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アマリージュ
「プー、プー、プー。」
渋谷のスクランブル交差点。
忙しなく行き交う人の波。一人一人の人生が、色んな方向に交差しているかのようだ。こんなにたくさんの人がすれ違うのに、慣れた様子でぶつかりもしない。
アスファルトの熱気が大気を揺らしている。日差しの眩しさを感じながら、横断歩道を真ん中ぐらいまできたその時、
「私、21歳になったの!」
まるでみずみずしいオレンジが弾けるような彼女の笑顔が鮮明に頭をよぎった。
(ジバンシィ アマリージュ)
愛と結婚を意味する言葉が合わさった名前の香水。その香りが、あの子の思い出を記憶の彼方から引き寄せた。
思わず振り向いて、あの長い黒髪を探す。
いるわけないよね。
もし居たとしたら、きっと僕はこう言うだろう。
「ごめんね、俺さ、オジサンになっちゃったね。」
そう言ったら君は、
「私だってオバサンよ!」
そう言って腰に手を当てて、胸を張る仕草が目に浮かぶ。
点滅する信号。足早に引いて行く人の波。
その甘くて爽やかな香りが消えていくとともに、僕は一人道の真ん中に、思い出と一緒に取り残された。




