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満開の笑顔

「あ!知らないうちにまた伸びてきた!」



台風が去った後、ベランダに置いていたサボテンの様子を見に行った奥さんの声。



「ほら、また咲きそう!」



サボテンから大きな触手のような蕾が伸びていた。ずんぐりむっくりしたサボテンなんだけど、その本体と同じくらいの大きさの花が咲く。今回は二つ一気に咲きそうだ。



「もう、Tさん咲き過ぎだよ。」



奥さんは長年育ててきたサボテンを枯らせてしまい、落ち込んでいた。その話を聞いた患者さんのTさんが、



「じゃあ先生、これ育ててみなよ。やり方は教えるからさ。」



と言って、二鉢のサボテンをくれた。Tさんに良く似たずんぐりむっくりの姿をしたサボテンだったが、貰って早々に花を付けた。



「Tさん、すごい大きな花が咲いた!すっごく綺麗だったよ!」



そう言うと、



「そう、よかったよ。」



と嬉しそうに笑ってくれた。



それから一年のうちに何度も花をつけるので、ちょっと咲き過ぎなんじゃないかと思うくらい。



ある日、Tさんはうちの診療範囲外の症状が少し悪くなって、その症状で通っていたクリニック以外でセカンドオピニオンを聞いてみたらと勧め、違うクリニックへ行くことになった。それから間もなく、Tさんの奥さんから訃報を聞いた。



「私がもっと早く気が付いてあげられたらよかったかも。」



自分の領域以外の病気で、通っているクリニックを変えさせる判断をするのはとても難しい。



「あんなに元気だったのに…。」



クリニックは、出会いと別れの交差点のようなもの。その多くの方々は、何かに悩み、来院され、良くなったり、悪くなるのを少し遅らせられたりする。大きな病気が早期発見できたとホッとされる方がいれば、元気だったのに急に調子を崩して亡くなられる方もいる。本人、家族、そして僕ら医療従事者も一緒になって喜怒哀楽、様々な思いに心を揺さぶられる。



「クリニックに来る方は、全員機嫌が悪いんだよ。その人が機嫌が良くなるのは、病気が良くなった時や、ここにきて助かったと思ってもらえた時だよね。」



僕はいつもスタッフにそう話している。患者さんと言う存在に毎日触れ、慣れてしまうとついついそのことを忘れてしまうからだ。頭ではわかっていても、我儘な患者さんにあたったりすると嫌な思いをするスタッフの気持ちも分かる。



「Tさん、もっとサボテンの育て方教えて欲しかったのに。」



まるでサボテンがTさんかのように、鉢を抱えたまま寂しそうな顔で奥さんが語り掛ける。



そんな大切な患者さんたちの思い出が、また一つ、また一つと増えていく。寂しさと切なさに、医療従事者は育てられていくような気がする。僕らこそ、Tさんに頂いたこの気持ちで、大きな花を咲かせなければならないのかもしれない。



朝起きたら、階段に置いていたサボテンは、人懐っこいTさんの笑顔のような満開の花を咲かせていた。

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