それはそれ、これはこれ
「あ、そうだ。『は万の』の抹茶とろりんを買いに行こう!」
そう思い立って、休院日の今日、朝から片道1時間半かけて、青梅の『は万の』へ出掛けることにした。ここのお店の抹茶とろりんという抹茶クリームのわらびもちが美味しい。5月から9月までの商品なので、食べておきたいなと思った。
Aという医薬品卸の担当さんが以前担当していたのが青梅地区で、美味しいので食べてくださいとわざわざ買ってきてくれた。その食感と美味しさに驚き、いつか買いに行こうと思っていたので、お店の情報はSNSでフォローしていた。
担当さんは前担当さんから当クリニックシェアトップの状態で引き継いだ。しかし、ライバルにむしられるように、昨年はシェアをガクッと落とすことになってしまった。今思うと、昨年も彼が頑張って値付けしてくれていたのだけど、ライバル各社が一枚上だった。どの商売も同じなのかもしれないけど、攻める方は楽で、守る方はつらい。先に無理するか、後に無理するかの違いなのかもしれない。
だから、今年は昨年トップを取ったM社が価格が出せず、ライバルたちにむしり取られることになった。商習慣から昨年のA社がトップから陥落した時より、今年のM社のトップ陥落の方が、当クリニックの痛手も大きくなってしまった。それについては見切りが悪かった僕が100%悪い。しかしながら、そういう結果になってしまった以上、来年もM社への風当たりは強くなりそうではある。そう言うこともあって、A社、古参の地場卸(全国展開でないディーラー)のN社、T社に相見積もりを出してもらい、その穴埋めをお願いした。
そんなこともあって、各医薬品卸さんへ差し入れを入れておこうと思った。その差し入れはなんでも良かったのだけど、A社の担当さんが買ってくれたお店の酒饅頭と抹茶とろりんにした。お店に着いて、70個の酒饅頭を頼んだのだけど、個数が足りず、急いで蒸かしてもらうことになり、後から来たお客さんに迷惑を掛けてしまった。
お菓子をぎっしり車に積んでA社へ向かうと、丁度その担当さんが外にいて、こっちを確認して駆け寄ってきた。
「どうしたんですか?」
「はい、抹茶とろりん。」
「え!お店まで行ったんですか!」
「実は今年7月に行ったんですけど買えなかったんですよ。」と言っていたので丁度良かった。以前貰ってから一度もその話をしていなかったので、まさか僕が買ってくるとは思わなかっただろう。
「美味しかったから、是非、みんなの差し入れにしたいなと思ってね。」
これから他の卸さんにも持っていくんだと言ったら、びっくりしながらもちょっとうれしそうにも見えた。僕なら自分が美味しいと思ったものを、他の人が美味しいと思ってくれて、その上、違う人への贈り物にしたいと思ってくれたら、すごく嬉しい気持ちになる。だから、昨年色々と残念な思いばかりさせた彼には、ちょっとだけ喜んでもらえたらなと思った。
今回値段の出なかったトップのM社、古参のN社、万年4位のT社の4か所の営業所へ向かい、差し入れを渡してきた。ふだん、電話でしか話さないオペレーターさん、いつもお世話になっている配送さん、たまにしか顔を会わさない支店長さんと交流できる良い機会にもなる。
届け終わると、各社の担当さんからお礼の電話が一斉に入る。
義母さんに出入りの業者さんに差し入れ買ってくるという話をしたら、客が何でそんなことするの?と言った表情でこっちを見ていた。義母さんは付き合いのあるドクターや、士業の先生などにはお中元を贈ることはあっても、業者への付け届けはしないし、逆に頂くばかりが当たり前のように思っている。
しかし、実働部隊の配送さん、オペレーターさん、担当さんといった現場の人の方を実家では大切にするようにしていた。だから、ディーラーさんもメーカーさんも仕事プライベートの垣根なく、僕が子供の頃は家にみんなが晩御飯を食べに来たり、麻雀したり、飲みに行ったりとワイワイした雰囲気に包まれていた。僕もそう言った人達が身近だったから、そういう立場の人こそ、大切にしなければならないと感じる。
「偉い人はいいんだよ、いつも貰い慣れてんだから。」
そんなことを親父が言ってたことがあった。
実は昨日まで、トップのM社の担当さんにはキツイ言葉を掛けていた。A社とN社の担当さんには、その分のシェアを獲りに来てくださいとけしかけた。そうするということもM社の担当さんには納得してもらった。
会社が決定した価格と、現場の人間がする仕事は別のお話でもある。
だから、それはそれ。これはこれ。
価格の交渉は、会社の話。
みんなの気遣いは、個人の話。
だから、昨日までの厳しい話は置いておいて、いつもありがとうの気持ちと混同しないようにする。
義母さんは
「あまり甘い顔しちゃだめよ。」
とはいうものの、20代から管理職をしてきた僕から見ると、人間の心の機微がわからないのかな?と思ってしまう。もし仕事関係のしがらみが無くなったら、何の関係性も残らないように思える。
もし、今の担当さんと仕事のしがらみが無くなったとしたら。
僕は、ただの良い友達だけが残るという関係性を築きたい。




