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1-17 探し物はなんですか?

 4月7日、夕方近くにガブリエル商会の馬車が到着した。襲撃地点で最後に見たのとは異なりその数は2台に減っていた。


「護衛の馬車はロガンで引き返したのかな?」


 姿を消していたのは擬装していたルファール王国陸軍の馬車だった。


「アレをムーサやグロップへ入れる意味が無いしな。危険地帯も過ぎたわけだし妥当な判断だ」


 それまで交代で監視していた2人だが馬車が到着したということでカーテンに入れたスリットから並んでそれを見ていた。馬車は一旦店舗前に停まった後、到着を告げてから裏の倉庫前へと移動するのだろう。2台揃って店舗前に停まる。先頭の車長が馬車から降りると肩から下げていた鞄の中から書類ファイルを取り出し店舗から出てきた者、ガブリエル商会の中でも上役と思われる白髪の男にそれを渡した。レアニールはその書類ファイルを凝視し色や形状などを記憶に刻み込んだ。


(これで何とかなるかな?)


 この後ガブリエル商会に侵入する為の準備、その中で重要だと想定していた事が出来たとレアニールは口元に笑みを浮かべる。


「あれがレアが見ておきたかった物かい?」

「ええそうよ。あれの中身が狙っているものだったら仕事が楽になると思うんだ」


 ホッとした様子で言うレアニールにロバートは首を傾げる。


「話が見えそうで見えないのだが、あれを見ておいて何かが出来るようになるってことか?」

「うん、『探索』の神聖力を使うにしても対象を実際に見ていれば確実性が上がるからね」


 レアニールはそう言うと再び白髪の男が抱えている書類ファイルへ視線を向けた。


「なぁ、『探索』でそこまでできるのか?あれってせいぜい対象物が有る方角が解る程度じゃないのか?」


 少しウンザリとした口調でいうロバート。彼が知るところの『探索』、神官が最も使う神聖力の一つだったが、失せ物探しの依頼などで使用されている。それで得られる結果はせいぜいどの方角にそれが有るとか曖昧な物だったはずだ。


「・・・え?あーっ、そうだね、対象物のイメージが実物と離れちゃうと確実性は下がるからね。再現度が高いイメージを思い浮かべれば浮かべるほど細かい場所まで解るものだよ?」


 レアニールはまるで生徒の質問に答える教師のような口調で説明する。


「・・・ソウデスカ。細かい場所ってどの程度まで解るんだ?」


 言いたい事は分かるが、違うそうじゃないとロバートは思った。ではそう宣うレアニールはどれくらいの誤差で探索しているのだと純粋に興味も沸いた。


「そうだね。例えばリビングの本棚の後に落ちているとか裏口の扉に差したままになっているとか・・・だね」


 ほぼ誤差ゼロに近い話じゃないかとロバートは内心全世界のあらゆる神々の名前を思い出すだけ出して悪態を吐く。


「・・・あー、今まで必死こいて家探ししていたのがバカらしくなってきた。ところで、どんな物を探したりしたんだ?」

「近所の子供に頼まれてお父さんの入歯を探したり、家の鍵を無くしたというお婆さんに頼まれたりとか」

「なんたる能力の無駄遣い!」


 何でもないようにそう言ったレアニールの言葉を聞き、思わず叫ぶような声を出してしまうロバート。


「そうかなぁ・・・困っている人を助けているのだから無駄遣いじゃないよ、うん」


 その反応にレアニールは不満気な声を出す。


「レア、話が微妙に食い違っているからな・・・おや、客室に誰か乗っていたようだ」


 まるで嚙み合わない、傍で聞いている者がいたら呆れるような会話を続けていた2人であったが監視の視線は当然外していない。先頭の馬車の荷台前側、長距離を走るものならば貨物馬車でも設けてある物も多い簡易客室の扉が外から開かれ先ほどの白髪の男のほか数人がその前に並ぶ。


「随分と丁寧に出迎えたな。かなり重要な客のようだ。うん、降りてきた・・・」


 黒いコートに上下黒のスーツ。シャツだけは白だがネクタイも黒、そして馬車から降りると同時に黒い山高帽を被る。陳腐な恰好と言えば陳腐な恰好だった。ロバートはその姿を見た瞬間顔をしかめた。口元が醜く歪んでいく。


「荷物が多いね・・・あの量が全て旅の為の物だったら国外からかな?だとしたらマーノで観察した時や襲撃の時も乗っていた?」


 レアニールはガブリエル商会の者が馬車から降ろした彼の荷物に注目した。それは大型のトランクケースだった。


「先日見た時は増強された護衛の方に紛れていたかもしれんな。レアは見たことないだろうがあれは国土開発室の課員がよくやる恰好だ。本物かどうかは分からんが」

「えっ?」


 ロバートの説明にレアニールはその男を思わず凝視した。国土開発室、ルファール王国諜報部の名称だった。対外諜報を担当する森林課、そして実行部隊である河川課は目的の為ならば他国での荒事も厭わず実行する危険な集団と聞いていた。


「くそったれ、我が国の中で堂々とあの恰好をするか。ははは、舐めやがって・・・」


 ロバートは怒気を孕んだ目をしつつも笑うという器用な真似をしていた。


「でもそれを私たちにこうして見られているって間抜けじゃないの?」

「レア、国土を甘く見るなよ。連中、間抜けな事をやっていると見せかけて平気で罠を張るからな。こちらも仕事をこなすがより慎重に動かねばならん」


 ロバートはグレイヴの素に戻って諭すようレアニールに語りかける。


「はい、心に刻んでおきます」


 レアニールはその声に無意識に姿勢を正すと上官に答えるように応じた。



 国土開発室の課員は案内に従ってガブリエル商会の中へと入って行った。それと同時に店の前に停まっていた馬車が動き出し店舗裏手の倉庫へと回る。それから2人は分担して店舗と倉庫の様子を監視し続けた。


 動きが有ったのは1時間ほど経った陽が沈む頃だった。





「カ〇オ君お父さんの入歯見つかった?」

「まだみたい」


*************************


今回も読んで頂きありがとうございました。

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