現地に軍を派遣する必要が有った・・・それだけの話だ。その中で航空隊を派遣しているのは面白いと思った。現状、偵察任務が主だったとしても影響力は大きいだろう。

 陸軍航空隊は飛竜を用いた部隊だ。飛竜、この世界ではフライヤーとも呼ばれているそれは獰猛そうな見た目に反し従順で大人しい。竜類の中では小型の部類で全長は大きくても10mに満たない。飛行速度は速いが旋回能力が低く戦闘には向かないものだった。空中戦や対地攻撃を行う事は例外中の例外であったが「空を飛べる」というアドバンテージ大きい。連邦には竜騎士団というれっきとした攻撃力を持つ空軍戦力も有るがこうした任務に投入するには強力過ぎて全く向いていない。それに運用コストも高い。それを考えれば陸軍航空隊の派遣は最適解に近いだろう。


 レアニールは窓の外へと視線を向ける。木造小屋が建ち並ぶその向こう、急造された飛行場に離陸準備をしている飛竜の姿が見えた。恐らく偵察に上がるのだろう。飛竜は離陸するために100メートルほどの滑走路が必要とされている。竜種にしかない翼付け根付近の推進翼と呼ばれる、大気中の魔素を推進力へと変換する器官によって産み出される力を用いて飛行するのだが、飛竜のそれは大型の竜と違い瞬発力が弱い。また飛竜の翼も高速飛行に向いた大きさのために低速での揚力が不足していたのも理由の一つだ。野生の飛竜は高い崖の上などに営巣し、飛び立つ時はそこからダイブするという。これが竜だと推進翼の瞬発力も強く加速に優れ、そして翼の形状もあって離陸距離は短い。推力が大きい個体ならば垂直離着陸も易々とやってのける。

 滑走開始地点に来たのか飛竜は180度向きを変えた。その鞍上、見るからに背の高い航空兵が目に入る。


(ジルだ!)


 遠く離れていたがレアニールにはそれが幼馴染であるジルス・サジャードだとすぐに分かった。既に派遣されている航空隊の名簿に、彼の名前が有る事を事前に知っていた彼女は無意識の内に彼の姿を探していた。飛竜は頭を低くすると2本脚をせわしなく動かし駆け始めた。加速しつつあった飛竜は木造小屋群の陰ですぐに見えなくなる。それから程なくして木造小屋群の屋根の向こう、ゆっくりと上昇して行く姿が見えた。


(どうか安全に、ね・・・)


 それを視線で見送ったレアニールは心の中でジルスの安全な飛行を祈った。その時コホンと咳払いが聞こえた。


「とまぁ、神官騎士団中尉がただ今見送ったように、派遣された陸軍航空隊は日々偵察任務に就いているわけです」


 困ったような顔をして海兵隊の参謀大尉がこちらを見ていた。


「あ・・・」


 気が付けば部屋中の視線が自分へと向いていた。レアニールは立ち上がるとペコリと頭を下げる。


「申し訳ございませんでした。飛竜や竜が好きなものでしたからつい・・・」


 レアニールの言い訳に陸軍や海軍の士官たちは失笑する。恥ずかし気に席に座ったレアニールは少しの間を置いてから視線だけ動かし再び窓の外を見る。ジルスが乗った飛竜の姿はすでに見えなくなっていた。






今回も読んで頂きありがとうございました。

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